求婚
第48話 求婚-01
この星に転移して2か月が経った。
俺はこの1か月間考えていた事を相談する為にオモさんが常駐している管理室に来た。
オモさんの本体はメインコンピューターなので別にここに来なくても話はできるのだが、やはり人型の方が話しやすいのだ。
それはスメラ人でも変わらないようで、何か相談がある時にはここに来ているようだ。
「オモさん、今、時間いいかな?」
「構いませんよ。どうしたんですか?」
「実は相談があってね。」
「どうぞ仰って下さい。」
「鍾乳洞の建物探索と資材回収、ついでに個人的な素材採取の為に出かけたい。構わないかな?」
「リスクとリターンを考える必要がありますので、もう少し詳しく伺ってもいいですか?」
「鍾乳洞には大量のMETが袋に入って残されていたのでそれを回収しに行く。その他にも遠征隊が使えると判断したらしい資材類があったからそれもついでに回収するつもりだ。ただし、そこには90人分の死体、それも今じゃ相当ひどい状態になってるはずのものが残っている。一般人が取りに行くのは難しいだろう。」
俺が解体した事は言っていないので、露見する前に処分したいという理由もあるのだが・・・
「そうですね、わたしにとって予備のMETは非常にありがたいですし、開拓に資材はいくらあっても困りません。死体も慣れていない人には精神的にきついでしょうね。」
「臭いだけでも吐くだろうね。そのまま持ち帰るのは難しいから、現地で焼いて遺骨を持ち帰るつもりだよ。」
「そういう意味では、申し訳ないですがコウさんが適任でしょうね。ただ、コウさんは以前に正体不明の敵に襲撃を受けたという事実があります。」
「あぁ、だから蒼雷を偵察モードで飛ばしておくつもりだよ。それに今度は遠慮せず超遠距離から狙撃する。」
「同じ機種ならそれで大丈夫でしょう。ただ、何らかの方法で機械軍が操っていた可能性が残されています。別の機体、特にトラップ化したものが潜んでいるかもしれません。」
「トラップへの対処方法は確立されていないの?」
「ありますがトラップ対処への訓練は初級コースでも最低1か月は掛かるようです。」
「地星で無人機トラップは散々対処してきたんだがなぁ・・・」
「フジさんを連れて行けば問題ないとは思うのですが、別の問題が発生します。」
「ここの警備と・・・ナホかな?」
もともとフジさんが派遣された本当の目的は、ここを機械軍の残党から守る事だった。
長く離れるのはまずいのだろう。
また、ナホ以外の女性と二人きりで数日間過ごすという形になってしまう。
「オモさん、ちょっとよろしいですか?」
キットがオモさんに話しかけた。
機械同士が人間の言葉でやりとりするのも妙なのだが、オモさんとキットは直接通信はできないというルールになっている。
人機大戦のトラウマによって、スメラ星では認証を受けた人工知能同士でないと直接通信する事は許されていない。
しかし、キットが無害である事は確認できているので、スメラ語での会話なら特別に許可するという事になったのだ。
「はい、何でしょう?」
「万が一、敵が現れた場合に撃退できればいいのでしょうか?」
「はい、警備の方はそれが出来るなら問題ありません。」
「では、蒼雷の反射レーザー砲で対応可能ではないでしょうか?」
「なるほど、それなら大丈夫そうですね。」
「問題は鍾乳洞に入っている間は即応できないという点です。」
「シェルター周辺の警戒網が感知してからシェルター到着まで早くて15分ほどですね。」
「装甲機動戦闘服の性能なら、施設の最奥部から出口まで8分程度ですから間に合いそうです。」
「では、鍾乳洞内部でも受信できるようにして頂ければ、シェルターの警備上の問題は解決できそうですね。」
キットのおかげで何とかなりそうだ。
「コウ、あとはお任せします。」
「ありがとよ、キット。じゃあ、オモさんまた!」
よし、逃げ切ろう。
「コウさん、ところで素材採取とは?」
「あ、あぁ、ちょっと個人的に加工したいものがあってさ。」
「どのような素材ですか?」
「貴金属や宝石類なんだけど・・・」
「分かりました。不必要な設備で使われてそうな物があれば教えますので、現地から情報をお願いします。」
「おぉ!それは助かる。」
「将来必要になるかもしれない設備を壊されても困りますし。」
「・・・なるほど。」
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俺はオモさんの管理室から出ると、ナホの部屋に向かった。
もっとも、ナホの部屋と言っても同棲状態だ。
部屋の前でキットはWoWモードになった。
「ナホ、ただいま。」
「おかえりー!」
軽く口付けを交わす。
「ちょっとオモさんの所に行ってた。」
「そうなんだ。何の話だったの?」
「今度、鍾乳洞の方に行くことになった。」
ナホの表情が曇る。
そこで90人が犠牲になったまま放置されている事は皆が知っている。
スメラでも亡くなった者を火葬し冥福を祈る習慣は同じだ。
広場で虐殺された395人は、俺が穴を掘って埋めたのだ。
設備が無いので土葬だが、野生生物が居ないので掘り返されるような事は無かった。
余談だが、合理的に考えるなら死体も肥料の原料として有効活用する方がいいのだが、スメラの文化でもそこまで非情に徹する事は無いようだ。
「そう・・・なんだ。METの回収?」
「あぁ、それと遺骨と使えそうな資材も回収してくるんだよ。」
「しばらく会えないのかぁ・・・」
ナホはしょぼんとしてしまった。
「ごめんな。3日ほど留守にしてしまう。」
「ううん、オモさんが止まっちゃったら大変な事になるんだから我慢するよ。」
「それとな・・・俺を信じて欲しいんだが・・・」
「なに?」
「俺一人だとオモさんが許可を出してくれなくてな・・・」
「うん?」
「機械軍のトラップ対策にフジさんと一緒じゃないと駄目らしいんだ。」
「そうなんだぁ。」
「・・・それだけ?」
「なんで?」
「いや、ほら、他の女と二人きりになるわけで・・・」
「そりゃ、コウはとんでもなくエッチだけど、わたし以外に手を出す訳ないじゃない。」
「信じてくれるのか?」
「当たり前でしょ?」
「ナホ!」
「駄目!」
思わず押し倒したが拒否された・・・
「キット、シャットダウン!」
「ピピピ・ピーーー」
「忘れちゃ駄目よ?」
キットはナホの音声コマンドも受け付けるようになっていた。
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