第50話 求婚-03

今日は鍾乳洞で回収作業だ。

午前中は邪魔になりそうな鍾乳石を取り除く作業だ。

特務改で切れ込みを入れてハンマードライブで邪魔にならない方向に折り飛ばしていった。

無線中継器を設置する作業を終えたフジさんも手伝ってくれている。


「そう言えばさ、昨日聞き忘れたんだけど。」

「あぁ!わたしのスリーサイズね?」

「・・・」

「スルーしないでよぉ・・・」

「まったく相変わらずだなぁ。」

「それで聞きたい事ってなぁに?」

「名前が二文字って不便じゃないの?」

「コウだってコウじゃない?」

「いや、正式にはサンノウ・コウサイだし。」

「よっぽど正式な場じゃないと名乗らないけど、みんなもっと長い名前だよ。」

「そうだったのか・・・」

「同名の人が居る時はハハナを頭に付けて区別するんだよ。」

「ハハナ?」

「母名、母親の名前の頭二文字の事だよ。わたしだと、ミネ・フジだね。」

「完全に母系社会なんだなぁ。父親の名前は出番ないの?」

「母名も一緒だった時に使うくらいかな。あとは恋人関係になる前に確認する程度だよ。」

「なるほど。父親が同一人物の可能性があるからか。」


また一つ疑問が解消した。

やっぱり違う文明なんだなと痛感する。


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昼からはいよいよ回収作業だ。

完全ステルス化の影響なのかハッチから先は無線が通じなくなるので、俺だけが中に入って作業をする事にした。

いざという時は、フジさんが開けっ放しのハッチから声を掛けてくれる手筈だ。

フジさんを90人分の腐乱死体に付き合わせるのは申し訳ないし、解体の痕跡を見られると困るので丁度よかった。


まず、設置されている設備をフジさんに借りたカメラで撮影してから、遠征隊によって回収されていたMETと資材類を運び出した。

フジさんの戦闘支援端末からオモさんに映像を転送して、壊してもいい設備とその設備のどの部位に目的のものがあるのかアドバイスを受けた。

キットから直接通信できれば楽なのだが、ルールなので仕方ない。


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夕方には回収作業が終わった。

オモさんのおかげで貴金属類も期待していた以上に採取できたし、証拠隠滅も無事に済んだので一安心だ。

今日もここに野営するのだが、センサーもテントも設置済みなので楽だ。

さすがに学習したらしく、フジさんは今日は脱着するとすぐにテントに駆け込んだ。


「お待たせ!もう夕食は食べた?」

「あぁ、飲み込んだ・・・」

「・・・その言い方の方がしっくり来るのが悲しいね。」

「開拓を頑張らせる為にわざと不味くしてるんじゃないだろうな?」

「疑いたくなるよねー。ところで、今日も何か聞きたい事ある?やっぱりスリーサイズかな?」

「戯言は聞き流すとして・・・フジさんが詳しそうな軍事関係の事かな?」

「もう、ちょっとは乗ってくれてもいいじゃない。軍事関係か・・・職業病ってやつかな?」

「否定はしないよ。」


どうやら通常戦力の装備は日出国とあまり変わらないようだ。

もちろん、パワーや装甲はより強力になっているのだが、魔法が主力となったので科学技術の進歩と比べて、通常戦力の強化は二の次になっているらしい。

現代の日出国でも、火薬式の銃や石油燃料のジェットエンジンの開発は停滞している。

いや、聞き及んでいる魔法の絶大さと比べれば、刀や弓の開発が停滞しているのにたとえる方が適切かもしれない。

しかも、200年、正確には10,200年前、の新生児の魔法使い率は5%だったが、現代では90%まで上昇しているので、通常戦力用の装備開発は廃れる一方だった。


俺の興味を引いたのは、やはり魔法戦力の方だ。


「え?魔法使いって装備使うの?」

「そうだよー。ステータスは優秀だけど、複雑なイメージングが苦手な魔法使いが多いんだよ。そういう人達はメイジスーツっていうのを装着するんだ。通称MS乗りって言うんだ。」

「頭悪いってこと?」

「んー、納得できる形で脳にコピーされてるから、順を追って紙に書きながらとかなら出来るんだよね。でも頭の中で素早くイメージングできないというか・・・」

「頭の回転が悪かったり短期記憶が苦手な感じかな?」

「そうそう、そんな感じ。で、そういう魔法使いには単純な事に魔法を使ってもらう訳。」

「と言うと?」

「電力供給と冷却がメインかな。レーザーキャノンとかスラスターに電力供給したり、装甲がレーザーで溶けないように冷やしたりとかだねぇ。」

「なるほど、確かに電流流す事と冷やす事をイメージする方が簡単か・・・」


人機大戦の時は力づくで敵の機体同士をぶつけて破壊していたようだが、復興中に民間人が居るような場面ではレーザーを使ってピンポイントで破壊しないとまずいのだろう。


「まぁ、魔法レベル3くらいまでしか上がらないんだけどね。」

「魔法レベル4の人が使ったらどうなるの?」

「装備側の性能限界が高くてもレベル3だから、どんなに魔法使いが大出力でもそれ以上は無理なんだよ。」

「なるほど、それでその限界を上げるためにレーザーなんかの技術開発は続いているって訳なんだな。」

「そうそう。おかげでわたしみたいな一般兵でもATに乗れば機械軍の小型機なら倒せるようになったの。」

「AT?」

「あぁ、この子の事だよ。アドバンスドトルーパーの略でATって言うんだ。量産品だから壊れたら乗り捨てにするんだけどね。」

「へ、へぇ・・・」

「機械軍を相手にする兵隊としては最底辺だから、AT乗りは通称ボト・・・」

「ストップ!!!」

「ん?どしたの?」

「いや、それ以上は何かまずい気がするんだ・・・」

「ふーん。」


初期の複数人が乗り込む機体の略称がMAだったな・・・

MAとMSとATか・・・俺は何故かドキドキした。


「そう言えば、魔法レベルってどうやって決めるの?」

「あぁ、何となく分かるらしいよ。」

「は?」

「何かねぇ・・・魔法使い同士だと気配で分かるんだって。」

「曖昧だなぁ。」

「ランダムに選んだ魔法使いのレベルをどの魔法使いに聞いても同じ値を言うらしいから、彼らの間では分かるんだろうね。」

「なってみないと分からない世界なのか・・・」

「不思議だよねぇ。」


「ちなみに、ATだと中型機を倒すのは厳しいの?」

「オリハルコン装甲が厚くなるから、ATの携行型レーザーキャノンだと厳しいよ。でもさ、地星の歩兵なら大型機とも戦えそうだよね。」

「え?そうなのか?」

「コウのレーザー銃なら大型機でも倒せる威力だし!」

「あぁ、これはキューさんっていう人が魔改造した銃なんだ。普通の歩兵用のはずっと威力が低いよ。」

「そうなんだ。魔法が使えないのに”ヒヒイロカネ”まで実用化してるから、武器はすごく発展してるのかと思ってたよ。」


なに?

ヒヒイロカネ?

なんでフジさんが日出国の神話に出てくる幻の金属の名前を知っているんだ?

ミスリルやオリハルコンは、俺がそれに相当する日出語に訳しているだけだが、今フジさんははっきりと日出語と同じ”ヒヒイロカネ”と言ったのだ。


「フジさんっ!!!」

「きゃっ!な、なに?」

「今、”ヒヒイロカネ”って言った?」

「う、うん、言ったけど、それがどうかしたの?」

「ヒヒイロカネの実用ってどういう事?」

「え?コウの剣って、理論上宇宙最強の合金って言われているヒヒイロカネ製だよね?鞘はアダマントだし。」

「えっ?」


俺は半ば呆然としながら左腰の剣を抜いた。

緋色の刀身は神話に伝えられているヒヒイロカネと確かに同じ色だ。


「いや、これは神話の時代から山王家に代々伝わるツムハっていう家宝の剣なんだ。地星の工業製品として実用化されたものじゃないよ。」

「スメラでも少し前に装備開発研究所が魔法を駆使してやっと少量の試作に成功したっていう話だったから、地星ってすごいなと思ってたんだけど・・・まさかオーパーツだったなんて。」

「もし、これがヒヒイロカネならそういう事になるかな・・・」


ただの厨二家宝だと思っていたが、まさか伝説のヒヒイロカネかもしれないとはな・・・

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