サモナー・オブ・サモナーズ

まさひろ

プロローグ 召喚師を目指して!

第1話 夢と希望

 二つの国があった。


 足りない力を組織力と魔術によって補う人間族の王国と、個々の武力によって優れた戦闘力を誇る蛮族の帝国。


 それら二つの国は二つの大きな山脈によって隔たれていた。


 大きな戦があった。


 それは今より30年余年前。始まりは何だったか、今となっては分からない事だ、数年間続いたその戦は互いに国土を、兵を、国民を酷使する、泥沼の膠着状態になった。


 その中で人間族の王国ではある計画が実行されようとしていた。


「伝説を、伝説の勇者を召喚するのだ」


 それは古い書物に記された伝説であった。


『異世界より召喚されし勇者、その無限の力を持ち人間に平和をもたらす』


 その伝説に則り、計画は密かに執行された、敵を欺くには先ず味方からと言う事で、誰にも知らされず、それを知る者はごく少数に限られた。


 そして――


 その計画は――


「駄目だ! 制御が追い付かない!」

「失敗だ! 実験は失敗だ!」

「いや違う! これだ! これでいいのだ!」

「駄目だ! そいつを止めろ! そいつは狂ってる!」

「邪魔をするな! 勇者じゃない! 神を! 私は神を召喚するのだ!」


 隠匿された実験施設諸共灰燼と化した。





 実験は失敗した、だが成功した。

その実験ののち戦争は急速に被害を増大化させ、両国とも残り少ない資源を吐き絞る様に消費させられ、戦争は両者痛み分けと言う事で終了した。


 そののち10年にわたる戦後の混乱期を経て、両国は落ち着きを取り戻していった。


 それから更に年は流れ、大戦時より30年、平和になった王国、その南部の片隅のそのまた片隅の片田舎、そこから物語始まる。





「本当か! 本当に俺は行けるのか!!」


 俺は両手をテーブルが割れんばかりに叩き付けて立ち上がりながら、そう聞いた。


「ええ本当よ、神父様が推薦してくださったの。これも貴方の日頃の努力のおかげね」


 俺は、母ちゃんの言葉を半聞きのまま、居てもたってもいられずに大声で叫びながら家を飛び出した。


 ここは、聖王国辺境の地、ジョバ村。リッケ大森林と言う、実りが多ければ危険な魔獣もわんさか生息する広大な原生林を背後に抱く寒村だ。

 小さな村なので、村人一丸となって農業や狩りに勤しみ、ささやかな実りに感謝をささげ、勤勉に地道に日々の生活を送る。村人の大半はこの地から一歩も外に出ることなく人生を終え、ここを訪れるものもごく限られているという、ごくありふれた田舎。

 そんなところに暮らす俺が、王都の学園に進学できるのは、正しく奇跡の様な事だった。

 これも物心付いた頃より。たった一つの目標目がけ、一心不乱に努力して来た結果だろう。


 ひゃっほーい、と奇声を上げつつ、村中を駆けまわり、そしてたどり着いたところは――


「神父様!!!!」

「おや、アデム君、どうしましたそんなに慌てて」


 俺は走る、走って、走って、祭壇の前に立つ神父様に――


「シャッッ!!」


 渾身の蹴りを放つ。


「はっはっは、相変わらず元気ですね、アデム君は」


 神父様は指揮者がタクトを振るうように軽く手を振ると、俺の蹴りの軌道を反らす。いや、反らすどころではない。俺の跳び蹴りは、まるで濁流に飲み込まれた小枝の様に、ぐるんぐるんと回転し、俺は真上に跳ね上げられる。

 俺は、それに逆らわず、姿勢を整え、天井を足場に着地。そして、トンと天井が痛まぬ程度に踏み切って再度神父様に向かい矢の様に突進した。





 神父様は、元は中央教会でかなりの地位についていたようだが、5年ほど前に何やらデカい事をやらかしてしまい、ほとぼりが冷めるまでこの村へ避難して来たと言う変わり者だ、人はそれを左遷と言うのじゃないかと思うが、本人は至って満足げに田舎ライフを満喫している。何でも政治と言う虚飾から離れたこの村の様な所にこそ、真に神の光が存在するとか何とか。


 まぁ神父様の個人的な事情はどうでもいい。俺にとって重要なのは神父様から最新の学問等を学べると言う事だ。そんな訳で、俺は夢の為に神父様の所に入りびたり教会の手伝いをする代わりに、学問や体術について師事に付き、それこそ血反吐を吐くような日々を過ごした、勿論家の手伝いもあったから、その忙しさは、どうして今生きているのか不思議なほどだ。


 勿論、そんな生活を俺一人で送れる訳ではない。家族は勿論、村の皆も陰になり日向になり手伝ってくれたおかげだった。そう、おれの夢は俺一人の夢ではない、村の皆の夢でもある。


 俺の夢、かつて俺の村を野盗の襲撃より救ってくれた、偉大なる召喚術師。その方の様な召喚術師になる事が俺の、皆の夢だ。


 その方の勇士は幼き俺の目に未だに焼き付いている。大きな戦だか、なんだかの結果巷に溢れたならず者たち、それが徒党を組んで襲ってきた事があった。家は焼かれ、多くの犠牲者が出た、そんな中、ふらりと立ち寄ってくれたのがその方だった。

 その方は5匹の召喚獣を従え、数十人からなる野盗を一閃した、正に鎧袖一触とはこの事だった。グリフォン、ウンディーネ、ラミア、アダマンタートス、ファイヤーバード、あのころは名前も分からなかった多種多様の召喚獣を手足のように操って。野盗どもを赤子の手をひねる様に無力化させた。

 そして、貴重なポーションを惜しげも無く使い、傷ついた村人たちを癒してくれた。その方は正に村の英雄だった。俺がその方に憧れるのも無理はない、いや村中皆が彼に感謝し、憧れた。村を救い、名も告げずに立ち去ったその召喚師を。そこで俺の人生は決まったのだ。

 その方の様な英雄に、召喚師の中の召喚士、サモナー・オブ・サモナーズになると!




「とったーーーーー!!!」


 良いのを何発か貰いそうになるも辛うじて、神父様の首に掛かるストラの奪取に成功した。

 これで、昨日に続けて2回目の奪取だ。昨日の事がまぐれでない事は見事に証明された形になった。


 パチパチパチと神父様の拍手が聖堂内に響き渡る。


「いやぁ、見事ですよ、アデム君。私から一本取ることが出来るのはそうそういません。ですが忘れないでください。貴方が身に着けたその力は、決して無暗に他者を傷つけるための力ではありません。その力を振るうべき場所と時を違わぬ事を私は信じていますよ」

「はい! 神父様!」





 それから数日後、旅立ちの準備が出来た夜、村を上げての俺の壮行会が行われた。神父様の口添えがあったとはいえ、こんな田舎村から遥か離れた国の中心、王都の学園に通う人が出る事など、今までになかった事だからだ。


 あの方の様な英雄に。弱きを助け強きを挫く、サモナー・オブ・サモナーズに俺はなる。俺は夢と希望に満ち溢れながら、村民皆から笑顔と激励の言葉を受けて王都へと出立した。


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