第79話 覚醒-04
ガシャン、ガシャン、プシューーー
「うっそぴょ~~~~ん!」
フジさんは甲冑から飛び出すと、右腕を多脚重戦車に向けて突き出した。
いや、まだ視界が完全には晴れていないのではっきりとは見えないが、レーザーキャノンのような形をしている。
危険を察知したのか多脚重戦車は再び主砲を装甲で覆ったようだ。
しかし、それは無駄な足掻きだった。
フジさんのレーザーキャノンは、特務改が削っていた装甲を貫き主砲に直撃した。
直撃を受けた多脚重戦車は硬直した。
俺がそんな隙を見逃すわけはない。
「キット、砲撃準備!目標主砲!出力最大!徹甲弾から全弾連射!」
「了解しました。」
背部ユニット上部のマウントが駆動しレールガンが右肩撃ちの位置にセットされた。
砲身先端の保護カバーが開き、照準が合うと同時にパンマガジンに残っている8発全弾を発射した。
徹甲弾が主砲を貫き、破砕榴弾が内部で破片を撒き散らし、更に焼夷弾が1,000度を優に超える炎で内部を焼き尽くした。
「フジさん!」
「あ~、何とかなったねぇ。いやぁ、為せば成るもんだねぇ。」
「大丈夫なのか?」
「主砲の威力がスペックよりかなり低かったから、何とか致命傷で済んだよ。ホントなら二人とも蒸発してるとこだったよ!」
口調はいつも通りのフジさんだ。
しかし、アンチレーザー煙幕が風に吹き流されると、いつもとは違うフジさんがそこに居た。
胸に大穴が開き、煙が吹き出し火花が散っていた。
そして、先ほどのは見間違えでは無く、右肘から先がレーザーキャノンになっている。
「フジさん・・・」
「あーあ、やっぱりバレちゃったねぇ。わたし、アンドロイドなんだ。」
「治るん・・・だよね?」
「当然、スペアパーツは揃ってるから身体は修理できるよ。」
「良かった・・・ん?身体は?」
「わたしの演算装置は人工頭脳なんだ。完全に人間の脳と同じ原理で動くやつ。」
人工頭脳・・・何となく聞き覚えがある。
俺は必死に記憶を辿った。
「あぁ、俺もシェルターにあった本で読んだ。確か救星の英雄キユ大佐が最初に開発したんだっけ?」
「そう、それの最新版!」
「でもそれがどうしたんだ?治せないのか?」
「エネルギー供給が途絶えて暫くしたらシナプスとかニューロンと同じ働きをするところが初期化されちゃうんだよ。だから、修理が終わっても記憶は戻らないんだ。」
「そんな・・・じゃあ急いでシェルターに戻るぞ!」
「んー、無理!アンドロイドだからあと何秒で初期化されるか正確に分かってるから。フルパワーで戻っても絶対に間に合わないよ。」
フジさんがあっけらかんと言う。
しかし、どことなく寂しげな表情だ。
「バックアップは?記憶のバックアップは取ってないのか?」
「取ってないよ。人工頭脳のバックアップにも情報インストール装置を使うんだけど、あれ台数少ないんだよねぇ。だからシェルターには下層にしか置いてないし。」
「ちゃんとバックアップしておけよ・・・」
「あはは。わたしは部屋から5分以内のところにしか行けないから、非常時じゃない限り下層に行くのは無理だよ。」
「記憶が無くなったら任務に支障が出るだろ!なんで上層部はそこまで考えなかったんだよ・・・」
「あー、それは対策されてるよ?初回起動の時に毎晩保存してる活動記録をまとめたパッチが当てられるから、任務遂行に問題なしらしいよ。」
「え?じゃあ、元に戻れるんじゃ?」
「体験して記憶したのと、記録された事柄を読み込んだのじゃ全然違うよ?」
確かにその通りだ。
俺が記憶喪失になって、これまでの人生の完全な記録を全て暗記したとしても、それは今の俺とは別人だろう。
「それにね・・・もし昨日の夜にバックアップを取っていたとしても、わたしはその時のわたしには戻りたくないんだ・・・」
「え?」
「変だと思わない?わたしがここに来た事・・・」
「・・・」
言われてみれば、シェルター防衛が最優先任務のフジさんがこんな所まで来て、身を挺して俺を庇ってくれたのは不自然だ。
攻撃は最大の防御と考えて最大戦力を投入したというのなら分かる。
ただし、その場合は俺を囮にして剥き出しになった主砲をレーザーキャノンで潰していた筈だ。
二人揃って蒸発するリスクを負うなど考えられない。
「人工頭脳はね、機械軍に乗っ取られない長所と引き換えに、感情っていう短所があるんだ。恐怖ですくんでしまったり、怒りで暴走したり。」
「人間と同じだからな・・・」
「だから、わたしには独立した感情抑制回路が付けられてるんだよ。」
「そうなのか・・・人間と同じようにしておいて酷いな。」
「アンドロイドに人権なんか無いからね。任務遂行の為に製造されたんだから、しょうがないよ。」
「・・・」
頭では理解できる。
しかし、心はそれを拒む。
フジさんが人間とどう違うんだ?
「でもね、人間の脳って凄いよね。どんなに抑制回路に抑え付けられても、強い想いには逆らえなかったみたい。コウを死なせたくないっていう気持ちが勝ったんだ!」
「どうしてそこまで・・・」
「あ!だいぶ非常用バッテリーが減ったみたい。」
フジさんは力なくふらつきながらしゃがみ込んだ。
「お、おい、大丈夫なのか?」
「ふふ、おかげで抑制回路への電力供給がシャットオフされたわ。」
「自由に・・・なれたのか?」
「うん、だからやっと言える。わたしはコウが好き!」
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