第43話 旅の始まり
ドアをくぐるとそこは小さな小屋だった。
小屋の中には暖炉があり、部屋のすみには獣の皮が積み重ねてあった。
ここはノマドさんが言うには狩猟小屋として使っていた所だそうだ。
近くには森林が広がり、豊富な野生動物が多く、しかも危険な魔物が少なく、安全な地域とのことだった。
ノマドさんはこの辺りで猪や鹿などを捕まえ、皮革や加工肉として町で売って金銭を得ていたそうだ。
小屋の脇には燻煙小屋があり、ノマドさん自らがベーコン等を作っているそうだ。
ノマドさんの作るベーコンはハーブなども使ったりして、臭みをしっかりとったところが特徴で、その美味しさは有名で高値で引き取ってくれる業者がいるそうだ。
多分僕がご馳走になったベーコンもここで作られたものなんじゃないかな?
───今回のノマドさんからのミッション。
暖炉の脇の未加工の毛皮をセントルーズの町の『タンブリング商会』で売却し、料金を受け取ること。
その際はタンブリング商会には『ノマドの使いで来た』と伝えて取引をすること。
(タンブリング商会は一見さんには買い取り価格を厳しくつけることが多く、買い叩かれるかも知れないと言うことだった)
もしそれでも毛皮の引き取り価格が、毛皮一枚あたり大銀貨2枚以下ならば売らずに帰ってきてもいいし、他に条件が良い買い取り業者を僕が見つけられるなら、そちらに流しても良いとの事だった。
それとは別に小銀貨30枚を持たされた。
それを持って冒険者ギルドに登録して旅に必要な通行手形を手に入れてこいとの事だった。
その際にこれをギルドマスターに渡すようにと、書簡をノマドさんに渡された。
セントルーズの冒険者ギルドのギルドマスターは信用出来る人らしいので、もしもトラブルがあったら頼るようにとノマドさんには言われた。
僕は麻袋に暖炉わきの毛皮を詰め込んだ。
麻袋はずっしりと重くなった。
これを持って五キロほど離れたセントルーズを目指す。
小屋を出ると林の中に向かう一本道が目に入った。
地図によれば、この林の一本道を抜けるまで道を進み、その後突き当たったら左の道に進みめば、後は道なりでセントルーズに到着するそうだ。
僕は林の道に恐る恐る入ってみた。
道幅は所々狭いが、だいたい3~5メートルと言ったところだろうか?
林と言うには少々木が少ないが、お陰で遠くまで見渡すことができる。
これならば危険な大型動物や魔物などは接近する前に気付くことができる。
ただ、この林にはウサギなどの小動物しか居ないと聞いているが。
実際にはウサギすら視界に入らず林はあっという間に抜けてしまった。
別に林が小さかった訳ではない。
僕の移動するスピードが速かったのだ。
風の精霊シルさんのくれた
まさに風のように進む事がで来た。
慣れれば常に発動させておけるようだが、最初は普段は一倍速にしておいた方が良さそうだ。
やり方はこうだ。
右と左のかかと同士をを打ち鳴らすのだが、一秒間で鳴らした回数で速さが変わるのだ。
つまり1秒間で3回鳴らせば1歩の感覚が3歩分になり、5回鳴らせば一歩の感覚が5歩分になる。
もとに戻すには1回かかとを鳴らせば良いわけだ。
今の僕がかかとを鳴らせる回数は1秒間で6回位までのようだ。
だから今の僕の最高速は普段の6倍だ。
練習したらもう少し増えそうだけど、これでも充分すぎると思う。
だって絶対100キロ以上のスピード出てるもん。
…車並みだよ、絶対。
しかも、実はそれでいて小回りが利くのが凄い。
慣性の法則無視って位の横移動、反転速度だ。
しかも疲れない。
これでサッカーやったら、僕レベルの技術でも絶対世界一になれるね。
それくらい精霊の加護は凄い。
───でも調子に乗らないようにしないと。
林を抜けたのでスピードを2倍まで落とした。
これ位なら人に見られても大丈夫だろう。
2倍の状態でで歩く感覚が、普通の走る速度位だと思う。
普段は2倍の速度にして歩いておけば、何か有ったときは素早く回避ができるだろう。
セントルーズへの街道を高速で歩く僕。
五キロの道のりはあっという間で、一時間かからずに到着した。
今回は町に着くまでは誰ともすれ違うことはなかった。
でも町に入ると商店街等もあり、通行人も多く、活気のある町だというのがわかった。
多分林の方に向かう街道は、人があまり住んでいないとか、大きい都市がないとか、そんな理由で通行が少ないのだろう。
町の中は馬車が余裕ですれ違えるほどの道幅もあり、実際に馬車が非常に多い。
いくつかの街道が交差する地点なのか、栄えている感じだ。
町の人は様々な服装だが、なんとなく見ていると職業がわかる。
商人や店員はシャツにベスト、スラックスという出で立ちが多いみたい。
食堂の店員などはエプロン姿であったり、武器や防具を扱う店の店員は、腕まくりで頭にタオルを巻いていたり、僕が思い描くファンタジー世界のそれぞれの職業のイメージを壊さない程度の服装であった。
それから目につくのが武装して肩で風をきって歩く集団。
冒険者なのか、自警団的な何かなのか、それとも愚連隊なのか。
そういった集団が多いのは街道を行き来する商人等の護衛なのかも。
それだけ街道と言えども行き来するのに危険が伴うのかもしれない。
そこで僕は一つ問題があることに気が付いた。
「も、文字が読めない……」
まず一つ目の難関がやって来たようだ……。
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