第10話 マスター

有希ゆきとグッチーノはかなり危なかしかったが、なんとかバイク屋に着いた。後ろをクッチョロとモトムで走っていた美生みおけいは心労で、ぐったりとしている。


店主は、いくつかの中古部品を作業台の上に置いた。


「これは当時、グッチーノを普通のツイストスロットルとフットシフトにするためのキットです。今回の出張で運良く見つかったので、慣れるまでこれを使いましょう。」


そう言って、店主は作業を始めた。美生はその姿を見て、たぶん一生懸命探してくれたんだろうな、と思った。


作業はすぐ終わって、グッチーノはまあ普通のバイクと言える形になった。帰り道、有希は行きとは打って変わって見違えるような走りをしている。


それから、有希はグッチーノで走りまくるようになった。一人で美生や佳が驚くような遠い所まで行ってしまう。


高崎市の実家にも乗って帰って、


「父がちょっと乗らせろと言ったんで、乗らせてあげたけど全然駄目でした〜。」


と言って笑っていた。


公道を走るのにすっかり慣れたところで、有希はグッチーノをレバースロットルとハンドシフトに戻した。それでも相変わらず走り続ける。


そうして月日が経ち、走行距離を重ねるうちに、グッチーノはマフラーからの白煙が多くなってきた。有希はグッチーノをこれ以上消耗させたくないと、バイク屋の店主と相談して、同じモトグッツィのディンゴという50ccのモペッドを買い足した。


グッチーノは普段は実家の玄関に大事に飾られて、有希が帰省すると父が乗ったディンゴと有希のグッチーノとで、近所の農道をゆっくりと走る。


グッチーノはずっと有希と共にある。


(クッチョロ!! 2 完)




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