セイギの道

二十四番町

第1話 道の終わり 街への入り口

 深夜の港に黒塗りの車が次々と停車する。港には大きな貨物船が一隻、横腹には「ハリー・ハリー」という汚れた船名が書かれている。

 その船名の前に、男が三人立っていた。

 一人は恰幅の良い男で、ボロボロの皮ジャンを窮屈そうに着ており、実にまずそうにタバコを吸っている。残る二人の男は恰幅の良い男の両脇に立ち、その手にはサブマシンガンを携えていた。

 恰幅の良い男がフィルタの間際までタバコを吸って、吐く。口から煙がもうもうと立ち上り、尽きたタバコが海に投げ入れられた。

 直後、車のドアが開き、スーツ姿の男達がワラワラと降りてくる。

 最後に赤いハンカチを胸ポケットに入れた男が、周囲の黒服に介添えを受けて降りてきた。男の目は鷹のように鋭く、恰幅の良い男を睨みつけ、堂々とその前に立つ。

 恰幅の良い男はにこやかに手を差し出した。

「どうもどうも、鷲崎さん、お久しぶりです」

 鷲崎と呼ばれた男はそれを一瞥し、低い声を漏らす。

「……匂うな」

「すいませんねぇ。今日寄港して、今の今まで働き通しだったもので」

「違う、タバコの匂いだ」

「お嫌いでしたか? それはすぅヴ!?」

 鷲崎が恰幅の良い男の顔を片手で鷲づかみにする。両脇に立っていた男達がすぐさま銃を構えるが、鷲崎は一顧だにしない。

「吸殻はどこにやった?」

 恰幅の良い男がゆっくりと目線を海に向けると、鷲崎の手に力がこもった。悲鳴が上がり、恰幅の良い男のこめかみから血が流れ出す。

「いいか? 貴様が愚鈍な豚ならば、この国の警察は優秀な軍隊アリだ、唾液をまき散らす豚は三日で頭蓋をさらすことになる」

「ふぁ、はい!」

「二度と証拠を残すな、理解したなら、俺が手を離したらまずどうするか、分かるな?」

 鷲崎の目が恰幅の良い男の肌を伝う血を追う。鷲崎が手を離すと、恰幅の良い男はすぐに両手でこめかみを覆った。

「コンテナの中身を確認をしろ」

 鷲崎が汚れた手を赤いハンカチで拭いながら短く命令を出す。それに応じて周囲にいた黒服達が軍隊のような機敏さで船上へと上がっていった。恰幅の良い男に付き従っていた男の一人が、遅れて船上へと向かう。

 恰幅の良い男は額から吹き出る汗をこめかみを抑えたまま不恰好に拭い、苦笑を浮かべた。

「はは、し、しかしまあ、おかしな話ですな、この国は頭のいい連中ばかりなのに、こんな馬鹿の薬を求めるんですから」

「頭の出来と賢さは別だ、前者は努力で身につくが、後者は与えられるものでしかない」

 恰幅のいい男は分厚い唇を引き伸ばし、引きつった笑い声を漏らす。

「そいつぁ、薬の処方のしがいがあるってもんです」

 なおも笑い続ける男に一瞥もくれず、鷲崎はコンテナに視線を馳せた。コンテナの外壁と内壁の間には洋上で取引したコカインが百キロ隠されている。全部売りさばけばその価格は六億に及ぶ。

 当然、同じ手法は以前から使われており、日本も警戒している。それがこうも容易く取引されている現状は異常という他なかった。どのように目をくらましたのか、その方法を知るのはただ一人、鷲崎だけだ。

 鷲崎は鋭い目をなおもコンテナに向け続ける。微塵たりとも動かないその姿に違和感を覚えた恰幅の良い男が、笑いを引っ込めた。

「……一体、どうしたんですかい?」

「鼠がいる」


 付き人はコンテナを全て開錠し終えると、あとを黒服の男達に任せ、船縁に身を預けた。薄暗がりの中でさえ、鷲崎の視線を感じる。

「気味の悪い男だ」

 付き人もまたそれなりの修羅場を潜ってきた人間である。たいていのことには動じない自信はあるが、それでもサブマシンガンを向けられて、一切の注意を払わないかと言われれば否だ。

 しかし、あの男、鷲崎は全くそれに関知しなかった。

 それこそ、自分には、そんなものは効かないとでも言うように。

「何者なんだ、あいつは……」

 自分を呼ぶ声を聞き、付き人はコンテナに向かう。いくつかのコンテナは既に中を確認された後らしく、内壁が剥がされていた。

 コンテナとコンテナの隙間を抜け、奥に着くと、黒服の男達がなにやら一つのコンテナを囲むように待機していた。

 黒服の男の一人が押し殺した声で聞いてくる。

「こいつは誰だ」

 黒服がライトを向けた先には、赤いコートを着た少女の姿があった。

 コンテナの中に敷き詰めていた正規の輸入品をべットにして、大の字に寝転がり、豪快にいびきをかいている。まるでこの狭苦しいコンテナが自室とでもいうような有様だ。

 当然、こんな少女を密輸した覚えなどない。

「……いや、こんな奴は知らない」

「そうか」

 付き人が答えるや否や、黒服達のリーダー格が少女に容赦なく銃弾を打ち込んだ。予想外の出来事にも冷静な判断。それは闇夜に生きる者達に取って必要不可欠な能力である。

 しかし、続いて起きた異常に反応するだけの冷静さは、黒服達も有していなかった。

「んんー……物騒なモーニングコールだなぁ」

 赤い少女がなにごともなかったかのように起き上がる。

頭を打ちぬいたはずの少女がのんきに伸びをするのを見て、黒服達の間に戸惑いが走った。

 少女の口がニヤリと歪む。隙間から覗いた歯には、一粒の銃弾。

「けど、おかげで起きられたよ」

 黒服達が引き金を引くよりも早く、少女の拳が地面へと走った。


 闇夜に響く爆発音。いくつものコンテナが船上から吹き飛び、その一つが鷲崎達のすぐそばに落下。コンテナは狂ったように跳ね回り、アスファルトを砕いて地面に突き刺さった。

「ひぃやぁ! ななな、何事だ!?」

 恰幅の良い男が身を縮め、船を振り仰いだ。

  

 眼前に広がる光景に、男の口がぽかんと開く。

 そこには、半ばでへし折れて沈んでいく船の姿があった。

 船上から港へと、黒服達が次々に飛び降りてくる。二階建てを越える高さではあったが、男達になりふりかまっている余裕はないように見えた。

 岸から這い上がってきた黒服の一人が、海水をしたらせつつ鷲崎に伝える。

「船上に見知らぬ女が、それから拳を船に叩きつけてこんな有様に!」

「女だと?」

 鷲崎の鋭い視線に射すくめられ、恰幅の良い男は身を震わせる。

「し、知りませんよ私は、女なんて乗せてません!」

「どんな女だ」

「赤いコートを着た、黒髪の女です」

「赤いコートだって!?」

 恰幅の良い男が上ずった声を上げる。その体は見るも無残に震えだし、汗が滝のように流れ始めた。

「知っているのか?」

「……レッドだ、レッドが来たんだ! 逃げなきゃ殺される!! 鷲崎さん、今すぐここから離れ――」

 船上から一人の人影が港へと跳んだ。潮風に煽られ、真っ赤なコートがひらめき、着地と同時にゆっくりと地面に降りてゆく。それにあわせるように人影は立ち上がり、長い黒髪をかき上げた。

「国が違っても、どこでも同じことがあるんだけど、何か分かる?」

「……」

「夜は悪者たちの世界なんだよ」

 少女は無邪気な笑みを浮かべ、拳を打ち鳴らす。

「だから正義はいつも夜に起きるんだ、おはよう! 悪者たち! 正義が来たぜ!」

「……」

 鷲崎が無言で手を挙げた、その瞬間、待機していた黒服たちが鷲崎達の前に出て銃の引き金を引く。銃弾が壁となって少女の元に打ち込まれるが、少女の姿が瞬きの間に消失。次に現れた時には、黒服がみな崩れ落ちていた。

「準備運動にはちょっと物足りないかな?」

「……おまえは誰だ」

「正義だよ、正義」

 恰幅の良い男がその場から急に走り出す。それを鷲崎が旨倉を掴んでつるし上げると、男は足をばたつかせ叫んだ。

「離せ! 逃げないと殺される!」

「あれはなんだ?」

「レッドだ! レッドが来たんだ!」

「わかるように話せ」

 鷲崎の腕が徐々に上へと上がっていく、恰幅の良い男は顔を真っ赤にしながら答える。

「うぅぐ、大陸の方で最近噂になってんです! 赤いコートを着た女が、悪党どもを殺して回ってるって! それでついたあだ名がレッド! 《血まみれ》だ!」

「あの小娘がそうだと?」

「あんたも見たでしょ! あれは人間じゃない!」

「……ふむ、たしかにな」

 鷲崎は恰幅の良い男を軽々と放り投げた。


「へっ?」

 男は船の遥か頭上にいた。自分が鷲崎に投げ飛ばされたのだと気づいた瞬間、男の体は宙空に停止。遥か下には沈みゆく船があり、マストがビリヤードのキューのごとく、男の腹を差ししめている。


 マストの登頂に黒い物体が突き刺さり、男の悲鳴が途切れた。

「ネズミの侵入を許すような愚図に要はない」

「ひゅー、信じらんない怪力だ、おにいさん、本当に人間?」

 少女は親指を突き立て背後を指さす。

「寝床を探しているとき、見つけたんだよ、ほとんどは薬臭い箱なんだけど、一つだけやったら冷えた箱がある、しかも死臭がする、開けてみたらびっくりさ、死体がゴロゴロ出てきやがった」

 火花はコートのポケットからリボンを取り出し、潮風に乗せるように宙に放つ。リボンは鷲崎の足先に引っ掛かり、動きを止めた。

「死体にはまったく外傷がなかったよ、綺麗なもんだった、まるで眠るように死んでた、そのリボンは子供の死体から拝借したものなんだけど」

 火花の目に火が灯る。

「説明してくんない?」

 鷲崎はリボンを蹴潰して、両手をわずかに広げた。

「餌だ」

「餌?」

「この国のお偉方は、生きた人間を殺すのは忍びないが、死体を壊して遊ぶのは好きらしくてな」

「死姦にダーツ、食肉にアート、思うまま切り刻みストレスを発散するのもよい、中には虫を這わせて消えていくのを鑑賞する御仁もいる、まあつまりは、ビジネスだ」

「薬よりも、高く売れるものなのかよ」

「まさか、薬が金なら、死体は鉄くずだ、保存も難しいので手間ばかりかかる、しかし、いつの時代も、袖の下には珍味が喜ばれる、あれは極上だ」

 少女はため息をつき、額に手を当てる。

「なるほどなるほど、それで死体に傷一つないわけだ、大方ちゃんと売り手がいて、あんたらは買ってるだけ、誰も損はしない」

「よくわかってるじゃないか、需要と供給、これはそれだけの話だ」

「ハハハ! ――んなけねぇだろ!!」

 少女の足が踏み鳴らされ、周囲のアスファルトにひびが入る。

「はぁー……どこの国でも一緒なものがもう一つあったのを忘れてたよ、悪党の死体は、どこでも金貨だ」

「それは上等、次からは悪党の死体を輸入しよう」

「私は紅火花(あかひばな)、おまえ、名前は?」

「鷲崎だ」

 鷲崎の体が大きく膨れ上がり、みるみる内に変貌する。やがて大きな猛禽の翼が背中を突き破って天を衝き、嘶きが大気を震わせた。

 暗闇に輝く黄色の目、雄々しく突き出た爪に嘴、そして鋼のような羽に覆われた巨大な体躯。その異形は、インド神話に登場するガルーダのようであった。

『––––鷲が割く、いい当て字があったものだ』

「鶏の間違いだろっ!」

 火花が弾け跳ぶ。

 たったの一歩で鷲崎に肉薄し、大きく振りかぶった拳が鷲崎に迫った。

『Grurrrraaaaaaaa!!』

 大音量の鳴き声とともに、鷲崎が羽ばたき、空気の塊が火花の拳をわずかに押し返す。

 それでも火花の拳は止まらず、地面に突き立ち、大爆風を引き起こした。

 無数の破片が四方八方に散らばり、鷲崎は器用にそれをかわしつつ、空へと飛びあがる。

『見上げた馬鹿力だな、本当に人間か?』

「違うね、私は正義だ」

『ふん、脳みそまで筋肉までできているようだな、ならば、その肉体に刻み込んでやろう、そしてお前も餌の仲間入りだ!』

 鷲崎が羽毛が逆立ち地上へと降り注ぐ、剃刀のような羽は驟雨のごとく火花に襲い掛かり、地面を細かく切断し、土煙を巻き上げる。

 羽の刃が打ち尽くされると、煙を突き抜け火花が宙空へと躍り出た。

『チィ!!』

 鷲崎は寸でのところで、火花の打ち出す拳をかわし、再び羽の弾丸を射出。火花は腕を十字に交差させてそれを防ぐが、数枚の羽根が肌を薄く切り裂き血を飛び散らせた。

 その隙に火花の背後に移動した鷲崎が、大きく広げた鉤爪で火花の頭部を掴みににかかる。

「終わりだ小娘!」

 火花の口元がにやりとゆがんだ。

 鉤づめが接触する寸前に、火花は逆に足を掴み取り、体を大きく前転。

「––せいっ!!」

 鷲崎の体が地面に直撃し、蜘蛛の巣のようなヒビが辺り一面に刻まれた。

『かはっ!!』

 赤いコートを羽のように広げ、鮮やかに着地する火花。方や地面に打ち据えられた鷲崎は、胸元を血で汚し、よろよろと立ち上がる。

『……なぜ、反応できる、何者だ貴様は』

「だから正義だって言ってんじゃん、これだから鳥頭は、人のふりしすぎで物覚えでも悪くなった? 窮屈そうで大変ね」

『違えるな、俺は好きで人を演じている』

「へぇ……おもしろい、続けなよ」

 鷲崎はよろよろと立ち上がる。口や額から血がしたたり落ち、ひび割れた地面に染みていく。

『……人は平等だ平和だと謳いながら、自分の欲を満たすためならば同族でも食らう』

『その日暮らしの金のため娘を差し出す親がいる、借金の片に親友を海に沈める友がいる、人を救う夢を追って薬を売る学徒がいる』

『その誰もが、正しさを知っていた、道徳を知っていた』

『にもかかわらず、最後にはより自分が傷つかない選択をする』

『そして、誰もがこういうのだ! 仕方がなかったと!』

『–––実に美しいではないか!!』

 それは人ならざる獣の、唯一の人間らしき叫びだった。

 鷲崎は傷ついた翼を広げ、再び空へと飛びあがる。

『理性と理想を持ち得ながら、結局は己しか選べぬ人間の苦悩! その様は実に極上だ!』

『着飾った動物は、餌としても! 鑑賞物としても! この上ないほど良い!』

『同族のような欲望しか持たぬ輩たちは、つまらなすぎる』

『だからこそ、私は人とともにいる、間近で墜ちていく様を見るためにな』

 火花は呆れたとばかりに首を振り、拳を握り直す。

「……面白がった私が馬鹿だった、結局、あんたはただの悪趣味な変態野郎ってわけだ」

『お前は解せない、人であるなら不完全であるべきだ、それだけがお前たち人の価値だ』

『お前のような、完全は––––要らん!』

 鷲崎が上空に舞い上がり、またも羽の弾丸をまき散らす。

「効かないっての!」

 火花は羽をかわしつつ、地面に突き刺さったコンテナに近寄る。

「お返し、だぁ!」

 火花はコンテナを片手で掴むと、大きく振りかぶって上空へと放り投げた。

 コンテナが何かとぶつかり、盛大に衝突音を響かせる。

「よっしゃ! ヒット!」

 街の方からは既にサイレンが聞こえている。船の沈めるときに派手にやりすぎたのだろう。時期に人が来る。そろそろ撤退したほうが良い。

 火花がそう判断した時だった。自由落下しつつあったコンテナが角度を変え、流星の如く火花へと落下し始めた。

 コンテナの後ろには、血を流しながらも爪を金属の外壁に突き立てた鷲崎の姿があった。

『つぶれろぉ!! 人外がぁあ!!』

「っ!! ––––なんてね」

 火花が腰を落とし、落下してくる大質量に向けて正拳を突き出した。拳とコンテナがぶつかり、コンテナが圧縮、外壁がばらばらに弾け、周囲に飛散する。

『捕らえた!』

 その瞬間、コンテナを既に離していた鷲崎が横合いから飛び出し、火花を大きな鷲爪で掴み、海へと飛びたった。

「げっ! 離せこの馬鹿!」

 火花が振りほどこうとするのを鷲崎は螺旋飛行で阻止する。

『お前のせいで、せっかくの特等席も使い物にならなくなった』

「何が特等席だ、ただのヤクザ仕事だろ!」

『気に入っていたのだが、仕方ない、二度とお前とは出会わぬよう、次の仕事を選ぼう』

「次だぁ!?」

『サヨナラだ、人ならざる人間、お前は人としては完璧すぎる』

 鷲崎が縦に一回転し、火花を海に叩きつけるように離す。上空百メートル以上からの強制落下、普通の人間なら確実に死ぬだろう。

 それでも火花には効かないだろうが、場所は既に沖合。羽のある鷲崎であれば、どうとでも逃げられる状況だった。

『……日本から出るか』

 鷲崎は岸とは逆へと飛び始める。赤い少女を倒すことはできなかったが、生き延びることはできた。

 –––ならばよし、これからも人を観続けよう。人の手の届かぬ高みから。

 

 その油断が鷲崎の命取りとなった。


 鷲崎の後方で爆音が上がる。何事かと振り向けば、くちばしに水滴が当たる。一つ、二つ、三つ四つとなって、何が起きたかに気付いた時には既に遅かった。バケツをひっくり返したかのような大量の水が降り注ぎ、鷲崎の羽を揺らす。

 かろうじて姿勢を保っていたが、ひと際重い衝撃が鷲崎の背中に走った。

 見ずともわかる。トドメが、降ってきたのだ。

「よう、また会ったね」

『––––Grング!!』

「おっと、夜はお静かに」

 火花がにこやかに鷲崎のくちばしを封じる。

「あんたは、人は不完全で美しいなんて言うけどさ、私はやっぱりこう思うよ」

 火花が大きく腕を引く。


「理想を体現する人間が、一番美しい!!」


 大海を鳴動させる火花の拳が鷲崎の背中を突き破った。鷲崎はまるで針でつついた風船のように破裂。断末魔の声さえ響かず、羽だけを残して消滅した。

 血だらけになった赤い少女は、空に輝く月を眺めながら、落ちていく。

「おやすみ、悪党」

 力は有り余るほど残っている。数十分も泳げばちゃんと岸につくだろう。

 水面に没する直前、火花は月に向かって手を伸ばす。

「師匠、また一歩、あなたに近づいたよ」

 赤い少女を夜の大海が飲み込む。しぶきは月明りにきらめき、血の色に輝いた。

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