第43話 大戦-13
緊急会議から3日経った。
トス中将が緊急会議で紹介した新兵器はあまりにも桁外れだった。
確かにそれだけの威力と防御力なら機械軍を一掃する事は容易だと皆納得した。
各将官が独自の情報網で200メガトン級の爆発を確認していた事もそれを後押しした。
しかし、同時にあまりにも桁外れ過ぎて信じがたいという思いを持つ者も多かった。
会議の結論として、
”キレ大将とキシ少将が開発者のキユ大佐の説明を受けながら実際に確認する”
を条件にトス中将に新規部隊創設の権限を与えるという事になった。
そして現在、キレ大将、キシ少将、トス中将は戦略兵器試験場の耐爆室でキユ大佐のデモンストレーションを待っている。
「閣下、お待たせしました。」
キユ大佐とラキ少佐の分隊が将軍たちの前に現れた。
見慣れない機体も耐爆室の近くに置かれていた。
「キユ大佐、見せてもらおうか、人類軍の新兵器の威力とやらを。」
「閣下、お任せください。必ずやご満足頂けると確信しております。」
「あの機体が新兵器か・・・航空戦力が復活するとはな。」
レーザー兵器が普及してからは航空機の優位性が薄れてしまっていた。
音速を超える機動力も、光速のレーザーと高度に発達したコンピュータによる射撃管制システムの組み合わせにとっては止まっているも同然だ。
そして、軍事予算の範囲内では空飛ぶ戦車のような機体を開発する事は困難だった。
必然的に、空を飛ぶ兵器はすぐに撃ち落とされる前提のものだけとなっていた。
「実戦経験豊富なラキ少佐の意見を参考に試作した分隊向けの機体です。」
「何ともシンプルな機体だな。」
「はい。必要十分な機能と量産性を兼ね備えた試作攻撃機XMA01です。」
これはトスの作戦だ。
自身の経験から、いきなり”魔法です”と言っても信じてもらえない可能性が高い。
怒って帰られてしまっては元も子もないという事なので、まず魔法の凄さを見てもらう事にしたのだ。
機体は突っ込まれた通り、非常にシンプルな構造だ。
外観はミスリル装甲の楕円形の機体だ。
機体上部にレーザーキャノンとレールガンが装備されているが、エンジンらしきものすら見当たらない。
機体中央が耐放射線シールドで囲まれた乗員室となっており、前方に大型モニター、収納庫を兼ねた椅子が6つ、機内灯、無線機が据え付けられているだけだ。
なお、機体前部はカメラ室であり、後部は極低温冷却装置が備え付けられておりそこから冷却配管がミスリル装甲内部に張り巡らされている。
なお、XMA01は、Xが試作、MAがMage Attackerの略で01は型番だ。
「では、まず防御性能をご覧下さい。」
わたしはラキ少佐に乗船を命じた。
なお、今回は将官3名が立ち会う正式な性能評価なのでテスト用の武器は豊富だ。
前回のテストで使った武器の他に、人類軍最強のレールガンとレーザーキャノンが5門ずつ用意されていた。
ラキ少佐の分隊はXMA01をレールガンとレーザーキャノンの全ての射線が交わる場所まで移動させ、回転させ始めた。
わたしは耐爆室のマイクを通じて砲手に命じた。
「撃ち方始め!」
最大速度で連射される攻撃を無効化しているのを見て、キレ大将とキシ少将は呆気に取られている。
「た、大佐、いったい何%の出力で撃っているのだ?」
「100%です、閣下。」
「砲弾が着弾前につぶれているではないか!」
「はい、バリアを貼っております。」
「レーザーがなぜ効かない!」
「極低温装甲です。わずかに装甲は削られていますが実用上は問題ありません。」
「直撃を1発耐えられる程度だと思っていたが・・・」
「このまま1時間でも2時間でも無効化し続けられますが、そろそろ止めましょうか?」
「あ、あぁ、弾の無駄だろう。」
「撃ち方止め!」
耐爆室内が静まり返る。
「では次は攻撃力をご覧下さい。」
『少佐、攻撃地点まで移動』
『了解』
「あちらの赤く塗られている10個の標的は機械軍の戦車です。」
「あれを攻撃するのか?しかしここからでは分かりにくいな。」
「双眼鏡もご用意しておりますが、その必要は無いと思います。」
「どういう事だ?」
「拡大する必要がないまでに破壊します。まずは1つご覧ください。」
『少佐、単発攻撃だ』
『了解』
XMA01の機体上部のレールガンから砲弾が発射された。
もちろん、レールガンと見せかけているが魔法による発射だ。
戦車が吹き飛び、半径1kmの扇形の範囲にバラバラになりながら飛び散った。
キレ大将とキシ少将は再び呆気に取られている。
『少佐、7両連続射撃』
『了解』
残りの9両のうち7両が同時に発射したとしか思えないタイミングで吹き飛ばされた。
「閣下、いかがでしょうか?」
「・・・」
「閣下?」
「あ、あぁ・・・し、しかし機械軍を1日で壊滅などと言っても弾が足りんのではないか?」
「ご安心ください、閣下。」
『少佐、あれを頼む』
『了解』
残り2両の内の1両が持ち上がると、もう1両に向かって猛烈な勢いで加速し両方とも木っ端微塵に吹き飛んだ。
「このように、敵の機体あるいは残骸があれば砲弾は不要です。」
「な、なるほど・・・」
いい具合に思考が麻痺しているようで、どうやって戦車を飛ばしたのかまで気が回っていないようだ。
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「続きましてレーザー兵器の実演となりますが、現状ではレーザーはわたしが乗り込まないと発射できませんので失礼します。発射タイミングは無線でお伝えします。」
『少佐、迎えに来てくれ』
『了解』
戻って来たXMA01に乗り込み、いつもの場所に向かう。
「大佐、将軍の様子は如何でした?」
「呆気に取られていたよ。少なくとも誇張ではない事は十分理解してもらえたと思う。」
「では、これから駄目押しですね。」
「あぁ、200メガトン級レーザーを見てもらおう。」
いつもの場所についた。
『こちらキユ大佐、発射地点到着』
『トスだ。全員サングラスは掛けた。いつでもいいぞ。』
『了解しました。発射5秒前、4,3,2,1,発射』
巨大なキノコ雲を背に耐爆室前に戻った。
「失礼します。」
私たちは耐爆室に戻った。
何とも言えない空気が漂っていた。
キレ大将とキシ少将は目が虚ろだ。
「閣下。」
「・・・・・・・・・」
「閣下!」
「え、あ、うん。はぁ・・・」
「閣下、しっかりして下さい。」
「あぁ、すまん。ちょっと信じられなくてな。」
「では新規部隊創設の許可は頂けますでしょうか?」
「あ、あぁ、ちょっと待ってくれ。」
キレ大将とキシ少将は手元のハンドアウトに目を通した。
「あぁ、連続攻撃回数の確認がまだだったな。」
「了解しました。先ほどの威力をあそこで何度も出す訳には参りませんので、ご足労頂けますか?」
「それもそうか。しかしテストできるところなどあるのかね?」
「はい。大丈夫です。」
「分かった。」
将官3名もXMA01に乗り込んだ。
護衛が乗り込むスペースまでは無いので置き去りだ。
幸い、先程のバリアの効果を見ているので機械軍の攻撃は心配していないようだ。
3名が乗り込んだ時、皆は立ち上がったが、操縦ミスを恐れたのか着席しておくように言われた。
「ところで、どこでテストするのかね?」
「はい、月の裏側に行きます。」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
「ご安心下さい。すぐに到着します。」
「何をじょうだ・・・」
既に大気圏外としか思えない光景を映し出すモニターを見て絶句していた。
あまり待たせても申し訳ないのでフルスピードで月の裏側に急いだ。
皆、半笑いの表情だ。
「お待たせしました。では早速、200メガトン級レーザーを毎秒100発で連続射撃します。」
月の裏側の地形が変わって行った。
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そして、デモンストレーションは大成功に終わった。
無事にキレ大将とキシ少将に魔法の存在を信じてもらえた。
わたしがアドリブで行った月面旅行が効いたのだろう。
もちろん魔法部隊創設は承認されたが、残念ながら条件付きだった。
わたしが選抜して秘密裏に部隊を編制するという条件だ。
魔法の存在を公にするのは大戦終了後にしたいらしい。
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