第72話 二人目の仲間

「うーん、あの馬鹿魔法使い、また手の込んだ嫌がらせを……」


東の魔女の所には、僕とマリィさんとカカシの道具屋の三人でやってきた。

カカシの道具屋は僕をギルドに連れてきた流れで、そのまま付き添いしてきた感じだった。


「うーん、こんな仕掛けがあることは予想してなかったわ。まさか宝を手に入れた者にまで嫌がらせを考えていたなんて……」


「具体的にはどんな事が起こるかって、この地図を見てわかりませんか?」

僕はマーベラさんに聞いてみたが、マーベラさんの回答はある意味予想通りであった。


「何が起こるかまではこれを見ても解らないわね。私の持っている地図の知識は、アイツがベラベラ聞きもしない自慢話をしてきたから、それで覚えていただけなのよ」


「どんな魔法がかかっているか、わからないように色々工夫もされているし、わざとらしくダミーの魔方陣も書かれているわ」

マーベラさんは、地図をみながら説明をしてくれる。

「少なくともあの馬鹿の所には情報は流れているわね。……多分だけど、なにかの安全装置か、封印が解除される仕組みになっているみたい。1つではないわね……きっとアイツが各地に仕掛けた何かが、ランダムで選ばれた個数分だけ解除されるみたい。運が良ければ1つかも知れないし、悪ければ何十、何百かも……」


「それなら、僕が近くに行かなければいいんですかね?」

「そう言った固定式の罠もあるかもだけど、多分そう言うものは少ないと思うわ。だって、あの魔法使いは貴方個人に嫌がらせをしたい筈なのよ。この広い世界で、成功者の貴方が訪れるかどうかわからない罠を稼働させて、のんびり待っているとは思えないわ。きっと解除された何かは、今も貴方に何かしら嫌がらせをしようと近づいている筈よ……」


「あぁ、本当に性格の悪いこと!」

本当に忌々しそうに話すマーベラさん。


「思い出した!あの馬鹿は、いかに自分が優れた魔法使いかって自慢話を延々と私に聞かせ、挙げ句の果てに私に妻になれと言ってきたのよ」


「え?マーベラさんに求婚したの??」

僕がびっくりして聞くと、マーベラさんはさも心外だという感じで話を続ける。

「私が求婚されるってそんなに驚くこと!?そんなに魅力ないかしら?……まぁ、それはさて置き、そんな魅力の無い私にも選ぶ権利は有るわけ。考える事もなくソッコーで断ったわ」


「魔法使いは、それからどうしたんですか?」


「私に対して呪いの言葉とも取れる暴言を吐いてきたんだけど、逆にアイツの事をボロクソに言ってやったら、泣きながら帰っていったわ。多分あれ以来顔を見ていないわね……。最後に見たのは何百年前だったかしら?……どうでも良いことだったから忘れたわ!

サバト魔女の集会でも最近話題に上らないし、引きこもっているか、他のコミュニティに移ったんだと思うわ」


サバト魔女の集会?そんなのが有るんですか?」

「……多分君達が思っているようなモノとは違うけどね。同じ系列の魔法使いのお茶会みたいなものよ。たとえば、貴方のお爺様が封印した『災厄の魔女』みたいな存在は、私達の開くサバトなんかには近づきもしなかったわね」


「私は生活に根付いた魔法、特に医療だとか、農業だとかね、そう言ったものを求めていたから、そう言ったコミュニティには参加する事は有ったけど、災厄の魔女なんかはそんなものに興味は無かったからね」


「…そう言ったコミュニティで情報交換とかをして魔女はスキルを上げたりするのさ。

例えば……お前さんの足は作り物だね?

その作り物の足も、その気になったら私は生身の足にすげ替える事だって出来るんだよ?ただし、お前さんが私を満足させる対価を払えればだけどね……」


「!?」

マーベラさんは、カカシの道具屋デッカーさんの足が、作り物だという事を言い当てた。


歩き方も不自然ではないので、作り物だと気づくものは、ほぼいないであろう。

少なくとも、僕は作り物だとは言われるまでわからなかった。


「俺の足を治せるのか!?」


「無いものを作るから、少し難しい部類にはなるがね。お前さんの体から素材を集めるから、作る際に多少の痛みは出るかもわからんがね。私なら可能だ」


「対価は……?」

足を失い冒険者を引退したデッカーからすると、治せると言う情報は物凄く価値のある話だ。


「そうさね、足の対価は足で返してもらおうか……」


マーベラさんは唾を飲むデッカーさんを見つめる。


「……お前さんが払う対価は、そこにいる私の恩人の坊やの旅のお供をする、と言うのはどうだい?意地の悪い魔法使いの妨害が有るかも知れない危険な旅になるかもしれない。足を取り戻す代わりに、命を失うことになる可能性だってある。決めるのはお前さんだ。どうする?」


「そんな事で俺の足が元に戻るのか!?

また旅に出られるようになるんなら!!」


「じゃあ決まりだね。お前さんだけちょっと別の部屋に来てくれるかい?その時は目隠しだけしてもらうからね」

マーベラさんはそう言うとデッカーさんを連れて別室に移動した。


「なぜ東の魔女はデッカーさんを別室に?ここでは魔法を使えないんですか?」

マリィさんが疑問に思ったのか、僕にそう聞いてきた。

「以前マーベラさんの魔法を見よう見まねでやった人がいて、その時の事故で国がおかしくなってしまった事が有ったんです。だからそれを警戒して、極力魔法を見せないようにしているんだと思います」


「色々有るものですね……ですが、『ウロボロスのデッカー』復活です。ブランクは有るでしょうが、元最強の名を欲しいままにしたパーティーのメンバーです。大きな戦力になるのは間違いないはずです」

冒険者ギルドの受付をしているマリィさんが僕にそう話すと言うことは、本当に凄い冒険者だったのだと思う。


その『ウロボロスのデッカー』にギルドマスターがスカウトする位の冒険者『豪腕のマリィ』


この二人が駆け出し冒険者の僕の最初のパーティーメンバーだなんて、なんて贅沢なんだろう……。


───そうこうしている内に、マーベラさんとデッカーさんが戻ってきた。


「俺の足が!俺の足が治ったぜ!」

デッカーさんがにこやかに笑いながら帰ってきた。

……手には今まで付いていた義足を持っている。

「石畳の冷たさが心地良いぜ!この感覚は久しぶりだ!」

義足に靴が固定されているせいで、片方裸足のデッカーさん。


「気が利かなかったね。これはサービスさ」

マーベラさんが杖を振るう。

あっという間に義足が靴に変わった。

きっと無詠唱で掛けられるような魔法なら、見られても問題ないんだね。


その靴を嬉しそうに履いたデッカーさん。

「輝君、お前さんに親切にして良かったよ。まさか俺の足が元に戻るなんてな……あの時は思いもしなかったよ。旅の事は任せてくれ!無事に送り届けると約束しよう!」


「よろしくお願いします!」

僕が今出きる事はこれぐらいしかなかったから、精一杯元気よくお願いしたよ。


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