第42話 大戦-12

「大佐、準備完了しました!」

「よし、では今からエコ中尉に戦略兵器試験場まで連れて行ってもらおう。」


ラキ少佐は不思議そうに視線を左右にやった。


「大佐、兵員輸送車が見当たらないのですが?」

「あぁ、そんなものは不要だ。エコ中尉、出発し給え。」

「了解しました!」


あまり目立っても困るので亜音速飛行だ。

やはりエコ中尉はよく分かっている。


「た、た、大佐!と、飛んでいます!」

「少佐、落ち着き給え。異形の者も飛んでいただろう?」

「は、はっ!こ、これは大佐が?」

「いやエコ中尉だ。」


そんな事を話していると戦略兵器試験場に到着した。

いつもの戦車の残骸の場所だ。


「大佐、自分には何が何だか・・・」

「大佐、こういう事だったのですね!」

「自分にも分かりました!」

「・・・?」


ラキ少佐とセフ中尉は困惑していたが、マル大尉とメヒ大尉はどうやら覚醒したようだ。


「マル大尉とメヒ大尉はもう分かったようだな。」

「「はっ!」」


しかし、4人ともほぼ同じ条件のはずなのだが何故2人だけ覚醒したのか?

普段の研究では、こういう些細な疑問から大きな発見をする事がある。

少し時間を取るべきだな。


「少佐、すまないが少し待っていてくれ。」

「はっ、了解しました。」

「マル大尉、メヒ大尉、君たちがいつ覚醒したのか教えてくれないか?時間が掛かってもいいから、しっかり思い出してくれ。」

「自分は飛んだ瞬間であります。」

「自分は急に静かになった瞬間であります。」


即答だった。

確かにわたしも覚醒した瞬間ははっきり覚えている。


「なるほど。少佐、飛んだ時の状況を再現したい。」

「了解しました。全員、整列!」


   キユ エコ

セフ メヒ マル ラキ


そうだ、たしかにこういう配置だった。

そしてエコ中尉が魔法を発動した瞬間にマル大尉が、わたしがバリアを展開した瞬間にメヒ大尉が覚醒したという事だな。

魔法は魔法野でイメージを共鳴させる事で発動する。

覚醒したタイミングと位置関係から推測すると、共鳴が伝わった可能性がある。


「少佐、この配置のまま待機。」

「はっ!」


わたしは魔法でレールガンに徹甲弾を装填した。

ラキ少佐とセフ中尉は再び呆気に取られている。

そしてわたしはセフ中尉の前に移動するとバリアを展開した。


「あ、あぁ、なるほど・・・」

「中尉までどうしたんだ?」


思った通りセフ中尉は覚醒し、ラキ少佐はまだ覚醒していないようだ。

取り敢えず発射しよう。

ポチッ

既に見慣れた光景が広がった。


「どわぁっ!」

「流石です。」

「なるほど。」

「凄いですね!」

「まだ慣れません・・・」


ラキ少佐だけ激しく動揺していた。


「君たちのおかげで覚醒について分かりそうだ。」

「大佐、同じコースでいいですか?」

「そうだな、今度は少佐に覚醒してもらおう。」

「了解しました。」


エコ中尉が再び飛行し、皆を戦略兵器試験場の中央部に連れて行った。

わたしは今度はラキ少佐の前に移動して、再び最大魔力を込めたレーザーを撃った。


「どわあぁぁ・・・あ、あ? あぁ、皆が言っていたのはこういう事でしたか。」


無事にラキ少佐も覚醒したようだ。

エコ中尉は一番キノコ雲が美しく見えるように旋回していた。

飛行技術はさすがだ、実に迫力のある見せ方だった。


「皆、覚醒したようだな。」

「「「「「はっ!」」」」」

「もう分かると思うが、機械軍を壊滅させるのに1日もかからないだろう。」

「はい、大佐の魔法を使えば簡単です。」

「いや、君達やその他に才能ある者達にも戦ってもらいたいと考えている。」

「は、はぁ。」

「わたしは研究者であまり戦闘には詳しくない。君達ならより効果的な戦い方をいずれ編み出してくれるだろう。」

「なるほど・・・」

「それに、壊滅させたとしても全滅では無い。少佐も機械軍が指揮官機を撃破された後、どうするかは知っているだろう?」

「はい、奴らは帰還が難しい場合には一旦地中に潜むなどして人類軍をやり過ごし、ゲリラ戦に転じます。ゲリラ戦が不可能な場合はトラップと化します。」

「そうだ。敵を壊滅させれば世界中でゲリラ戦になる可能性が高い。民間人が安心して暮らしていく為にはそれらを倒して回らねばならん。」

「分かりました、大佐。お一人では限界があるという事ですね。」

「そうだ。なるべく多くの魔法兵を養成して戦後に備えなければならない。」


我ながらもっともらしい理由付けができた。

できれば好きな研究をしながら非常用保存食を楽しむ生活のままで居たいものだ。


「近いうちに将官を集めた緊急会議が行われる。デモンストレーションを行い、魔法部隊の設立を要請するつもりだ。君達にはそのデモンストレーションに参加してもらいたい。」

「はっ!光栄であります!」

「では、これから先ほど使った魔法について教授する。」

「「「「「はっ!」」」」」


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日が暮れてきた。

少佐達5人は魔法の習得に苦労している。

いや、正確に言うと、レーザーと電磁波バリアのイメージ形成が出来ないのだ。

質量系の魔法は効率は落ちるが魔力さえ余分に注げば何とかなるらしい。


「大佐、申し訳ありません。やはり我々には難しすぎるようです。」

「そうか、まぁ、仕方ないな。何か方法があればいいのだが・・・」

「大佐、素人考えなのですが提案があります。」


エコ中尉が発言した。


「思いついた事はどんどん言ってくれ。」

「自分は大戦前に対レーザー兵器用冷却装甲の車両テストをした事があります。その原理は使えないでしょうか?」

「あぁ、あれか。確か、実体弾への防弾性が不足していた事と冷却性能が追い付かずに打ち切られた技術だったな。」

「そうであります。しかし、今回は実体弾はバリアで防げます。魔法で冷却性能の問題が解決できれば使えるのでは無いでしょうか?」

「中尉、いい提案だ。実用上は問題ない筈だ。」


魔法と既存技術の融合というのは面白い発想だ。

もちろん、装甲を極低温にしていても強力なレーザーには表面を僅かに削られてしまう。

しかし、敵を殲滅するまでの間に貫通されないだけの装甲を用意すれば問題ない。

万が一、核を使われてもシールド材を内側に入れておけば大丈夫だろう。


「ありがとうございます!」

「後は視界の確保だな。原始的でかなり場所をとるが何とかなるか・・・」

「大佐?」

「あぁ、すまんな。カメラの構造を考えていたんだ。」

「良い方法があるのですか?」

「単純な方法だがな。覗き窓からの景色をレンズで100万倍に引き伸ばして撮像素子に撮り込むんだ。そこまでエネルギー密度を下げてやれば敵のレーザーキャノンの直撃でも数秒は耐えられる。もちろん、各パーツの冷却は必要だがね。」

「100万倍・・・ですか・・・」

「なに、直径10cmの覗き窓なら直径10mの撮像部になるだけだ。多少荒い画像になるが対応できるか?」

「はい。旧式の暗視装置で戦う訓練も受けていますので何とかなると思います。」

「よろしい。この方向で進めよう。」

「はっ!」

「では部隊編成について教えてくれるかね?」

「了解しました。しばらく隊員達と話し合ってもよろしいでしょうか?」

「勿論だ。」



「大佐、お待たせしました。」

「案はまとまったかね?」

「はい。実戦ではあと一名欲しいところですが、デモンストレーションなら現在の人員で大丈夫です。」


ラキ少佐:指揮官 兼 物理バリア担当

マル大尉:殲滅系攻撃担当

メヒ大尉:ピンポイント攻撃担当

セフ中尉:冷却系担当

エコ中尉:パイロット


という部隊編成らしい。

実戦では物理バリア専門の者が欲しいという事だった。


「分かった。早速、研究所で試作機を作らねばな。少佐達はこれからどうする?」

「できればここで魔法戦闘の訓練をしたいと思います。」

「必要な物があれば遠慮なく言ってくれ。トス中将のルートで届けさせる。」

「はっ!ありがとうございます。」

「そう言えばすっかり夜だな。そろそろ食事にしよう。」


非常用保存食を取り出した瞬間、なぜか5人の体がビクンと震えた。


「い、いえ、じ、自分達は、保養所に戻り、戦闘糧食を食べます。」


4人の視線が少佐に突き刺さっている。

せっかくのご馳走を無駄にするなと言いたいのだろう。

目が恐ろしいほど真剣になっている。


「少佐、遠慮しなくていいんだぞ?」

「ぶ、部隊で共同で戦闘糧食の準備を行い、と、共に食べる事は、れ、連帯感を育てるのでありますっ!」


4人の拳が固く握りしめられている。

相当怒っているようだな。

部下達の気持ちに気付けないとはまだまだ未熟だな。

しかし、少佐の部隊なのだから任せるしかないか。


「分かった、ではそうし給え。」

「あ、ありがとうございます!」


やはり4人は膝に手を付き大きく息を吐いている。

かなり落胆して溜息が出たのだろう。


「そう言えば、車で来たんだったな。」


エコ中尉の体がビクッと震え、4人の視線が突き刺さる。

名目上は研究所の運転手なので、わたしと一緒に帰ると思われているのだろう。

食べ物の恨みは怖いので、エコ中尉だけご馳走となると部隊運用に支障が出かねない。


「エコ中尉、君は部隊と行動を共にしてくれ。車はわたしが乗って帰る。」

「はっ!ありがとうございます!」

「では、わたしはこれから研究所に戻る。」

「「「「「はっ!」」」」」


敬礼を交わし、わたしは車に向かって飛んだ。

遠くで万歳三唱が聞こえたような気がするが、きっと気のせいだろう。

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