遭遇
第21話 遭遇-01
正体不明の敵との戦闘から2日が経過した。
蒼雷は、追撃が無い事を確認してからレーザー反射ユニットを交換する為に、翌日に手許に戻している。
ミラーはまだまだ使える状態なのは分かっていたが、敵性勢力の存在が確認されたからには、最高の状態に保っておきたい。
前回の戦闘では難なく倒せたが、更に強力な機体が現れた場合は、新品ミラーを一撃で使い捨てる必要があるかもしれないからだ。
今はこれまでに撮り貯めた偵察情報と方位磁石を頼りに海に向かって歩き続けている。
当面の食糧・・・いや、栄養源・・・は確保したので入念に探索しながらの移動だ。
残念ながら、相変わらず手がかりになりそうなものは見つかっていない。
襲撃を受けた時には生存者がいるのかと思ったが、敵はパワードスーツのようなものを装備したアンドロイドだった。
既にこの星の知的生命体は全滅し、プログラムされた自動防衛機構が働いただけなのかもしれない。
そんな事を考えながら朝日を浴びて移動していると、統合索敵センサーからHUDに赤外線反応の情報が送られてきた。
この星に転移して初めての動物との遭遇かもしれない。
有効範囲内にいきなり現れたので、巣穴か洞窟から出てきたと考えるのが妥当だろう。
しばらくすると反応の数はどんどん増えていって、およそ1,000にまで増えた。
「キット、ようやく獲物に出会えたみたいだ!」
「おめでとうございます。」
「多めに狩って干し肉にでもするか。」
「神事局の方の経験が活かせますね。」
「分かっていると思うが、ヘッドショットで仕留めてなるべく多く肉を取れるようにな!」
俺は逸る気持ちを抑えながら特務改を赤外線反応の方向に向けた。
あぁ、うん、そういうオチか・・・
電子スコープには洞窟の前の広場に1,000名ほどの人間が映っていた。
アンドロイドが地星の人間の少女の姿だったので、今更驚きはしない。
年齢は20歳前後、男女比は同じくらいだ。
身なりは普通だ。
どうやら、あのアンドロイドのような裸族ではないようだ。
デザインは見慣れないものだが、品質は先進国の高品質なもののように見える。
決して動物の皮やボロ布を纏っている感じではない。
体格も普通だ。
鍛えているわけでも飢えているわけでもなく至って健康体だ。
少なくとも食料に困っているような印象は受けない。
情報収集のために集音マイクもそちらに向けたが、言語はもちろん不明だ。
任務の性格上、主要国はもちろん主だった国で使われる言語は習得しているし、挨拶程度ならかなりマイナーな言語も分かるのだが、それらの何れとも違う。
ただ、何となく話している意味が分かるような気はする。
「コウ、分かってはいますが、命令が出ていたので一応確認します。撃ちますか?」
「いや・・・いい。」
「了解しました。」
「キット、彼らは人間か?」
「この前のアンドロイドは外見、体温分布、音声の周波数特性などに人間では知覚できないレベルで地星人との差異がありましたが、彼らは揺らぎの範囲内で同一です。」
「やっとこの星の人間に会えたようだな。」
「どうされますか?」
「見た感じ衣食住は足りてそうだから、出来れば友好関係を築きたいんだが・・・」
「この前はいきなり撃たれました。」
「そうなんだよなぁ。この星の文化が分からないと迂闊な事は出来ない。」
「では、まずは偵察ですか?」
「そうだな。虫型偵察ドローンで情報収集をしよう。最低限、挨拶やジェスチャーの意味が知りたい。」
「了解しました。」
「あぁ、そうだ。俺たちはまだこの星で虫を見ていない。恐らく彼らも同じだろう。だから、虫型とは言っても発見されれば騒ぎになるはずだ。絶対に見つからないようにしないとな。」
「では、動作モードGに設定して送ります。」
「あと、洞窟内部への侵入はまだ行わない。」
「何故ですか?」
「地表は壊滅状態だが、洞窟から出てきた彼らは文明的な恰好だった。という事は洞窟内には高度なインフラが整っているはずだ。下手に侵入して検知されては面倒だからな。時間はかかるが、念の為に通信は行わない。帰投させてローカルで情報を吸い上げる。」
「なるほど、理解しました。それでは2機を使用して交代で偵察させましょう。」
「あぁ、そうしよう。」
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彼らを発見して三日目だ。
俺は昼食・・・いや昼の栄養摂取をしながら洞窟の入り口を観察していた。
「なぁ、キット。」
「はい、何でしょう?」
「何て言うか、地星人とあんまり変わらない連中だよな。」
「はい、そうですね。地星人の中でも日出人に特に近いです。」
「キットもそう思うか?」
「はい。発音の種類や仕草は似ていますね。握手、ハグやキスといったスキンシップが見られずお辞儀の習慣があります。」
音声を聞かずに映像だけ見ていると、そこに日出人が居るような錯覚に陥る。
ただ、まだ言語は分からない。
何となく意味が分かるような気はするが、対象の行動や表情を見ているせいだろう。
「ただ、明らかに違う点があるよな・・・」
「そうなのですか?」
「一人の例外も無く、野郎はイケメン、女は美人あるいは可愛い系だろ?この前のアンドロイドとは大違いだ。」
「なるほど。言われてみれば、それぞれタイプは違いますが美男美女とされる領域に大きく偏っていますね。」
俺は平凡な顔立ちだ。
全く印象に残らないので、潜入任務には非常に都合がいい。
決して負け惜しみで言っている訳では無い・・・筈だ、たぶん。
「ゴホン、ところで言語の解析は順調か?」
「まだ単語は繰り返し使われるものしか分かっていません。ただ、文法構造も日出語に類似している事までは分かりました。」
「見た目も同じで、この星の文字と神代文字の類似性、それに文法もか・・・ やはり何か関係がありそうだな。」
しかし、未だに分からない事が多い。
彼らは一昨日と昨日は朝から洞窟前の広場状になっている平地で運動をして昼前に洞窟に戻り、昼過ぎに計測器と思われるものを持ち出して設置し、夕方にサンプルを持ち帰ってくるという生活をしている。
遭遇前は電波は観測できなかったが、今ではいくつかの周波数が常時流れている状態だ。
キットの解析によれば気温、湿度や風速など気象情報が含まれているらしい。
「お、出てきたな。」
「いつもと様子が違いますね。」
「そうだな。今朝は人数も少な目だったしな。遠征でもするのか?」
広場には1,000名ほどの人間が居た。
その内、100名が大きめのリュックを背負っている。
なかには双眼鏡や方位磁針を持っている者も居る。
「こことは別の拠点でもあるのかもしれないな。尾行してみるか?」
「そうですね、ここには虫型偵察ドローンを置いていきますか?」
「いや、それだけだと何かあってもすぐに分からないからな。蒼雷を偵察モードにして上空20,000mで待機させよう。彼らも電波を使う事がはっきりしたから、レーザー通信で交信だ。念の為、上昇地点は西に15kmの地点にする。」
「了解しました。」
しばらくすると広場で整列が始まった。
何らかのセレモニーだろうか?
「キット、何か分かるか?」
「人数は1,001名です。ただし彼らに演説している1名は女性型アンドロイドのようです。このアンドロイドは交戦したタイプと異なり、声や外観以外はそれ程人間に似せていません。人間は、男性が500名、女性が500名です。派遣されると思われる100名は全て男性です。」
「ちょうど半々か。それにしてもアンドロイドに指揮命令されているのか・・・」
「この前のアンドロイドのように問答無用で我々を襲ってくるタイプだとすると、その指揮下にある人間も安全とは言えないかもしれません。」
「そうだな。やはり接触するのはもう少し待つ方がいいな。」
やがてアンドロイドの演説が終わると、派遣部隊と思われる100名が移動を始めた。
残った者達から”行ってらっしゃい”や”気をつけて”などの声が掛けられているようだ。
派遣部隊の半数ほどは見えなくなるまで何度も振り返っては手を振っていた。
「よし、追跡するぞ。」
「了解しました。」
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夕方になった。
「キット、彼らをどういう集団だと思う?」
「一般人ですね。少なくとも軍や警察などの訓練を受けた集団ではありません。多少ましな者もワンダーフォーゲルの経験がある程度でしょう。」
「そうだよな。全然警戒してないし、斥候も出さず休憩中の歩哨もいなかった。」
「アンドロイドの襲撃を受ける可能性を考慮しているとは思えません。」
「彼らにとってはリスクでは無いという事だな。やはりアンドロイドの仲間か?」
「そうとも言い切れません。その場合は我々の事をリスクととらえて、あれ程無防備な行動は取らないでしょう。」
「という事は、彼らも敵性アンドロイドの存在を知らないかもしれないか・・・」
「あるいは、我々をおびき寄せる為の生餌かもしれません。」
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日が暮れた。
暗くなってから野営の準備を始めており、ライトの明かりが盛大に点いている。
更にたき火も盛大に焚かれており灯りが漏れ放題だ。
挙句の果てにはたき火の周りで歌い出す始末だ。
やはり警戒している様子は全く見受けられない。
「ずいぶん楽しそうだな。」
「まるでキャンプですね。」
「生餌説は弱くなったな。・・・いや、そうでも無いか。」
「はい。我々の存在を伝えずに、奴隷にレクリエーションをさせてやるとでも言って出発させた可能性もあります。」
「餌は自然な動きが一番だからな・・・」
しかし興味深い事も発見できた。
たき火の周りで大騒ぎする連中と、野営地の隅の方で固まっている連中に分かれている。
軍隊のような組織では無いにせよ、何らかの階級があるのかもしれない。
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