第25話 前途多難な期末考査(前)
シエルさんの大爆笑と言う通過儀礼を経て。学園に復帰した俺を待ち構えていたのは期末考査と言う試練だった。
召喚術に関しては、まず間違いなく合格点を取れる自信はある。問題はその他が壊滅的だと言う事だ。
「と言う訳で、何とかしてくれアプリコット」
俺は、先日の件について平謝りをした後、そのまま土下座に移行してアプリコットたちに教えを乞うた。
「もう、仕方がないですね。アデムさんは」
泣きそうな顔をして大説教を繰り広げたアプリコットと、ふて腐れたチェルシーの機嫌を何とかなだめ、さあこれからと言った所に、高らかな笑い声が響いて来る。
「おーほっほっほっほ。アデムさん。男たるものが早々に土下座などするものではございませんでしてよ」
「シャルメル?」
こっちは一世一代の交渉の真っ最中なんだ。冷やかしなら他所でやってくれと思っていると。意外な一言が掛けられた。
「期末考査の対策についてですか、その様な事ぐらい
「え?」「な!」「は?」
何だろう、どういった風の吹き回しだろう。頭の中が疑問符で一杯になっているとチェルシーが俺の代弁をしてくれた。
「ど、どういう風の吹き回しですかシャルメルさん。こんな猿の相手をするなんて時間の無駄ですよ」
ウッキッキー、猿とは何だ猿とは。
「そっそうです、アデムさんのお世話は私たちがしますので、シャルメルさんのお手を煩わせるほどではありません!」
ウッキッキー、そうなのか?俺は試験に受かりさえすりゃどちらでも構わないが。
「あら、そうかしら。これでも
シャルメルはそう言いながら俺の隣に静かに腰を下ろした。
「「なっ!!」」
「あら? どうしたのですかお2人とも?
そう言ってシャルメルは俺にしだれかかり、泣き真似をする。
「「なっ!?!?」」
おっ、おいどうしたシャルメル、何か変なモンでも食ったのか? 照れるじゃないか。あと当たってるからね! 俺は紳士だから何がとは言わないが当たってるからね!
「シャ、シャルメルさん! この猿をあまり甘やかさないでもらえますか!」
それまで俺の正面にアプリコットと二人並んで座っていたチェルシーがシャルメルの逆に座り、ぐいとシャルメルから俺を引き離す。
おいおい、一体なんだねベイビーズ。ついにこの世の春がやって来たのか? 両手に華とはこの事か? まぁ片方は華と言うより竹と言った感じだが。
等と考えていたら、竹の節に捩じられた、やっぱりこいつは読心術を持っているんじゃないだろうか。痛い。
「アッアデムさん」
綱引きの綱気分を存分に味わっていると、正面のアプリコットの瞳に涙がたまる。
「アッアプリコットさん」
焦る俺、それを尻目に、ニヤニヤと笑みを浮かべるシャルメル。
「あら、そう来ましたか。では今日の所はこの辺で勘弁して差し上げましょう」
そう言ってシャルメルは俺の手から体を離し――
離れ際に俺の頬に柔らかいバラの香りが一輪咲いた。
「「「!?!?!?」」」
「おーほっほっほっほ!それは
そう言って彼女は自分の頬を指さしながら去って行った。
「「どどどどどどー言うことなのよ!!(ですか!!)」」
「いや、そう言われても俺にはさっぱり」
俺は彼女の唇が振れた頬に優しく手を当て、暫く顔洗わんでもいいかなー、と考えていると。二人の糾弾が始まった。
「なんであのお貴族様が、あんたなんかにキキキキ、キスしてるのよ!」
「いや、知らねぇよ! ……ありがとうございました?」
「ありがとうじゃありませんアデムさん! アデムさんは一体何をしたんですか!」
「いや、特に何もした覚えは……ないですよ?」
「なんでそこで言いよどむのよ! やましい覚えがあるんじゃないの!」
「そうです! もしかして、私達が帰った後に何かあったんじゃないですか!」
「ねーよ! 別にねーよ! 一晩嫌味言われて愚痴言われて笑われただけだよ!」
「ひ! 一晩! あなた彼女と一晩共にしたって言うの!」
「どういう事ですかアデムさん」
怖い怖い、直情的なチェルシーよりもアプリコットの目が怖い。可愛いお目目が座ってらっしゃる。
「退散!」
俺は素早く後方に飛び退き、一目散に姿をくらました。
「こら! 構内で走り回るんじゃない! 何事……って君か、また何か問題起こしたんじゃないだろうな」
色々な疑問を過去に追いやる為に闇雲に走り回っていた俺を呼び留めたのは、以前
「あっ、いえこれは青春の汗とかを流していただけで」
「全く何を言って……貴様その頬は何だ?」
「頬って、あッ」
「不純異性行為は校則違反だ、貴様何をやっている」
ジリ、とリリアーノ先輩が距離を詰める。全力で行けば逃げれるかもしれないが、いずれ見つかってしまうだろう、先輩の執念はあの説教で良く知っている。それならば。
「助けてください!」
俺はあえて彼女の懐に飛び込んだ。
「はぁ、君って子はホントに色々あるんだね」
「いや、色々って言うほどじゃ」
「誉めているんじゃないぞ、女の敵」
散々な言われようである。だが、無事に説教から悩み相談へとシフトチェンジ出来たことは、俺は軍師の才があるのではないかと疑っている所だ。自分の才能が怖い。
「けど、ホントに、特に何かしたって覚えはないんですよ」
「君に覚えがあるかは問題じゃない。彼女がどう受け止めたかが問題なんだ」
「そんな事言われたら、どうしようも無いじゃないですか」
「そうだ、人間関係なんてそんなもんだ。しかしあのシャルメル嬢にそこまでさせるとは私も少し興が湧いた。一体何をしでかしたのか少し話して見ろ」
そう言ってリリアーノ先輩は興味津々な目で俺を見つめて来た。
「と言う事なんですが」
俺は2度にわたる狩りの顛末をリリアーノ先輩に話した。すると彼女はブツブツと何かつぶやいた後、仕切り直してこう言った。
「ふむ、面白い。そうだな面白いだ」
「面白いですか」
「私程度の人間でさえ君の事を型破りだと思うんだ、きっと彼女の周りには君は今まで居なかったタイプの人間だろう。そこが彼女の興味を引いたんじゃないか?」
「ん? なんだろう、つまりあのキスはおもろいペットに唾を付けた程度の事なんですか?」
「そんな事私は知らんよ。私は彼女じゃない」
そう言ってリリアーノ先輩は軽く肩をすくめる。他人事だからってお気楽な事だ。
「はぁ、まぁいいです。それで悩み相談のついでなんですが」
「む? まだ何かあるのか?」
「勉強を教えて頂けないでしょうか」
男、アデム・アルデバル渾身の土下座再びである。
「はぁ顔をあげたまえ」
「教えて頂けるんですか!」
おれはガバリと顔を上げる。
「そうしたいのはやまやまだがな、そうしてしまうと私が彼女たちに恨まれてしまう。まぁ過去問の融通ぐらいはしてやるから、後は彼女たちと何とかするんだな」
「そっそんな」
「これも自業自得と思って諦めなさい。それと今日の所は貸しにしといてやる、不純異性行為の説教は試験終了後に行ってやるから楽しみにしておけ」
そう言ってリリアーノ先輩は颯爽と立ち去って行ったのであった。
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