第26話 母の思い

「…ちょっと、母さんに説明してくれる?」

長い沈黙の後で母が口を開く。


僕はもうなんて説明していいか、正直大混乱だったよ。

普段から僕のプライベートには物凄く配慮してくれていた母。

帰りが遅いと心配して携帯に電話をしたところ部屋から着信音が…

不審に思い部屋を覗いたところ、床の額縁から僕がひょっこり顔を出した所に出くわしたらしかった。


「信じてもらえないかも知れないけど…」

僕はこれまでの事を詳しく話をした。


祖父光一郎の話については、いつかは話したいとは考えていたが、こんなに早くその日が来るとは思いもしなかった。


────僕の話を聞き終えた母の目には一筋の涙が流れていた。


「輝、話してくれてありがとう…」


「おじいちゃん、わかってあげられなくてごめんね…。輝が私の分まで頑張ってくれたのね…ありがとう…」


母は涙を拭うと気を取り直したのか、いつもと同じくはっきりした口調で僕に話してくれた。

「私も小さい頃に、おじいちゃんや野元さんから輝が行った世界の話を聞いた事があったのよ。でも私は信じてあげられなかった。本気で話を聞いてあげなかった…」


「野元さんにもお礼を言わなきゃね。…輝、後でマッシュポテトいっぱい作るから届けてくれるかしら?」


「それから─────怪我人の話だけど、私も役に立てるかもしれないわ」


首をかしげる僕に母が続ける。

「輝が生まれるまで、母さん外科病棟の看護師だったのよ?知らなかったでしょ?」


最近知り合いの手伝いでパートに出ることもあったが、ずっと専業主婦だった母。

そんな過去が有ったなんて全然知らなかったよ。


「善は急げっていうでしょ?これから行ってみようか?」


流石は僕の母。

行動力だけはある。

僕は振り回されっぱなしだ。


そんな時だった。


額縁からひょっこり炎の精霊サラマンダーが顔を出した。


「輝様~二人が目を覚ましま───ひゃ!?」


タイミングが良いのか悪いのか。

母さんがいるのに気付いてびっくりして慌てるサラマンダーさん。


一度額縁の中に顔を引っ込める。

しばらくしてから、ゆっくり、そーっと目の辺りまで顔を出す。


「…見られちゃいました?」


コクりとうなずく僕と母。


「うぇーん、ごめんなさーい」

サラマンダーさんは泣きながら額縁に引っ込んでいった。


「輝、今すぐ行ってなだめてあげなさい。私はマッシュポテト作ってから行くから、野元さんにそう伝えておいて」


母さんはそう言うと一階に降りていった。


帰ってきたばかりだけど、また行くとするか!

二人の意識が戻ったような事を言っていたし、色々話をしなきゃいけないな。

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