第12話 胸騒ぎの放課後

「俺らの凄さを」

「見せつける?」

「……ですか」


 不思議そうな顔をして俺を眺めてくる3人達。おいおいなんだよ、スコットはともかくお嬢さん方ふたりまで、そんな珍獣を見るような顔はよせよ、照れるじゃないか。


「何を言ってるのよ馬鹿アデム。そんな事が簡単に出来てればお父様もカッシェさんもこんなに苦労してないわ」


 ため息を吐きながらそう言い捨てるチェルシーに、俺は肩をすくめてこう返す。


「それで、やる前から尻尾を巻いて逃げ出すのか? お前の召喚術に掛ける思いはそんなもんだったのか?」

「そっ! そんな事ある訳ないじゃない! この学校で私以上に召喚術の明日を憂いている生徒は居ないわよ!」

「だろう? だったら何の問題は無い」

「いやいや大将。問題は大有りだって、実際問題どうすりゃいいんだよ。召喚術なんて時代遅れのすたれた魔術どうやって盛り返せばいいんだ?」


 そう、確かに召喚術を取り巻く環境は厳しい。先の大戦で莫大な被害を負わせた張本人とやり玉に上がる一方で、なぜか人間の呼びかけに応じなくなった召喚獣たち。

 現在では5段階のクラス分けで1段階の者と契約できれば御の字、2段階の者と契約できれば神童とされる程レベルが低下してしまった召喚師。

 そのクラス2の召喚獣だって、熟練の真言魔術師にしてしまえば片手間にあしらえてしまう程度のものでしかない。


 だが、俺は知っている。数多の召喚獣を同時に使役し、村を救ってくれた英雄を。


「無理じゃないんだ」


 俺はそう言って、救世主の話をする。ここに集まった奴らは信頼のおける奴らだ、そろそろこいつ等にもあの人の話をしても良い頃合いだ。





「うそでしょ……」


 やはりこの話に真っ先に反応したのはチェルシーだった。彼女は夢でも見てたんじゃないのと言わんばかりに俺の方を見る。


「嘘じゃねぇよ。村中が証人だ」

「……それっていつの話なの」

「俺が5歳の頃だから10年前だな」


 その答えを聞いたチェルシーは考え込む。10年前と言えば召喚師問題の真っ最中。皆どうやってこの問題を乗り越えようか途方に暮れている時期を過ぎ、諦めモードに入ってしまった頃だ。


「私、そんな人知らないわ」


 この上なく真剣な顔をして俺の話に入り込むチェルシー。だが、事実は事実でしかない。


「いい、私ほど召喚術に召喚術師について詳しい人間はごく一部しか居ないわ。けどそんな奇跡の様な召喚術師見た事も聞いたことは無いわ」

「話が堂々巡りだな。事実は事実として受け止めろよ。まぁ俺が言いたいことはだな。要するに俺たちにもあの英雄の真似事が出来れば、召喚術師の評判はうなぎのぼりだし、アプリコットへのイジメなんか吹っ飛んじまうんじゃないかってことだ」

「……それは確かに、そのくらいのインパクトはあると思いますが。当てはあるんですかアデム君」


 それまで、静かに話を聞いていたアプリコットが自分の名前が出てきたことで参加して来た。


「ああ、その鍵は……お前の親父さんだチェルシー」


 俺はそう言って考え込むチェルシーを指さした。





「お父様! この馬鹿の話なんだけど!!」


 翌日の放課後、俺たち4人は教授室を訪ねた。娘のその一言で全てを理解したのか、エドワード教授は、重い口調でこう言った。


「残念だが、その件に関しては私からは何も言うことが無い」

「でもお父様!」

「それと、分かっていると思うが、その件に関しては他言無用だ」


 なす術は無く語る術も無い。今までに聞いたことの無い位厳しい口調で先生はこの話を終わりにした、いや始まらせてくれなかった。





「何よ! なんだってんのよ!」とチェルシーは激しく地面に八つ当たりする。


「まぁまぁ落ち着けよチェルシー」

「そうだな、誠実な先生じゃねぇか、商家だったら、まずやってけねぇな」

「何よ、どういう事よ」


 スコットの相槌に、チェルシーは藪睨みで見返す。


「どうゆう事も何も、あの返答が先生にできる最大限の譲歩ってこったろ」

「譲歩って……あっ!」


 信頼していた父親に裏切られたとショックを受けていたチェルシーだが、一旦冷静になれば頭は回る。そう、先生は答えられないと言う答えを出していたのだ。


「つまり、アデムの話は事実って事?」

「その可能性が高いか、若しくは……」

「限りなく上層部、少なくとも教授クラスにとっちゃ都合の悪い話って事だな」

「あっ、あの、済みません、私の話なのになんだかとっても複雑な事になってしまって」


 俺たちが複雑な顔をしていると、アプリコットが申し訳なさそうに謝ってくる。


「いやいや、アプリコットの所為じゃねぇよ。俺が一足跳びの一石三鳥を狙っちまったからいけねぇんだ」


 アプリコットのいじめ問題、召喚師の地位向上、そして俺の夢への足がかり、村の英雄たるあの人の足跡を暴こうとしたのが問題だ。やはり地道にコツコツとやっていかなきゃいけないらしい。


「ふりだしに戻るね、そうしたらどうしましょうか。召喚師の地位向上については全くの同意見なのだけど」

「邪法がだめなら正攻法だ、デカイ業績を引っ張り出してそれを御旗にってのは良いと思うぜ」

「その業績とやらが問題だが……」


 まだ新学期は始まったばかり、期末試験にはちと早く、テストの成績で鼻をあかすと言う事は望めない。ならばやはり召喚師は召喚師らしい分野で結果を出して世間様に見てもらうしかない。

 となれば……。


「なぁお前ら今度の休みにちょっと魔獣狩りピクニックにでも行かないか?」


 召喚師と言えば召喚獣。俺はその結論に至ったのであった。

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