第73話 四人目を探して

次の日、母さん、ノマドさん、四人の精霊達、東の魔女マーベラに見送られ、僕とマリィさん、デッカーさんの三人は旅に出発した。


まずは僕の鍵束で南のカンザシティに向かった。

ここに元冒険者パーティー『豪腕』のアマンダが住んでいるらしい。

アマンダは元暗殺者アサシンと言う異色の冒険者で、ナイフと弓の名手だそうだ。


元暗殺者と聞いて、ちょっと怖い人かと警戒してしまった僕を察したのか、マリィさんは笑いながら「会えばわかるけど、暗殺者の印象が変わるわよ」と話すのだった。


カンザシティの時計塔の機械室が鍵の出口だった。

この町は町の中心部に時計塔を持つ、別名『クロックシティ』と呼ばれるユニークな町だった。


この時計塔の管理をしていた管理人の好意で、祖父光一郎が合鍵をもらったのだそうだ。

機械室は基本的に立ち入り禁止なので、普段から鍵が掛かっている。

その為、ほぼ自由に出入りが出きるそうだ。


「とりあえず、この町の冒険者ギルドに話をしてアマンダの居場所を聞きましょう。この街の何処かに居るということしかわからないので……」


マリィさんの案内で冒険者ギルドに向かう。

この街の冒険者ギルドは路地の奥まった場所にひっそりと存在する建物だった。

僕一人では見つけるかとが出来なかったかも。


平屋の建物の中に入ると、手前が酒場で奥の方にギルドのカウンターがあると言う造りだった。

「この街は初めてくるが、ここのギルドはなかなか殺風景な所だな。こういうのは嫌いじゃないが……客がいないし、活気ってもんがないな」

デッカーさんが周りを見回す。


「昔はギルドも酒場も、昼間でも結構人が溢れている場所だったのですが……」

マリィさんがそう言いながら奥のカウンターに向かう。


「久しぶりです。覚えていますか?『豪腕』のマリィです」

暇そうに椅子に座っていたカウンターの男がマリィさんに気付くと、にこやかに笑いながらマリィさんに右手を差し出す。


「お久しぶりです!何年振りですかね!?引退したとお聞きしましたが、今日はどうしました?ご旅行ですか?」


「いや、久々にクエストを受けたんですよ。それで昔の仲間を探しているんですが!」

二人は握手を交わした。


「どなたをお探しで?」

「この町にアマンダがいると聞いてきたんんですが……」

「アマンダ様ですか?ちょっとお調べしますが、この街に滞在している記録がありましたかな……」

「多分この町に住んでいると思うんです」

「そうですか……街でお見かけしても多分私共ではわからないかと思いますし……記録を調べてみます。」

記録を調べながらカウンターの男が話を続ける。

「なにぶん、アマンダ様はいつもフードを深く被ってらっしゃって、しかもお顔をマスクで隠されておられましたから……」

「そうですね、アマンダの素顔を知る者は私達位だったからな……」


「アマンダ様がこの町を訪れたのは、マリィ様達と廃鉱の探索クエストを行ったのが最後ですね……クエストの記録も、滞在の記録もこちらには残っておりませんね……」

「そうかぁ……ガセネタだったのかなぁ……。冒険者が長期滞在で冒険者ギルドに顔を出さないなんて事はないもんなぁ……」


マリィさんがそう言うと、カウンターの男が困った風な顔で切り出した。

「その事なのですが……実はこの町は、今はほぼ冒険者ギルドが機能していないのです。その証拠に、見ていただければわかるかと思いますが、酒場にもギルドにも冒険者の姿が一人も居ません……」

確かに、店内には誰もいない。

それは入ってきた時にデッカーも指摘していた。


「昔はいつも活気があったこのギルドも、今では毎日が開店休業状態です」

「何かあったのですか?」

マリィさんが心配そうにカウンターの男に質問する。


「街の方に大きな酒場が出来たのです。そこにはクエストの掲示板もあり、その酒場はクエストの依頼の手数料をギルドの様に取らないと言い切っており、依頼人は成功報酬のみの支払いになります。しかも冒険者にも得があって、ギルドの様に年会費をとりません。しかも、酒や食事の注文等でポイントが溜まり、そのポイントでギルド以上のサービスが 受けられるのです。冒険者はギルドに毎年の年会費を払うより、そちらに乗り換えた方が得なのです。

そうなれば、あとは初めて訪れる冒険者頼みとなりますが、ご存知の通りここは非常に奥まった分かりにくい場所で御座います。

初めて訪れる冒険者は、この場所が見つけられなくて来れないか、ここに来る前に酒場を見つけて、そちらに行ってしまうか…」

カウンターの男は溜め息をついた。


「ですから、こちらにクエストを出す人もおらず、掲示板はあの通り、ギルドの受付嬢の募集の貼り紙だけですよ。誰も見に来る者も居ませんから、受付嬢の募集にも人が集まらず、こうしてギルドマスターの私が受付カウンターに座って店番をしている状態ですがね……」


カウンターの男は受付じゃなくて、ギルドマスターだったのか!

マリィさんは知っていたのだろうけど、僕とデッカーさんは驚いた。


「それじゃあ、アマンダさんの情報はその大きな酒場に行かないとわからないかも……」

マリィさんの方を見る。

「昔の馴染みがそうなるのは悲しいものだ……せめて我々だけでも酒場で食事でもしていこうか……」


「ありがとうございます。ですが……なにぶん、料理も私が作るので、レパートリーはベーコンの炒め物と、卵料理位です。飲み物は水とラム酒しか置いていない状況で……もうしわけございません……」


僕らはベーコンの炒め物と、水とラム酒を注文し、軽く世間話をしてギルドを出た。


「アマンダを探すにはその酒場にも顔を出す必要がありそうね」

「そうだな……そのポイント制の店ならば、アマンダの情報は有りそうだ」

歯につまったベーコンを楊枝のようなもので取ろうとするデッカーだったが、町の時計塔の方を指差す。


「おい!あれを見ろ!なんだ?ワイバーンか?」


町の時計塔に巻き付く様に佇む魔物が見えた。

薄汚れた羊皮紙の様な色をしているのと、羽の端がボロボロになっている所に違和感を感じた。


「遠目でよくわからないが、手負いか?それともワイバーンのアンデッド……?」

「ワイバーンのアンデッドなんて聞いたことないわよ??」

「自分で言ってはみたものの、ワイバーンでアンデッドなんて、そんなもん造っても操れないよな!?」

「じゃあ、手負いかしら?」


「もしかして、時計塔までは飛んできたけど、何かあって飛べなくなって時計塔に、しがみついているんですかね?」


「じゃあ、アイツはもう飛べないのか?それはそれでまずいぞ?あんな町の中心部で暴れられたら……」


町にダメージを与えずに討伐は非常に難しいものに思えた。


「あのワイバーンは、今の俺達のパーティーには相性が悪い相手だ。

討伐はなんとかできても、討伐の時に出た被害の責任を取らされる可能性があるしな。

俺もマリィさんも剣による近接戦闘が専門だ。

輝君はフレイムソードのコントロールが出来ない以上、逆に被害を拡大させてしまうかもしれない。

正式なクエストになって、免責とかがはっきりしないと手が出しにくいな。」


冷静にワイバーンを分析するデッカーさん。


「もう少し近くに移動するか。特徴をもっと良く見たい」

そう言うとデッカーさんが、ワイバーンから見ての死角に張り付く。

死角から死角へ移動を繰り返すデッカーさん。


「輝様、私達も続きましょう」

マリィさんに促され、僕もデッカーさんを真似して移動する。


これが凄腕冒険者の実力の片鱗なんだろうな……

かなりワイバーンの近くまでやってきた。


「あれは、本当にワイバーンか!?」

デッカーさんが声に出す。


「ワイバーンかどうかというよりも、生き物ですか?私には生命体に見えないです!!」

マリィさんが言うように、時計塔に巻き付いたワイバーンは作り物に見えた。

それをみて僕はピンと来た。


「折り紙だ……きっと、あれは羊皮紙で作った折り紙です!もしかしたら、あれが例の意地の悪い魔法使いの災厄の1つかもしれない!」


あれは、宝の地図と同じ素材……羊皮紙だ。

誰かが羊皮紙でワイバーンを作り、命を吹き込んだんだ。

そんな事を考えてこのタイミングで実行するなんて、もうそれ以外に考えられない。


「そうか……そうなれば、意地でも俺らで倒すしかないな!」

「ここは一度離れて、何処かの扉から時計塔の機械室に飛ぶのはどうでしょう?それなら一気に近接戦闘が出来ます!」

「それはいい!危険を避けて懐に飛び込める!」


マリィさんもデッカーさんもホントに凄い。

的確な状況判断。

これが歴戦の冒険者か────


そう思った瞬間だった。


僕達の死角から放たれた一本の矢。

その矢は、遠距離から放たれたにもかかわらず、通常の矢のような放物線は描かずに一直線にワイバーンに向かった。


見事にワイバーンに突き刺さった矢が発光したかと思うと、ワイバーンが炎に包まれた。


ボロボロに崩れながら時計塔から落下するワイバーン。


「あれは……『豪腕のアマンダ』の光の矢だわ……やっぱりこの町にいたんだわ!」


その後、僕らはワイバーンには目もくれず、矢の放たれた方向に急行したんだ。



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