第22話 遭遇-02

出発して3日目の夕方、彼らは目的地にたどり着いたようだ。

鍾乳洞の入り口らしき場所を塞いでいる岩を全員で力を合わせて取り除くと、偵察部隊も出さずに全員がそこに入って行った。

もちろん、入り口に歩哨を置くような事もなかった。


「どうやらここが目的地らしいな。」

「そのようですね。」

「じゃあ、すぐに虫型偵察ドローンを出すぞ。誰かの装備に潜り込ませてくれ。」

「こちらの鍾乳洞には侵入させるのですか?」

「多少のリスクは侵さないとな。出入り口が塞がっていたから内部に人は居ないはずだ。」

「了解しました。」

「じゃあ、頼んだぞ。」


虫型偵察ドローンはキットに任せて、俺は集音マイクやスポッティングスコープを洞窟入り口に向けて設置した。

内部の詳細はドローンを回収すれば分かるが、リアルタイムで起きている事を把握するには入り口を監視するしかない。


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2時間ほど経過すると、大きな衝撃音がした。


「キット、音響分析を頼む。」

「内部構造が不明な洞窟ですので完全には解析できませんが、おそらく巨岩の倒壊か崩落でしょう。どうされます?」

「例え崩落で何十人死のうと俺には関係ない。のこのこ助けに行ってトラブルになるのは御免だな。」

「了解しました。」


暫くすると、いきなり鍾乳洞からの反応が無くなった。


「キット、故障か?」

「いえ、おそらく何らかのジャミングでしょう。地星ではここまで全ての反応を消せる技術はありませんから、未知のものです。」

「そうか・・・やはり地星よりも技術は進んでいるようだな。」

「はい。おそらくは解除されるまで何も分からない状態が続くでしょう。休憩されますか?」

「そうだな、休めるうちに休んでおくか。」


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「コウ、起きて下さい。」


深い眠りから瞬間的に目が覚めた。

敵地への単独潜入が多いので身に着いた習性だ。


「どうした?」

「一発だけですが、コイルガンの発砲音に似た非常に微弱な音響データが検出されました。」


一発だけなら、誤射かもしれない。

などというアホ丸出しなお花畑思考は持ち合わせていないので警戒態勢を敷く。

しばらくすると微かに連射音が聞こえてきた。

洞窟内で反響しまくってから聞こえてくるのではっきりしないが、ひたすら撃ちまくっているような感じだ。


「キット、虫型偵察ドローンを帰還させる。信号は届きそうか?」

「分かりません。届くにしても相当強力な電波が必要ですので、ほぼ間違いなくこちらの存在が感知されるでしょう。」

「やっぱりそうか。じゃあ時間は掛かるが迎えに出すしかないな。」

「送り出したものと交代させる形でいいですか?」

「そうだな。おそらく混乱しているだろうから極力目立たないようにしながら偵察をさせてくれ。もちろん、発見されないことが最優先だ。」

「了解しました。」


迎えに出した虫型ドローンは洞窟内をあても無く探し回る訳では無い。

合成フェロモンを辿って行くので、それ程時間は掛からずに合流できるだろう。

ヤツの素早さは多くの者が知るところだ。


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俺は戻ってきた虫型偵察ドローンから吸い上げた画像を見ていた。

言葉が分からないので正確な事は分からない。


「簡潔にまとめると、”ドローンを潜り込ませた最後尾のチームが武器庫に入って、装備を整え終わった後に部屋から出て行った後に銃声がした”だな。」

「そうですね。音声データはまだ解析できませんから、それ位しか分かりませんね。」


ドローンには自立行動をさせていなかったので、武器庫に放置された荷物に留まっていた為、情報が不足している。

所詮は虫型サイズなのであまり臨機応変な指示を与えておけないので止むを得ないが。


「敵対勢力が遠征部隊に潜入して、武器を現地調達した上で皆殺しにした・・・でも無さそうだしなぁ。そんな事できそうな奴は一人もいなかったし。」

「コウやわたしを欺いて、完全に素人のように振舞えるほどのプロとなると厄介ですが。」

「最悪の事態には備えておくか。」

「そうですね。」

「俺たちが気付かれていたと想定して、すぐに痕跡を消して別の場所に移動する。蒼雷に出入り口を偵察させておいてくれ。」

「了解しました。」


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そして翌朝になった。

出てきたのは10人だけだった。

戦闘服を着ている者が3名、普段着らしい者が7名だ。

どちらも武装しており、なぜ着替えたのかは不明だ。


「よし、じゃあ帰還させてくれ。」

「了解しました。では迎えを出します。」


虫型偵察ドローンが調べた限りでは待ち伏せもトラップも無いようだ。

俺とキットで念の為に映像チェックをしたが異常は無かった。

それでも確実とは言えないので、虫型ドローンに道案内をさせながら慎重に進んで行くと巨岩が倒れていた。


「昨日の衝撃音はこれかな?」

「破損個所の断面が新しいですから、おそらくそうでしょう。」


巨岩があったであろう場所に縦穴があり、虫型ドローンは翅を広げてその中に降りて行った。

俺達もタクティカルミラーで確認した後、立てかけられたままの梯子を降り、通路を通ってハッチへと進む。

ハッチは開けられたままであり、明かりも点けっぱなしだった。

ハッチの外にも僅かに血の匂いが漂っていた。

そして驚いた事にハッチを通過した途端に金属反応が復活した。

やはりキットの言う通り、何らかのジャミングが働いているのだろう。

虫型ドローンを収納し内部の探索を開始する事にした。

ここからは一通り安全確認するまでは無言となる。


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最初のフロアは用力系の設備以外は特に何も無さそうだ。

大型のMETらしきものがあったので帰りに持ち去るかどうか悩んだが、まだこちらの存在を知らせるリスクは負いたくないので放置する事にした。


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1つ下のフロアは中央通路の左右に5部屋ずつの配置だった。

様々な装置が置いてあったが、どの部屋も何かが持ち去られた痕跡があった。

この星の装置の事は分からないが、構造から見ると動力源が持ち去られたようだ。

また、同じ形状のものが収められていたと思われるケースも空になっている。

遠征隊は、おそらくはこの施設のMETかそれに相当する物を回収に来たのだろう。


もう1つ分かった事がある。

このフロアは5チームが2部屋ずつ担当したようだ。

持ち去った後が5パターンに分かれていた。

収納庫の扉が開けっ放しかどうかなど細かく観察すれば分かるものだ。


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更に1つフロアを降りた。

このフロアは中央通路の右側に3部屋、左側に2部屋の配置だった。

左奥の部屋が武器庫であり、大きさは他の2倍のようだ。

上のフロアと同様に動力源らしきものが持ち去られていた。


虫型ドローンが潜入していた武器庫に入ってみると、奥の壁が銃架になっていた。

大きさ的には一番上が長物で、真ん中が短機関銃、一番下が短銃だ。

その組み合わせが12列分あった。


部屋の右側には防音射撃場らしき部屋が併設されていた。

残されていた標的の弾痕を見る限り、レーザーと実体弾のようだ。

出て行った10名が持っていた短機関銃のような武器にドラムマガジンらしきものが装着されていたで、おそらくそれが実体弾を使用するのだろう。

確認の為にバックストップの着弾跡を小柄でほじると口径5mmほどの実体弾が出てきた。

ハンドサインでキットに分析するよう指示し、しばらく待つとHUDに”コイルガン用の弾丸:確率95%”と表示された。


ちなみに射撃の腕前は両極端だった。

レーザーの弾痕は全てセンターに集中しているものと、ひどくバラバラのものに分かれている。

よく見ると弾痕の大きさが異なっている事から、2種類のレーザー銃が使われたと考えるのが妥当だろう。

おそらく、片方には三八式と同じような自動照準補正機能が付いていないのだろう。

つまり、このバラバラの方があの10人の射撃の実力とみていい筈だ。

1枚だけ素人にしてはマシなレベルのものもあったが、それでもしっかりと射撃訓練を受けた者とは雲泥の差だ。

コイルガンの方も弾痕はかなり散らばっていた。

レーザー短銃に比べればマシだが、素人でも両手でしっかり構えて頬付けすればこの程度には纏まるだろう。


やはり素人集団の可能性が高いが、俺が調べる事を見越してわざとこういう痕跡を残した可能性も捨てきれないので警戒は緩められない。


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さらに1つフロアを降りた。

ここから先の階段は無かったので、ここが最下層だろう。

血の匂いが非常に濃くなってきた。


扉を開けると予想通り死体の山だった。

所かまわず撃ちまくったようだ。

無駄玉が多すぎる。

素人がパニックを起こして撃ちまくったようにしか見えない。


トラップに気を付けながら死体の持ち物を調べてみたが、文字が読めないのでよく分からない。

やっと近場で観察できる機会が出来たので、じっくりと死体を調べてみたが、見れば見るほど地星人に似ている。

広場での観察では分からなかった血液の色、指紋、生殖器なども地星人と同じだった。

念の為に死体の腰に付いていたナイフで少し解剖してみたが、筋肉や内臓、骨格の配置も同じだった。

少なくとも、アンドロイドでは無く、生物である事は確認できた。

これ以上死体を調べても無駄そうだったので室内の探索に移る事にした。


驚いた事に、METらしきものが詰め込まれた鞄が放置されていた。

死体になった連中の目的はMETだったが、襲撃者の目的は別だったという事か?


まだ分からない事がほとんどだが、将来的に脅威になり得る連中の武装が分かっただけでも良しとしよう。

俺は鍾乳洞から出る事にした。


「キット、撤収する。」

「コウ、言いにくい事なのですが・・・」

「どうした?」

「現状から判断する限り、解体して保存する事をお勧めします。」

「・・・」


確かに孤立無援な状況だ。

ほぼ人間と同じ形態の生物を発見できたとは言え、敵対する可能性を考えれば食糧は可能な限り確保しておくべきだろう。

このまま放っておけば体内細菌ですぐに腐敗してしまう事も間違いない。


「食いたくはない・・・がな。」

「無理にとは言いません。」

「いや、現状ではそれが最善だろう。ただ、どうやって保存する?」

「最終的には岩塩を見つけるか海で製塩して塩漬けする事になりますが、とりあえずは氷河で冷凍しておきましょう。」

「なるほど。ただ、あまりここに留まるのもまずい。腿肉だけ持っていく。」

「了解しました。」


その後、人間によく似た動物の腿肉を数百キロ回収した。


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待ち伏せが無い事を確認しながら鍾乳洞を後にした。

時間的に昼飯だ。

死体の山は普段の任務で見慣れているので、食欲が落ちたりはしない。

もっとも、昼飯と言っても例のブツを飲み込むだけだが・・・


「キット、連中の動きはどうだ?」

「元の洞窟に向かっているようです。第三者との接触はありませんでした。」

「通信も無しか?」

「特に電波は観測されませんでした。レーザー通信の傍受は困難ですので何とも言えませんが、そういった素振りはありませんでした。」

「そうか。じゃあ洞窟に先回りしておこう。念の為に遠回りするからルート設定を頼む。あと、できれば途中で血を洗い流しておきたい。」

「了解しました。氷河が溶けた川のそばを通るようにします。彼らとは反対側に流れていくので見つかる可能性は低いでしょう。ついでに”肉”を保存しますか?」

「そうしよう。」

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