第64話 宝島

「私が空間移動出来るところは、行ったことのある場所と、目視できる所だけって話はしたわよね?」

 マーベラが僕に諭すような話し方で話をする。

「宝島に行くには貴方の持っている鍵束の力が必要なの……貴方の持っている鍵の中に、宝島の鍵も幾つかあるはずなのだけど、今回はその中の『開かずの間』その鍵を貸してちょうだい。……そこに地図はあるはずよ」


「その部屋の鍵は私が知っています。黒い鍵で龍と亀がかいてあるものです」

 ノマドさんが前に出る。


 僕が鍵束を渡すとしばらく見た後、ひとつの鍵を選んだ。

「……この鍵で間違いありません」


「さて、これからの事だけど……私への対価の件……どうする?」

 鍵束には手を出さず、真っ直ぐ僕を見るマーベラさん。


「…貴方の事を信じます。どうぞ」

 僕の返事は話の途中で既に決まっていた。

 だから僕は鍵束をマーベラさんに渡した。


「信じてくれてありがとう。悪いようにはしないわ。そうそう!私の感が確かなら、今日のパーティーはきっとあなた方の想像を遥かに上回る盛大なものになるはずよ!」


 そう言うと、マーベラさんは扉に鍵を差し込む。

「それじゃ、宝島の開かずの間を開けますか!」


 ───扉を開けると、そこは宝島だった。


 正確には宝島のダンジョン内の『開かずの間』と呼ばれる部屋の中だった。


「す、凄い!!」

 部屋には眩い位の黄金、宝石の山だった。

「これは光一郎様の宝の一部です。つまりは恵様、輝様への遺産と思ってください。黄金や宝石は人を狂わせます。光一郎様からは時を見計らって渡してほしいと言われていましたので、今まで秘密にさせていただきました。輝様が成人した頃に…と思っておりましたが、輝様はもうご立派になられましたので、光一郎様もお許しになられることと思います」


 ノマドさんがそんな話をしてくれているなか、僕の目はある物に釘付けになった。


「地図は……多分あれね」


 部屋の中央にある台座の上に、丸められた羊皮紙が一つ置いてあった。

「そうです!あのスクロールに間違いありません!」

 ノマドさんが少し興奮した様子で近づき取り上げる。


「……どうぞお手にとってください」

 ノマドさんがマーベラさんにスクロールを渡す。


「もう一度確認ですが、光一郎殿はノマドさんの為に『放浪者ノマドの国』を探していたのですよね?つまりはここに示されている場所は光一郎殿やノマドさんの言う所の放浪者の国と言うことになる」


 マーベラさんはノマドさんに向き直って続けた。

「貴方の言う『放浪者の国』とは何時、誰にどんな国だと説明されましたか?」


「以前……100年も前のことになりますが、私が流浪の旅をしていた際に、旅の途中で野宿している際に知り合った男に聞いたのです。

 この世の何処かに寿命のない者達が集まる国があるとその男は言っていました。その国の国民は、何処かに消えてしまった王子と、王子を探す旅に出たまま戻らない王を待ち続けていると……。

 その者は本当か嘘かわかりませんが、もう300年も生きていると言っていました。朝起きるとその男はいなくなっていましたが、300年前というと、私が放浪を始めた頃と時期が同じであったため、私と関係が有るのではないかと探し続けていました」


 ノマドさんの話を目を閉じて聞いていたマーベラさんがゆっくりと話始める。


「私の住む城の本当のあるじは、永久王えいきゅうおうと呼ばれた名君でした。

 ある時、お妃が魔法による事故を起こしました。お妃はお妃のご実家の口車に乗せられ、私の魔法を盗み見て、杖を使い空間魔法を使いました。ほんの出来心だったと思います。

 …ですが、魔法は暴走し、生まれたばかりの王子を飲み込んでしまいました。

 国中で王子を探しましたが、王子は見つかりませんでした。王妃は嘆き悲しみ、毒を飲んで自害を試みました。

 …気づくのが早かったため、王妃の命は助かりましたが、それ以来王妃は病に伏せってしまいました。

 王はと言うと、王妃の病と行方のわからなくなった王子の事でずっと悩んでいましたが、私に『後の事は頼む』と言い残し、放浪の旅に出てしまいました」


 ここまで一気に話をしたマーベラさんの瞳は少し潤んでいるようだった。


「いつまで待っても王子は見つからず、王も行方がわからない状態で、政治の事などわからない私に、出来る事など何もありませんでした。私は国の統治を各地方の自治に任せ、城の中に引きこもりました」


 マーベラさんの瞳がどんどん曇っていく。


「それから20年程経ったでしょうか…日々荒れていく城を見るに堪えなくなった私は、城の皆に提案をしました。

『また、昔のように過ごせる様になるまで眠りにつかないか』と。

 城に残っていた者達は真の忠信達でした。

 ですから、皆私の提案を受け入れました。

 その為に私がかけた魔法……いや、もう魔法とは呼べないもので、呪いと言った方が適切なものですが……『永久王の王子が城に戻るまで、王と王子の時間を止める呪い。対価は城とそこに住まう者が王子の帰還まで深い眠りにつく』というものでした」


 悔しそうな表情で話をするマーベラさん。

 きっと不本意だったのだろうが、それしか打つ手を思い付かなかったのだろうな。


「ノマドさんに放浪者の国の話をした男は、放浪者となった王だと思います。

 ……そして、失われた王子はノマドさん、貴方の事よ」


 マーベラさんの手の中で開かれたスクロール。

 ───ちょっと前まで宝の地図と僕らが呼んでいた地図には、一万メートル級の山脈の東にある国付近に印がついていた。

 東の魔女マーベラの居城だ。

つまり、ここが探し求めた放浪者の国だ。


 じいちゃん…じいちゃんとノマドさんが探していた場所がとうとう見つかったよ!

ノマドさんは東の国の王子だったんだよ!

 それがわかったのも、じいちゃんが残した地図のお陰だよ!

 良かったね、じいちゃん。

 これでゆっくりと休めるね……。



 引き返そうとした僕だったが、宝の山の中に見覚えかあるものを見つけた。

……クレヨンで描いた絵だった。

 僕が小学校に上がる前だったろうか?

 祖父の似顔絵を描いて渡したことがあった。

 あの絵……大事にとっておいてくれたんだ。

 この宝の山より、その事が凄く嬉しかった。

 僕が絵を手に取って見ると、マーベラさんが僕の横に来た。

「こんな物も有ったわよ」

母と父、祖父が生まれたばかりの僕を抱き、祖父の家の前で写した写真。

「あなたは愛されて生まれてきたのね。全ての人が、あなたの様に愛されて生きていけたら、どれ程素晴らしい世の中になるでしょうね…」


マーベラの流した涙は、きっと生まれたばかりで生き別れになった、400年前の親子に対する涙だったのだろうと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る