勇者絶対殺す魔王
めそ
序章 魔王様が魔王になるまで
第1話 文句言うだけの人間未満
前略、俺は死にました。
死んだと思ったら、まるで長い夢から覚めたような心地と共にまぶたが開き、目の前にはやる気のなさそうな青年男子がクリップボード片手に立っていました。
閻魔様かな?
「はい、どうもおはようございます。私のことは神の遣いとでも思っていてください」
「どうも」
自称神の遣いの事務的な声掛けに思わず会釈する。
いや待ってこれ、この導入俺知ってる。俺じゃなくても知ってるよ、これ。
「えー、あなたは生前事故でなくなり、まあ、宗教的な理由から約五十日間仏のところで修行させられていたわけですが」
「あ、そうだったんすか」
俺は無宗教気取ってたけど、言われてみれば確かに親や兄弟達の葬式には必ずお坊さんがいた。
葬式なんてしてもらえないと思ってたけど、俺はきちんと弔われたらしい。
「はい。そしてそれから地獄で生前の罪を償うべく……」
「いやちょっと待って、……え? 地獄ぅ? なんか別の宗派混ざってないそれ? 俺本気で地獄に行ってたの? 仏のところ行ってから?」
「はい」
「て言うか地獄って、どの地獄? 何万年も落ち続けたりする地獄?」
「いえ、閻魔様がいる方の地獄ですね」
マジか……。仏との修行や地獄での記憶がすっぽり抜け落ちてるけど、マジか……。
「それで地獄で罪を償い終わって、穢れのない魂となったあなたは転生するわけなのですが」
あ、ここからなら知ってる。テレビで観た。
「異世界転生とか手続き面倒なんで、もといた世界に戻して良いですよね?」
「いや良くないから! そっちの都合で選択肢絞らないでくれます!?」
「えー?」
神の遣いは嫌そうな顔をしながらクリップボードに挟まれた資料をパラパラと捲る。仮にも神の遣いを名乗ってるのに、そんな顔しちゃ駄目だろ。
「あー、なんで面倒か簡単に説明して良いですか?」
「え? なんでそんなことするんですか?」
「事情わかってくれたら諦めてくれるかも、って苦情対策マニュアルに書いてあるんで」
「あ、じゃあどうぞ」
それにしてもずいぶんなマニュアルだな、おい。
「異世界転生者、異世界召喚者、異世界の文化、生態系、壊してまわる、とても困る」
「……はあ」
「はい」
……あ、今ので説明終わり? そうかぁ……そうだなぁ……。
「いやそれ原因わかってますよね? 記憶残したりチートあげたりしてるからですよね?」
「ホントですよね」
いや同意するんかい!
「誰だよ異世界転生に余計なシステム付け足したの……」
しかも文句言い出しちゃったよ……。て言うかそれ多分あなたは遣わした神様じゃない? 神様っていうのが何人いるか知らないけど……。
「まあそう言うわけです」
「いや俺じゃなくてそっちの問題じゃん」
「それでも困るんです。勇者気取った異世界転生者達のおかげでいったいいくつの世界が滅んだかわかりますか?」
「え、それは……ごせ……一万とか?」
「いや数えたことないですけど」
「じゃあ聞くんじゃねーよ!」
なんなんだよ! 実は手続き面倒なだけだからテキトー言って断ろうとしてんじゃないよな!?
抗議の視線を神の遣いに向けると、神の遣いは諦めたように溜め息を吐いてクリップボードを差し出してきた。なんか態度デカくない?
クリップボードを受け取ると、なにかアンケート用紙みたいなのが挟まっていた。
「それじゃあ、それ埋めてってください」
「えぇー……」
なんか思ってたのと違う……。もっとこう、なんかあるでしょ、ほら。よくわかんないけど。
アンケートには生前の氏名の欄から、好きな動物、趣味、異世界転生の目的と、良くわからない質問から地雷みたいな質問まで、合わせて十の質問があった。多分、重要なのは生前の氏名と異世界転生の目的と、あと欲しいチート能力くらいだろうか。
生前の氏名は忘れたので横一文字に直線を……、
「……あの、ペン貸して貰えます?」
「あ、忘れてました。すいません」
対応にやる気がなさすぎる。早くクビになんねーかなこいつ。
それで、えーと、目的は……『世界平和』でいいや。転生しても勇者気取らなければ良いんでしょ? 欲しいチートは……なんだろ、『無敵』かな? 他は適当に『魚』とでも書いて埋めてって……。
「よし!」
クリップボードごとアンケート用紙を神の遣いに返す。神の遣いはざっと俺の解答を眺め、
「なんですかこれ? やり直してください」
「は?」
新しいアンケート用紙を渡された。さっき俺が予測した重要そうな三項目に丸印がつけられている。他の項目最初から削れよ。
「ここだけで良いですから、真面目に答えてください」
「いやここは真面目に答えたんだけど」
世界平和とか別に願ってないけど。
「じゃあその『無敵』駄目です。認められてません」
「えー」
じゃあ『最強』で。
「駄目」
「理由! 理由教えて!」
「単純に強いから」
「前例見てから言って欲しいかな!」
どれも似たり寄ったりじゃん! いや知らないけど!
「じゃあ適当に候補あげますから、どれかひとつ選んで丸付けてくれます?」
「だからそっちの都合で選択肢絞るのやめろって」
「えー?」
神の遣いは俺の文句に嫌な顔しながら、無難なチート能力を三つリストアップした紙を渡してきた。
「えーっと、『レベルキャップ開放』?」
「レベルが無限に上がりますね。レベルの概念がない世界がほとんどですけど」
クソじゃん。
「じゃあ、『レベル付与』は?」
「自分の経験値を減らして、減らした量の八割の経験値を対象に与えます。経験値の概念がない世界がほとんどですけど」
クソじゃん。
「……『レベルMAX』」
「対象のレベルをノーリスクで上限まで上げます。自身は対象に含まれませんし、レベルの概念がない世界がほとんどですけど」
「全部クソチートじゃん」
「噛み合えば強いですよ、ええ。もう最強に無敵ですね、はい」
「ほとんどの異世界で使い物にならない時点でクソ確定だろ! ふざけんな!」
神の遣いにクリップボードを叩き返すと、神の遣いは突然動かなくなった。え、なに、不具合でも起こした?
心配になって神の遣いの目の前で手を振って見ても、なんの反応もない。
マジか……。じゃあ、さっそくチートを『無敵』にしちゃうか。
「だから、駄目ですよ」
「うおっ、びっくりしたなあ……」
神の遣いは俺の手からクリップボード奪い、場を仕切り直すようにひとつ咳払いする。
「今さっき、我が神からお告げがありました」
あ、だから止まってたのね。
「我が神はあなたの『世界平和』という目標に大変感激しました。ええ、それはもう大粒の涙を流してましたよ。そういうわけで、あなたを魔王として召喚し、世界の平和を脅かす勇者気取りの阿呆共を駆逐する使命を与えるそうです」
「いや魔王の方が世界の平和脅かしてる側だよね? 勇者に倒されて初めて世界に平和が戻るよね?」
「文句ばっか言ってないで覚悟決めろ、アホ。…………と、言ってます、はい」
「いやそれ神じゃなくてあんたの言葉でしょ!」
神の遣いに文句を言おうとした瞬間、バン! というなにかが破裂したような音と共に視界が真っ暗になった。身体の感覚はなく、意識だけが闇の中に浮いている感覚があるだけ。
え、なにそれ、魔王に強制就職ってこと?
……………………、
「マジ?」
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