第58話 東の魔女の城

 東の魔女マーベラは杖を使って空間に四角を描いた。

 するとその四角が切り取られ、謎の光に包まれた空間が出現した。

その後杖を二人に向け何か魔法をかけた。

「それじゃ、私達は行くけど、今日有ったことは四人だけのヒミツね!じゃあね!」


 そう言うとマーベラは空間の中に消えた。

 僕がどうしていいか迷っていると、ひょこっと顔だけ空間から出した。

「ほら早く!君はこっちに来るんだよ」

 そう言うと僕に手招きして空間に消えていく。


「それではお二人とも、お気をつけて!」

 僕は羊飼い達に一礼すると空間に飛び込む。


「あっ…」

 二人は何か言おうとしたみたいだったが、僕が入ると空間は閉じて消えてしまった。


 飛び込んだ先は輝く大理石で出来た広間だった。

 少し早く入った魔女がコツコツと足音を響かせながら歩いていく。

 玉座があったので、そこに座るのかなと思ったのだけど、魔女は途中で90度右に曲がり、広間から出る扉に向かう。


「君!お茶を飲みながら話をしよう!こっちに来なさいな!」

 そう言うと、僕の方など振り返らずにどんどん進む。


 僕は踵を二回鳴らすと、魔女の後ろに追い付いた。


「君は他にも面白いものを持っているね。だが、そう言う物はあまり目立たないように使いなさい。先程の二人は君に感謝の念しか無かったが、私がさっき魔法で口止めしておいたから大丈夫だろうが、そうしなければ、きっとあの話を誰かにしただろう。その話を聞いた他の者の中には、何か良からぬ事を考える輩もいるだろう。……そう言うことだ」


 少し考える間があり、魔女が話を続けた。

「私の所にはその昔、毎日大勢の困り事を抱えた者がやってきたの。私の住む屋敷はとても賑やかだったわ。毎日来るお客さんと楽しい談笑をするのが私の楽しみでもあったの。その中にはこの城の元の持ち主である永久王えいきゅうおうもいたの。王自体は素晴らしい王だったのよ?でもね、お妃のご実家が悪かったの。お妃を通して私の事を知ったお妃の両親は、王や私に気づかれないように、お妃に私の魔法の秘密を調べるように言いつけたの。お妃は盗み見た付け焼き刃の魔法を使い、大変な事件を起こしたの。王は嘆き悲しみ、この城の管理を私に任せると、流浪の旅に出てしまったわ…」


 昔の話をする時の魔女は話し方が違った。

 きっと本当の話し方は、こちらの話し方なのだと思う。

 話の流れからすると、この城を任され、人を管理しなければならなくなって、そんな口調が後付けで身に付いてしまったのかもしれない。

 そんな話を聞きながら、石造りの通路や部屋を通りすぎ、しばらく進むと調理場の様なところに出た。


「マーサ!いつもの様に美味しいお茶をお願い!今日は三人分ね!」


「はいはい、わかりましたよ、魔女様。今日は珍しくお客様ですか?」


 奥から体格のいい中年の女性が、エプロンで手を拭きながら顔を出した。

「いらっしゃいませ。お客さま、クッキーとかはお好きですか?」


「はい、大好きですし、お陰さまで好き嫌いはありません!」


「はっはっはー、面白いお客さまだこと!そう言うことなら魔女様、お茶の後はお食事も三人分ご用意しますよ!」


「君!マーサに気に入られたようね!マーサの手料理は絶品よ?食べてお行きなさい!」


 魔女もマーサさんも上機嫌だ。


 僕もなんだか楽しくなってきた。

 でもこれから一体どんな話になるだろう?

 龍之介兄妹を治療してもらえるのだろうか?

 それに、東の魔女の魔法には対価を求められるみたいだし、僕らはその対価を払えるだろうか…?



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