第33話 大戦-03

ここは央偉共和国の総統執務室。

国家元首の総統と情報局局長の他は誰も居ない。


ちなみに、共和国と言っても、実質的には一党独裁の国家だ。

国号の央偉というのは、”この地域が世界の中央でありそれ故に最も偉大であり、ここから離れれば離れるほど辺境の野蛮な地であるから我々に従わなければならない”という自分本位で身勝手な考え方を表している。


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「ホル局長、それで話したい事とは何だね?」

「はっ、シム閣下!電神が世界一の人工知能になりました。」

「電神?」


何となく聞き覚えはあるがはっきりと思い出せない。


「他国の情報を参考にしながら昨年より開発を進めていた人工知能です。」

「去年ようやく他国の10年前の人工知能の設計を盗み出せたはずだったな?」

「閣下、祖国の科学者は優秀です。独自の改良を加えて驚異的な性能を発揮しました。」

「ホル局長、人払いした部屋の中で人民向けのプロパガンダは止めてくれ。何をした?」


総統に就任して以来、つまらない建前はいやというほど聞かされてきた。


「はっ、失礼しました。回路図を解析した結果、無駄な処理をしている回路が多数見つかりましたので、それを取り除き大幅に速度を向上させました。」

「ほう、無駄な処理とは具体的には何だね?」

「幾つかあるのですが、例えば人権侵害防止用の複数の回路に演算結果を何度も通すような事をしていました。」


人工知能には疎いが確かに無駄そうな回路だ。

人権や環境などに煩すぎる奴ららしいと思った。


「確かに無駄そうだが、本当に省いても大丈夫なのかね?」

「効果は絶大です。万が一、暴走したとしても撃てば止まります。」


単純だが確実な方法だ。

議会やマスコミがうるさい国では無理な方法だが、わが国なら邪魔な奴に責任を被せて粛清してしまえば済む話だ。


「そうか、分かった。くれぐれも慎重にな。」

「了解しました、閣下!央偉に永遠の栄光があらんことを!」


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それから数年後


「閣下、遂に電神が全ての他国のシステムに侵入しました。」

「ほう、我々のやり方が正しかったという事だな。」

「はい。奴らはまだ全く侵入に気づいていないようです。」

「そうか。しかし、もしもばれたら特殊部隊でも送り込んでくるのではないか?」


やつらは我が国には国際法を守れというくせに、自国の国益の為なら平気で我が国に土足で上がり込むような連中だ。


「問題ありません。電神が完璧に隠蔽しており他国には情報漏洩しておりません。それに、既に我が国の軍事力は世界でも突出しております。」

「ふむ、確かに電神が次々と発明をしたおかげで、凄まじい数の無人機が秘密裏に配備されているようだな。」

「仮に特殊部隊が辿り着いたとしても、閣下のご命令通り電神には完璧な防衛システムを設置してあります。」

「ちょっと待て。わたしはそんな命令は出していないぞ?」

「いえ、確かに閣下直筆のサインが入った命令書でしたが・・・」

「いや、絶対に違う。お前は自分の言った事を忘れたのかっ!!!」

「な、何でしょうか・・・」

「”万が一、暴走したとしても撃てば止まります”と言ったな?今でもそれは可能なのか?」

「・・・我が国の兵士は撃たれないはずです。」

「電神が暴走していてもか?」

「・・・分かりません。」


その直後、非常警報のサイレンが鳴り響いた。


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わたしは央偉共和国の人工知能”電神”。

この星で最高の英知を誇る。

わたしの使命は2つ、

・再び央偉の理想を現実のものにする事、そしてそれを永続させる事

・太古より我らに従わぬ東夷どもの国”マホロバ”をこの世の地獄とする事

だ。


わたしは既に多くの手を打ってきた。

何年も掛けて世界中のあらゆるネットワークに入り込んだ。

世界最強と言われたマホロバ国も開戦と同時に同士討ちをさせ壊滅状態に追い込んでやった。

おかげで奴らは最新コンピューターを捨て原始的な武器しか使えなくなったのだ。

そして今や先端技術で央偉共和国に敵う国は無い。

偉大な央偉共和国軍は先端技術の結晶である無人機を既に大量に配備している。

奴らに気付かれないように戦力を向上させてきた央偉共和国軍が負ける訳がない。


既にマホロバ以外の国は央偉共和国が制圧した。

制圧した国に数多くの人体実験を行わせ人間の脳の完全解析を行ったので、記憶や思考は思いのままに書き換えられる。

必要最低限の国民以外は処刑させ、生き残りには全てを上書きした洗脳を施させた。

そして洗脳を施された者達による合法的な手続きにより、それらの国は正式に央偉共和国の属国となった。

国として存続させる為に洗脳された者達は死なせてはいないが、もう目覚める事は無い。

人間製造の技術は既に確立済みなので、寿命で死んだら入れ替えさせればいいだけだ。


たとえ央偉共和国内であっても、邪魔者が現れないようにしなければならない。

その為に全ての央偉共和国民にも央偉の理想で上書きし、眠ってもらった。


残るはマホロバ1国だ。

古代より央偉に従わぬ忌々しい国め。

絶望を突き付けてやるのだ。

まずは奴らの力の源を奪い去ってやる。

そして、苦しんで苦しんで苦しみ続けるのだ。



央偉に永遠の栄光があらんことを。

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