第51話 求婚-04

今日はシェルターに帰る日だ。

3日も経っていないが、早くナホに会いたい。

今は帰り道を急ぎながらフジさんと暇つぶしの会話をしている。


「なぁ、フジさん。」

「なぁに?ヒヒイロカネの事?」

「いや、考えても分からないだろうし、別の話だよ。」

「じゃあ、スリーサ・・・」

「そのネタはもうやった。」

「ちぇっ!」


相変わらずだな。


「いや、昨日さ、俺の特務改だと大型機でも倒せるって言ってたよね?」

「うん、その銃なら正面装甲でも貫通して破壊できると思うよ。」

「じゃあさ、特務改でも倒せない敵がいる可能性は?」

「うーん、0%じゃない・・・かな。」

「そうなんだ。」

「たぶんワンオフ機だと思うんだけど、すごいのが1機あったんだよね。」

「たぶんなの?」

「敵の最終防衛ラインだったはずの施設はキユ大佐が問答無用で地殻まで沸騰させちゃったからね。確認できたのは1機だけなんだ。」

「な、なるほど。どんな機体なの?」

「要塞攻略用の巨大多脚重戦車・・・っていうより移動要塞の方がイメージしやすいかな。」

「これはまた浪漫武器だな・・・武装は?」

「主砲は機体前面に固定された10の14乗ジュール級のレーザーだよ。副砲は対要塞レールガンとレーザーキャノンが機体上部に4門ずつで、それ以外の武装は無かったらしいよ。」

「10の14乗ジュール・・・」


地星だと威力はTNT換算で何トン級と表現するからジュールで言われると直感的に分かりにくい。


「コウ、約20キロトンです。」

「ありがとう、キット。」


キットは他に人がいる時は基本的に黙っているが、起動はしているので必要に応じて助け舟は出してくれる。


「という事は標準原爆くらいのエネルギーか・・・そんなもの収束されたらとんでもない威力だな。かなりの被害が出たんじゃないの?」

「ううん、戦後に完成直前の機体が見つかったらしいよ。後は全体制御系のユニットを接続するだけだったみたい。」

「そうか・・・魔法が間に合ってよかったな。」

「ほんと、ギリギリだったね。」

「やっぱり装甲の方も分厚いの?」

「厚さって言うより材質かな。アダマント装甲だから、コウの銃でも装甲を抜くのは無理だろうねぇ。」

「特務改でも無理か・・・魔法兵だと?」

「中レベル以上の魔法使いなら、一方的にボコボコにできるはずだよ。」

「はぁ・・・魔法ってのは凄いものなんだな。」


------------------------------


そろそろだな。


「フジさん、ちょっとここで待っててくれるかな?」

「いいけど、どうしたの?」

「なんかアラームが出てるんだよ。たぶん誤動作だと思うから、一発だけ試し撃ちしたくてさ。」

「そうなんだ。でも見えるところに居てよ?」

「あぁ、分かってる。そこの尾根から撃つだけだから。」

「それなら大丈夫だね。待ってるよ。」


俺は尾根に登り特務改を構えた。


「コウ、例の件ですか?」

「あぁ。その為に帰りにここを通るようにしたからな。」

「では最高出力にしますか?」

「そうだな。完全に消滅させよう。」


HUDの表示に従い特務改の照準を合わせ、引き金を絞ると即座に退避する。

その数秒後、轟音と共に衝撃波の作り出した白い壁が頭上を通過し、尾根の向こうには氷河が水蒸気爆発した際に出来たキノコ雲が立ち上っている。


「これで安心だな。」

「はい。もう”冷凍肉”は存在しません。」


フジさんの方を見るとフリーズしていたが、しばらくすると我に返ったのかこちらに駆け寄ってきた。


「お待たせ。」

「スペックは聞いてたけど・・・凄いね。まるで魔法兵みたい。」

「あれ以上のが生身で撃てる魔法兵の方がよっぽど凄いよ。さて出発しよう。」


------------------------------


夕方にシェルター付近に到着した。

ナホは外出許可エリアの外縁まで迎えに来てくれていた。


「コウ、おかえりっ!」

「ただいま、ナホ。」

「・・・・・・」

「あっ、そう言えばフジさんもおかえりなさい。」

「これがお約束ってやつなのね・・・」

「キット。蒼雷を帰還させてくれ。」

「了解しました。あ、ナホさん、コウは浮気しませんでしたよ。」

「うふふ、だから心配いらないって言ったじゃない。」


いつの間にそんな会話をしていたんだ?


「よし、じゃあ帰るか。」

「うん!」


------------------------------


「オモさん、ただいま。」

「フジ少尉、ただいま帰還しました!」


フジさんは既に個室で着替えていた。

シェルター管理者から軍への依頼という形だったらしく、直立不動の姿勢だ。

そう言えば階級は聞いていなかったが少尉だったのか。


「コウさん、お疲れ様でした。フジ少尉、報告は後で構いませんので、もう普段通りで結構ですよ。」

「オモさん、これが回収したMETです。」

「ありがとうございます。これだけあれば、あと200年は大丈夫そうです。」

「資材類は洞窟に置いておいたけど大丈夫かな?」

「はい、明日の午前中にみんなで運びます。」

「場所を教えてもらえるなら運んでおくけど?」

「いえ、皆さんにも参加してもらう事にも意味はありますから。」

「なるほど。」

「コウさんの材料の方は足りそうですか?」

「ええ、あれだけあれば大丈夫です。」

「それは良かった。明日は開拓の方は休んで頂いて結構ですよ。」

「おっ!いいんですか?」

「はい。今回の遠征はシェルターの存続にとって非常に大きな貢献でしたから。」

「オモさん!オモさん!わたしも休んでいいの?」

「あなたはいつもお休みじゃないですか・・・」


------------------------------


「ナホ、ただいまー!」

「おかえりー!」


ナホが小走りにやって来る。

キットは素早くWoWモードになった。

そしていつも通り軽い口付けを交わす。


「あ、これちょっと隅に置いておくよ。」

「ん?何それ?」

「あぁ、明日、加工する原料だよ。」

「明日は一緒に開拓できないの?」

「ごめん。ちょっと急ぎなんだ。」

「むぅ・・・」

「埋め合わせはするからさ。」

「・・・うん。」


地星式の結婚を受け入れてもらえるかどうか分からないが、明日は指輪作りだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る