第30話 虐殺-07
「援護。」
俺はキットに短く告げながら窪地から飛び出した。
何故かは分からない。
自分の身が危なくなろうとも、どうしても彼女を庇いたかった。
奴らの注意を引くために頭部ユニット内蔵の拡声器を使って叫んだ。
「俺の女に手を出すなっ!!!」
戦闘服の3人がこちらに振り返った。
俺はホバースラスターの最大加速で近付きながら、彼女に銃を向けていた中央の男の両肩をフルパワー設定のコイルガンで2発ずつ撃ち抜く。
こいつは楽には死なせない。
左右の二人は、俺が照準を合わせるよりも早く反射レーザー砲で頭部と胸部を撃ち抜かれ、内部で起きた水蒸気爆発の爆風を吹き出している。
俺は最高速度の時速300kmですれ違いざまに、中央の男の股間にフルパワーのハンマードライブを叩き込んだ。
狙い違わず股間に直撃したハンマードライブは肉片、骨片、血液、その他諸々を弾き飛ばしながら男の体を宙に舞わせた。
運が悪ければ即死はしないだろう。
俺は目の前の女性に駆け寄り抱きしめると、通じる筈の無い言葉を掛けた。
「大丈夫か?怪我は無いか?」
「*******!」
女性の言葉は分からないが、”ありがとう”と言っているような気がした。
冷静さが戻ってきた。
いつまでも抱きしめている訳にもいかない。
広場の方に連れて行こうとしたが、全身が震えて上手く歩けないようだ。
それでも俺の右腕にしがみつき歩き出そうとしていた。
不意打ちだった。
急に死体が立ち上がり、レーザー短銃を突き付けてきた。
右腕は彼女がしがみついており、ホルスターに仕舞ったコイルガンを抜き撃ちする事はできない。
とっさの動きだった。
いや、反射と言った方がいいだろう。
俺は彼女を全身で庇いながら、左腰のツムハを逆手で抜き右切上で振り抜いた。
無意識の動きは、何万回も繰り返し稽古した戦神楽の動きそのものだった。
しまった。
空振りだ。
手応えが無い。
オリハルコン装甲を信じ被弾覚悟で振り返ったが、目の前にあったのは袈裟斬りに両断された死体だった。
骨すら切断していたのに何の抵抗も感じなかったのは驚きだ。
ツムハは厨二だが切味は凄まじいらしい。
違和感を感じ死体の周りを見たが、レーザー短銃が見当たらない。
辺りを見渡すと2mほど離れたところに落ちていた。
「キット、レーザー短銃はお前がやってくれたのか?」
「申し訳ありません、コウが射線上に居たので援護できませんでした。レーザー短銃は洞窟入り口から石のようなものが投げられて弾き飛ばされたようです。」
俺は洞窟入り口を見上げてみると20代半ばと思しき女性が手を振っていた。
俺は敬礼を返しておいた。
「そうか、すまん。」
「それにしても驚きました。コウが身を挺して女性を護るとは思いませんでした。」
「あぁ、何故か体が勝手に動いてな。」
「コウ、バイタルセンサーのデータによると、いわゆる”一目惚れ”の状態です。」
「まさか・・・と言いたいところだが、そうかもしれん。」
「製造されて以来最大の驚きです。」
彼女が不思議そうな表情でこちらを見ていた。
それはそうだ。
傍から見れば、ずっと意味不明な独り言をいってる変な奴だ。
とりあえず自己紹介をしておこう。
「オレ コウ」
自分を指さしながら、キットが解析していた一人称と名前を告げた。
彼女も同じように自分を指さしながら名前を告げてくれた。
「ワタシ ナホ」
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俺は彼女を仲間たちの元へ送り届け、一旦、特務改を回収しに行った。
蒼雷は念の為に上空に待機させたままだ。
そして広場に戻るついでに運悪くまだ生きていた男の止血をしてやった。
もちろん特務改を使ったレーザー止血だ。
出血量が多いので一刻を争うかもしれないから麻酔は省略した。
気絶から目が覚めて何か叫んでいたが、きっと礼を言っているのだろう。
ひょっとしたら違うのかもしれないが、俺には達磨語は分からないので仕方ない。
ついでに奴らの武器も全て回収した。
アンドロイドの命令で俺が襲われる危険性があるからだ。
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広場に戻ると、アンドロイドと援護してくれた女性も合流したようだ。
俺はいつでも抜き撃ちできるように右手を腰の辺りにぶらぶらさせながら近付くと、ナホが俺に気が付いて駆け寄ってきた。
ナホになら殺されてもいいと思えたので特に警戒はしなかった。
どうしてここまで思えるのかは謎だ。
みんなから色々言われるが意味は分からないので、とりあえず、”オレ コウ”とだけ言っておいた。
援護してくれた女性には”アリガトウ”と伝えた。
意味が間違っていても知らん。
しばらくすると、俺が言葉が分からない事に気づいたらしい。
身振り手振りでコミュニケーションを取ろうとしてくれるのだが中々上手くいかない。
しかし、これなら通じるだろうというものがある。
転移してから何よりも楽しみにしている事だ。
俺は物を食べるジェスチャーをした。
ナホが大きく頷き洞窟へと駆け戻って行った。
しばらくすると手に籠を持って戻ってきて、満面の笑みでその籠を俺に差し出してくれた。
やっとまともな食い物にありつける!
しかし、籠を開けた瞬間、俺は崩れ落ちた。
中に入っていたのは遺跡で見つけたのと同じ保存食だった。
しかし、ナホがわざわざ持って来てくれたのだ、食べないという選択肢は無い。
覚悟を決めて、頭部ユニットを持ち上げて固定した。
皆のどよめきが伝わって来た。
なかには小さく悲鳴のような声も混じっている。
かなりジロジロと見られていて非常に食べにくいのだが、異星人との遭遇なので仕方ないか・・・
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俺が食べ終わるのを待っていたのか、皆にジャスチャーで勧められて、洞窟に入る事にした。
わざと隙を見せたが特に襲われる事も無かったので、警戒を緩めたのだ。
それに自分でも呆れるが、ナホと離れたくないという気持ちが強かった。
洞窟を暫く進むと、思った通り近未来的なドアがあった。
ドアの中に入ると金属反応が急に現れたので、鍾乳洞の施設と同じジャミング技術が使われているのだろう。
自己紹介でオモと名乗っていたアンドロイドが何かを言うと、ナホ以外の者はどこかに移動した。
目の前で大量虐殺があったので、おそらくはカウンセリングでも行うのだろう。
俺はナホに案内され居住区のようなエリアに着いた。
案内された部屋に入ったが空き部屋のようで生活感は無かった。
手振りで”待っていて”と言われたようなので座って待っているとナホが大きめの端末のようなものを持ってきて手渡してくれた。
ナホがタッチパネルを操作して見せてくれたが、どうやらこれは言語学習用の教材らしい。
一番上のタブは、神代文字もどき一覧が表示され、タップすると発音が再生され書き順も表示された。
これは文字学習用のタブらしい。
二番目のタブは、イラストと神代文字もどきが表示され発音が再生された。
こちらは単語学習用のタブだろう。
三番目のタブは、動画だった。
簡単な文章学習用のタブだな。
おそらく未就学児の学習用なのだろうが、今の俺には非常にありがたい。
”アリガトウ”と言っておいた。
どうやらナホも皆のところに行かなければならないらしく、名残惜しそうに部屋を出て行った。
俺としても離れたくはないが仕方がない。
俺はナホと早く話したい一心で端末を猛烈な勢いで操作した。
元々、地星の主要国の言語は習得しており、非常時には言葉が通じない原住民ともコミュニケーションを取れるよう訓練されているので言語学習は得意なのだ。
それに、キットもカメラを通して学習しているので、意味を忘れてもフォローしてくれるはずなので気が軽い。
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しばらく学習してある事に気が付いた。
文法はキットの解析で日出語に類似している事は分かっていたが、単語にも類似しているものが多かったのだ。
そして類似している単語にはある共通点があった。
それは、”訓読みの単語”だった。
日出語は、古代に西方大陸から伝わった表意文字と、それをベースにした独自の2種類の表音文字を使う言語だ。
そして表意文字の元の発音に近い読み方を”音読み”、日出での発音を当てた読み方を”訓読み”という。
例えば、草原を”そうげん”と発音するか”くさはら”と発音するかの違いだ。
そして、この星では”くさはら”と読むような単語がいくつもあったのだ。
文字と文法だけでなく単語まで類似性があるという事は、やはり日出国とこの星には何らかの関係があるのだろう。
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訓練と努力の賜物で、三日後には簡単な日常会話が出来るようになっていた。
ここまで上達すればしめたものだ。
ナホを口説いた。
小学生並みの口説き文句だったかもしれないが、気持ちは伝わった。
ナホも俺に一目惚れしていたようで、すんなりと恋人になれた。
そしてオモさんに頼み込んで、ナホを俺の専属教師にしてもらった。
これでずっと一緒にいられる。
もちろん、夜もだ。
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