第20話 切り札のその先
影と宿主をなんとか分離させたい。
…さて、どうするか?
そこで貯金箱の出番だ。
あの部屋に僕は貯金箱を置いてきた。
これからまた違う部屋に異動した後、鍵束を使ってあの部屋の貯金箱の鍵を開ける。
…そこでどうするか?
影が宿主と分離してでも貯金箱をくぐって僕の所に来たくなるように仕向ける作戦だ。
少なくとも手を伸ばせば簡単に届く様な距離ではなく、ある程度の距離は必要になるだろう。
その為には何回かドアを使って宿主と影を完全に切り離すまで鬼ごっこみたいに逃げ続けるのも手だ。
影が宿主に寄生したまま、どれ位の距離まで到達出来るのかはまだわからない。
だから、宿主を見張っていて影が宿主から切り離されたらすぐに扉を閉める危険な役も必要だ。
この役は姿を消せる精霊に任せる他はない。
実行後は速やかに離脱してもらうつもりだ。
この作戦には、何回も何回もドアをくぐって僕を追いかけたくなる魅力のある餌も必要だ。
でも僕にはその餌には心当たりがある。
僕の心配は影が宿主から本当に分離してくれるかどうかだ。
ある程度の距離までしか追いかけて来なかったら…
影が分離をせず、僕を追いかけるのを諦めたら、それで終わりだ。
そうなった場合の手も考えておかなければならない。
とにかく、影の理性を飛ばす位のインパクトのある何か…
何か考えなければ…
祖父ならどうしただろうか?
祖父光一郎は彼方の世で、ある意味伝説級になった。
それは、武による英雄行為によるものではなく、何重にも作戦を練った知によるものだと思う。
相手の事をある意味リスペクトし、こちらの想定を上回ったら次はどうするか、それを常に想定して行動していたのだろう。
祖父が好きだった将棋、その考えを応用して伝説になった。
僕が今出来ることは、少しでも祖父の様に振る舞うこと…祖父の真似事かもしれないが、それが皆の幸せに繋がることならば、努力を惜しんではいけない。
僕が何か考えることで皆への危険が減るかもしれない。
いや、減らさなきゃいけない。
働け、僕の脳みそ!
影に取り憑かれてしまった二人を解放するために!
「もう一押しなにかないかな…」
独り言が思わず口からこぼれる。
「お茶をどうぞ…」
水の精霊ウンディーネさんが僕にそっとお茶を勧めてくれた。
「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたので助かりました」
「あー、ズルい!私がお茶を持っていこうと思ったのにぃ!」
それを見ていた炎の精霊サラマンダーさんが地団駄を踏む。
「ウンディーネがいれたお茶なんか冷えたお水でしょ!お・み・ず!私が入れる温か~いお紅茶には敵わないはずよ!きっと輝様は私が入れるお紅茶の方を飲みたいはずよ!」
サラマンダーさんが謎理論を展開する。
「輝様!とっても温か~いお紅茶をどうぞ!」
僕の見ている前でサラマンダーさんの指先から出た炎がティーカップに入ったお茶を熱湯に変えた。
…熱すぎだよ、サラマンダーさん。
紅茶は煮え立ち、添えられた角砂糖が発火しているよ…。
「…発火?これは使えるかもしれない!これだ!これだよ!サラマンダーさん!!」
サラマンダーさんの炎を見て、影の理性を飛ばすいい方法を思い付いたよ!
ありがとう、サラマンダーさん!
後は実行あるのみ!
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