第49話 旅の助け
「おいおい、お兄さんが困ってるじゃないか」
カカシの道具屋が助け船を出してくれた。
正直言って、答えに困っていた僕には物凄い援軍となった。
僕を主にって…僕よりも経験がある人を従わせるって、扱いに困るよ。
学校の委員会の仕切りだってまともにいかないんだから。
人の人生を預かるなんて、無理だ~。
「アンタにとって光一郎様がどれ程の存在なのかは、俺も何回も聞いてるから知っているつもりだ。酔っ払ったアンタの介抱をいやと言うほどやったからな。アンタは俺らの知ってる現世から来た伝説の勇者に拾われて、一緒に旅をした数少ない冒険者だからな。アンタは伝説を間近で見た生き証人と言っても過言ではないし、アンタ自身も伝説の一部になっているんだからな…伝説の男の孫が目の前に現れた今のアンタの気持ちは、ある程度は察することはできるよ…」
ギルドマスターに話す間を与えずに道具屋は話を続ける。
「だが、初対面の髭面男に主従関係を迫られる少年の気持ちになってみろよ。阿婆擦れ女に結婚迫られるのと、どっちが良いかって聞かれたら、俺ならどっちも勘弁だぜ」
「……………」
しばらくは沈黙が続いた。
沈黙に耐えられなかった。
「お気持ちは感謝します。でも祖父が生きていたら、多分僕の事になんか構わないで、貴方の使命を全うするべきだと言うのではないかと思います。貴方のお仕事である冒険者ギルドのお仕事は、大変意義のあるお仕事だと思いますから…」
「わかった!」
…わかってくれたみたいだ。
「おい、道具屋!どうせ儲かってないんだろ?道具屋店終いしてお前が、ここのギルドマスターになれ!元冒険者だし、なんとかなるだろ!」
「おいおい、勝手に決めんなや!」
「───────だめか?」
「……駄目に決まってんだろ?」
「やっぱり駄目か…………仕方がない、貴方の家臣になるのはひとまず保留として、貴方に渡したいものがあるので、こちらの部屋へどうぞ」
コロッと態度を変えてギルドマスターは僕らを奥の部屋に案内する。
「…なんだ?この部屋は!?」
案内された部屋を見た道具屋が部屋を見回す。
扉扉扉部屋中が扉だらけなのだ。
「1,2,3,4,5………」
「今入ってきたドアを含めて16枚のドアがある」
僕がドアの枚数を数えていたが、最後まで数える必要もなく、ギルドマスターが答えを言ってしまう。
「このドアには全て鍵がかかっています。失礼ですが、『開ける鍵穴があってこその鍵である』この意味がわかりますかな?」
ギルドマスターの質問に、僕はポケットから例の鍵束を出して見せた。
ギルドマスターはそれを見て満足そうに頷いた。
「この部屋は私がギルドマスターになった際に、もしかしたら光一郎様が鍵のかかったドアを必要とするかもしれないと思い、作っておいたものです。この部屋の鍵をお渡しします。自由に使ってください。少しでも貴方の旅の助けになれば…」
そう言うと、ギルドマスターは鍵が入ってじゃらじゃらと音をたてる布袋を僕に渡す。
「…一体どういうことなんだ?お前ら二人だけの秘密か?俺はのけ者か?」
道具屋は肩をすくめるポーズでやれやれといった感じでそう話す。
「この男は信用のできる男です。その鍵束の力を見せても問題はないはずです。……おい、お前を元冒険者、ウロボロスのデッカーと見込んで聞く。ここで見聞きした事を他人に話さないと誓えるか?」
ギルドマスターはカカシの道具屋にそう聞いた。
「このまま仲間はずれで終わるのは嫌だな。これも何かの縁だ。…誓うよ」
カカシの道具屋が片方の手を胸に、もう片方の手を上にあげて、誓いのポーズをとる。
「では、その鍵束のお力を我々にお見せください。貴方が配下となることを望まれなくとも、私は貴方に出来うる限りの協力を惜しみません」
ギルドマスターは仰々しく礼をする。
「ありがとう…」
僕はそれしか言うことができなかったが、もらった鍵のいくつかは鍵束に取り付けた。
「それじゃ、ノマドさんの待っているログハウスのアジトに、このドアを繋ごうか…」
僕はログハウスの鍵を、目の前のドアの鍵穴に突っ込んだ。
ドアを開けた先には、ノマドさんが僕が来るのを知っていたように立っていた。
「全てが上手く行ったようですな。おめでとうございます、輝様」
僕の後ろではカカシの道具屋が、目を丸くして驚いていて、言葉がでない様だった。
「お久しぶりです。ノマドさん」
「お久しぶりですね、お元気そうで何よりです。パーシー君」
「その呼び方、久しぶりに聞けて嬉しいですよ。ノマドさんは相変わらず若いですね。いつの間にか外見だけは私の方が年上みたいになってしまいましたね」
そう言うと、二人はガッチリと握手をした。
ノマドさんとギルドマスターの再開シーンをみて嬉しくなってしまった。
─────はじめてのミッションクリア!
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