第45話 大戦-15

いよいよ反攻作戦が発動された。


第一魔法大隊には魔法兵として約200名が所属している。

しかし、バリア担当の育成が少し足りていない状況だ。

たまにイメージングが乱れてバリアが途切れてしまう者がおり、確率は低いが乗員を危険にさらす可能性があった。

今回の作戦ではリスク最小化の為にバリアが不安定な分隊は出撃させず、防衛戦力として残す事にした。


出撃部隊数は27分隊だ。

この27分隊が世界各地に分散して機械軍を壊滅する手筈だ。

頼りなく聞こえるかもしれないが、戦力的には圧倒的にオーバーキルだ。

わたしとラキ中佐の分隊は敵の最大戦力が集中している筈の央偉共和国の首都周辺だ。

わたしはその中でも最も防御が厚いはずの人工知能施設を担当する。


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長々と続いていた訓示がそろそろ終わりそうだ。

気が進まないが、次はわたしの番だ。


「諸君、いよいよ反攻開始だ。わたしは元々研究所の所長であり、戦士を鼓舞する言葉をあまり知らない。ただ言える事は、我々の実力ならば、これから始まるのは戦闘ではない、蹂躙だ!今日の夕方には再び全員がここに集い、勝利の非常用保存食を味わおうではないか!以上だ、出撃!」


途中まではずいぶん盛り上がったのだが、最後は今一つ盛り上がらなかったな。

やはりこういう挨拶は苦手だ。

妙に重い足取りで隊員達がMA01に向かっていくのが見えた。


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わたしはラキ中佐のMA01に同乗している。

急ぐわけでもなく目的地が同じなので寛がせてもらっている。

席も余っていたので迷惑にはならないだろう。


「中佐、ほうじ茶を飲むかね?」

「ありがとうございます。しかし、機械軍は油断が出来ませんので後ほど頂ます。」

「そうか、中佐は真面目だな。」

「いえ、魔法部隊の初陣ですので万全を期しているだけです。」

「ふむ、ではわたしも遠慮しておこう。」

「いえ、大佐はお寛ぎ下さい。毎朝この時間にほうじ茶を嗜まれるのは存じております。前線の兵はいつもと違う事を避けます。」

「あぁ、そういうジンクスは聞いた事があるな。では遠慮なく頂く事にしよう。」


定期的にほうじ茶で口の中をさっぱりさせておく事が、非常用保存食を最大限に楽しむ為には非常に重要なのだ。


「中佐!!!」

「どうされました!」

「わたしとした事が・・・とんでもない失敗を・・・」

「な、何があったのです?」

「非常事態だ!わたしだけ先行する!」

「り、了解しました!」


念の為に複合バリアを張ってから乗降ハッチを開け外に飛び出すと、最大魔力の毎秒20ギガトン相当の加速度で人工知能の格納されている施設へと向かった。

施設の上で停止し上空から最大魔力で10分間連続攻撃した。

つまり、100m四方にTNT換算で約12テラトン分の攻撃をぶち込んだ事になる。

かつて施設があった辺りは地殻が沸騰して岩石蒸気を噴き上げている。


これなら人工知能の破壊を確認しに行く必要は無いだろう。

今は少しでも時間が惜しい。


『中佐!わたしは直ちに帰投する。中佐はそのまま作戦を続行するように!』

『了解しました!』


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とんでもない失態だ。

魔法大隊の初陣を記念して、奇跡のロットナンバーの非常用保存食と最高級ほうじ茶を入れておいた鞄を持ってくるのを忘れたのだ。

本来なら敵首都攻撃前に、皆に奇跡のロットナンバーを振舞い盛大に乾杯をするつもりだったのだが・・・

こんな事ではパラ上等兵に合わす顔が無い。

彼女は階級は遥かに下だが、非常用保存食愛好者としては尊敬できる人物なのだ。

後日、包み隠さず話して詫びなければなるまい。


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夕方には全部隊が帰投した。


当然の事ではあるが、損耗率は0%だった。

そして全ての地域の機械軍は壊滅した。

もちろん、一部の機体は地下に潜ったはずなので、今後はゲリラ戦を仕掛けてくるだろう。

その為の掃討作戦を行わなければ真の平和は訪れない。

しかし、今は隊員達を労う為にも勝利を祝おう。


「諸君!よくやってくれた。機械軍は壊滅した。期待通りの成果だ。」

「「「「「「おぉーーーーーっ!」」」」」」

「では、各自テーブルの上の非常用保存食を手に取ってくれ給え!」

「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」

「では、乾杯!」


今回の非常用保存食はまた格別だ。

隊員達も無言で余韻を楽しんでいるようだ。

祝勝会場は水を打ったように静まり返っている。


やがて隊員達は争うように用意された酒を飲み始めた。

まだまだ余韻を楽しめるはずなのだが、わたしのように食べ慣れていないせいだろう。

彼らを労う為にも、せめて大隊の朝食だけでも非常用保存食に切り替えてもらえるように申請してみるのもいいかもしれないな。


とにかく、今日で一区切りだ。

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