条約

第86話 条約-01

スメラ・ルキフェル条約が締結される150年ほど前、漆黒の宇宙空間で一人の兵が連絡を取ろうとしていた。


『こちら第075隊331、こちら第075隊331、本部応答願います。』

『こちら本部、どうぞ。』

『現在探査中の宙域にて人為的な電波を受信。指示を願います。』

『発信元を特定し魔法レベルを確認後、報告せよ。以上。』

『了解。』


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数百光年離れた宙域で受信した電波を追って、遂に発信元まで0.1光年(約1兆km)まで近づいた。


「あの恒星系か・・・似ているな。」


まだ詳細な映像ではないが、恒星のタイプや周囲の惑星の配置は母星によく似ていた。


「さて、念の為にもう1度電波チェックをしてみるか。」


妙な事が起きていた。

100光年の地点では様々な周波数帯で多様な通信が行われていたにもかかわらず、今回は限られた周波数帯のみが使われている。

そして、その限られた通信には際立った特徴があった。

原始的なアナログ通信と、前回と比べて飛躍的に高度化された暗号化量子通信の2種類だけだったのだ。


「どうも妙な事が起きてるみたいだな。急いで行ってみる方がいいかもしれない。」


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『こちら第075隊331、こちら第075隊331、本部応答願います。』

『こちら本部、どうぞ。』

『調査対象の惑星に到着。知的生命体と機械が戦争中の模様。』

『魔法について分かった事はあるか?』

『知的生命体の大部分は死亡あるいは植物状態と思われます。生存者には低レベル魔法使いが数%程度存在していますが、覚醒者は観測されませんでした。なお、確認できた限りでは魔法レベル*が最高でした。』

『その他に何か変わった点はあるか?』

『母星と構造が瓜二つな恒星系という事くらいです。』

『了解。閣下の指示を仰ぐ。しばらく待機せよ。』

『了解。』


衛星軌道上で待機しながら観察してみたが、戦力は圧倒的に機械の方が勝っている。

まるでじわじわと追い込んで苦しめているような布陣になっているのが不思議だった。


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『閣下、第075隊000です。配下の331が新たな知的生命体を発見しました。』

『我の戦力になりそうか?』

『残念ながら覚醒者は居ません。確認できた限りでは最高でも魔法レベル*との事です。』

『雑魚か・・・』

『はい、現在は機械と戦争中で滅亡寸前との事です。おそらく、人工知能の暴走でも引き起こしたのでしょう。』

『さて、どうするか・・・』

『詳細なデータはこちらになります。』

『ふむ・・・これは・・・』

『どうなさいました?』

『魔法レベル*の者を覚醒させよ。ただし、介入は最小限だ。覚醒後は観察を続けるように。滅ぶなら滅ぶで構わん。以上だ。』

『はっ!了解しました。』


ルキフェルは思案顔で椅子に深く腰掛けた。


「閣下、どうされたのですか?」


副官のデアフィリアが声を掛けた。


「あぁ、未覚醒の知的生命体が見つかった。最高魔法レベル*の雑魚だがな。」

「そうですか・・・その程度では使い物になりませんね。」

「だが、覚醒させる。」

「えっ?」

「これを見ろ。」

「これは太古のヘヴ星・・・ではありませんね。」

「演算してみたが、偶然である可能性は極めて低い。どういう事なのかは分からぬが、放置するのは下策だ。」

「これからどうされますか?」

「兵の一人に暫く観察させる事にした。少しでも我の戦力になる可能性があるなら、出向くつもりだ。」

「了解しました。それでは全軍のスケジュールを調整致します。」

「うむ。任せたぞ。」


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『こちら本部、第075隊331応答せよ。』

『こちら第075隊331どうぞ。』

『閣下のご命令を伝える。”魔法レベル*の者を覚醒させよ。それ以外の介入は最小限に留めるように。”だ。』

『了解。』


「さて、では覚醒させるか・・・む、殺されそうだ!」


衛星軌道から一気に地上に降り立った。


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「何とか間に合ったな。こいつが対象者だな・・・それにしても、このような雑兵にしかならん者を覚醒させよとは、閣下はどういうおつもりだろうか?」


疑問が頭を過ったが、絶大な信頼を寄せる隊長の命令とあらば遂行するのみだ。

対象者の近くに別の未覚醒者も居るが、こいつらは更に雑魚だ。

介入は最小限という命令なので、雑魚どもは覚醒しないように調整しなければならない。


「ふむ、あの辺りから奴らを潰せばよかろう。」


先程からうるさいハエ共が攻撃を仕掛けてきている。

対象者のみを覚醒させる共鳴強度を計算すると、地上から飛び立った。

ハエ共の攻撃など痛くも痒くもないが、彼我の実力差も弁えず纏わりつかれるのは不快だ。

それに対象者が覚醒したところですぐに魔法が使いこなせる訳では無いので、このままでは殺されてしまう可能性が高い。

この程度のハエ共を壊すぐらいの介入ならば問題ない筈だ。

一掃射でハエ共を叩きつぶすと、再び衛星軌道に戻った。


『こちら第075隊331、こちら第075隊331、本部応答願います。』

『こちら本部。』

『対象者の覚醒を完了しました。』

『了解。引き続きその惑星の監視を続けよ。以上。』

『了解。』

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