第63話 死者の遺言書

「私が欲しいものは、君のお爺さんが持っていた宝の地図だ」


 マーベラが対価の変更として提案してきたものは、祖父が生前謎を解こうとしていた宝の地図であった。

 ────その持ち主が欲する物の位置を示す地図。


 ───生前祖父が謎を解こうとした地図。

 ───その力を使ってノマドさんの為に放浪者の国を見つけようとした地図。

 ───魔女を甦らそうと影が欲した地図。


 しかし、その地図は祖父の死と共に紛失してしまった。

 祖父が隠したのか、誰かが盗んだのか……。


 どちらにせよ、今は紛失して僕の手にはない。

 少なくとも今は対価として渡そうにも渡すことはできそうにない。


「ふふふ、警戒することはないわ」

 マーベラがにっこり笑う。

 悪意は感じられないが……


「それに、私の勘が確かなら、貴方のお爺さんの悲願が叶うことになるはずよ」

 マーベラの話を信じれば、祖父が探していた『放浪者の国』を見つけることが出来るということか……?


「それは私の悲願でもあるのだよ」

 マーベラはその深い、黒と緋色の瞳で真っ直ぐ僕を見る。


「確かに、二人の怪我を治す対価としては相応しい品だとは思います。ですが、僕の手元に無いのです。対価としてお渡ししたいのは山々なのですが…」

 僕は正直に気持ちを伝えた。


 例え宝の地図がマーベラの持ち物になったとしても、マーベラが謎をといてくれれば、ノマドさんの求める放浪者の国を見つけることが出来るかもしれない。


「君がその気になれば用意することが出来るとしたら?」

 真意は定かではないが、マーベラは僕から目を逸らさずに話を続ける。


「それに、皆はあの地図の事を誤解しているわ」

 突然マーベラが衝撃的な発言をする。

「あれはね、宝の地図なんかではないの。本人が欲しいものは、あの地図に頼っていては絶対に手に入らない……創った奴の底意地の悪さが滲み出る…そんな地図なの」


「もしかして…あの地図を創った人を知っているのですか?」

「ええ、知っているわ。そいつは魔人との契約の代償にあの地図を創ったの。彼に魔人の求めた代償は『何度も使える宝の地図を作ること』だったの。そんなものを作らせた魔人の真意はわからないわ。もしかすると地図を奪い合うのを見たかったのかもしれないし、宝探しをする者を純粋に応援したかったのかもしれない。魔人の考えることは、私達人間にはわからないわ」


 マーベラはなおも続ける。

「『何度も使える宝の地図』作成を魔人との契約の対価とされた魔法使いは、誰かが喜ぶ物を素直に作るような奴ではなかったの。奴が創ったものは『持ち主の死後に宝の場所を記す地図』だったの。つまり、ただの宝の地図ではなく、『死んだ後にしか場所を教えてくれない地図』よ。それを創った奴は『死者の遺言書』と呼んでいたわ」


 マーベラは一度深呼吸すると話を続けた。

「しかも、持ち主が死んだ後、勝手にその持ち主が地図を取得した場所にまで戻るって言う、だめ押しの意地の悪さ……。金銭の譲渡でなら、売った奴のところに戻ったし、宝箱の中からなら宝箱に戻るってこと」


「今回の地図を光一郎さんがどこで手に入れていたのかは、龍之介さんの中のマルコフ殿の記憶で場所はわかっているの…」


「──────宝島よ」


 ─────宝島!!

 話には何度か出ていたけど、行く必要がなかったから今までスルーしていたけど、祖父の原点とも言える場所であり、いつかは上陸してみたいと思っていた場所だった。


 そこにあの探し求めた地図があると言う。


 祖父の悲願が叶うのがもう目前まで来ているかもしれない。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る