巨大恐怖症は人類最後のパイロット

ちびまるフォイ

だって全部小さいんだもの!

「いい? あなたは世界で唯一このロボットに搭乗することができる。

 あなたが負ければ世界は終わりなのよ」


「そういう設定、大好きです。負けません」


「それじゃ、頑張って。あなたの手の中に世界の命運は握られているわ。

 巨大ロボ、搭乗準備!!」


格納庫ハンガーに巨大ロボが運び込まれる。

中学生男子が喜びそうな重火器を多数揃えた姿を見たパイロットは――


「うわぁぁぁぁぁぁ!! こ、こわぃぃぃ!!」


その場に縮こまってしまった。


「え? どうしたの?」

「怖いぃぃ! ひいぃぃぃ」


「何言ってるのよ。まだ敵の怪獣とも戦ってないじゃない。

 これから戦うことに恐怖ってこと?」


「ちが、ちがうんです。僕は巨大恐怖症なんです!

 身長180cm以上のものを見ると恐怖を感じてしまうんですぅ!!」


「えええ……こんなのに世界の命運握られてんの……?」


パイロットはバカでかい巨大ロボの方を見ることすらできない。


「高所恐怖症とかではないんだよね」

「巨大恐怖症です」


「なら、目をつむってもいいからさ、一旦乗ってみない?

 乗りさえすれば巨大ロボは目に入らないわけだし? ね?」


「ムリムリムリ!! 乗り込むときに一度目に入るじゃないですか!!」


「大丈夫、一瞬だから。一瞬チクっとするだけだから」


「いやだーー! そんな医者みたいなウソつかれて乗るもんか――!」


「あなたに世界の人類の命がかかってるのよ!」

「知るかーー! 顔も知らない他人のためにそこまでできるかーー!」


ハンガーでだだをこねるパイロットに全員が言葉をなくした。

それでも全員の頭には"こんな理由で死ぬの? 俺たち"と恐怖の文字が浮かんでいた。


「いやだーー! 巨大ロボを片付けるまでここを動かないぞ――!!」

「ど、どうすれば……」


「こうするんだよ」

「所長!」


所長はパイロットの首のうしろに手刀を叩き込んだ。


「な、なんですか?」


気絶しなかったので、ボディーブローをしうずくまったところを抱えて

執拗なひざげりの連打をし、馬乗りになって顔面を必死に殴った。


「……はぁはぁはぁ、気絶したぞ」

「もっといい方法あったでしょ!?」


意識を失ったパイロットにエレキバンをひっつけてロボに登場させる。

エレキバンのスイッチを入れると電気でパイロットは目を覚ました。


「こ、ここは……!?」


『そこはロボットのコックピットよ。

 あなたが意識を失っている間に運ばせてもらったわ』


「すごくお腹と頭がいたいです……」


「…………それはきっと精神シンクロ時の副作用かなにかよ」


発射口が開くと、巨大ロボは発射準備を整える。


『いい? あなたは怪獣を倒して世界を救う。

 そのロボットには人類の英知が詰まっているからきっと勝てるわ』


「はい! 発進します!!」


巨大ロボットは勢いよく基地から発信すると怪獣のもとへと降り立った。

激しい戦いが繰り広げられるかと思いきや、ロボットはまたその場にうずくまった。


その姿をモニター越しで見ていた基地の従業員はすぐに既視感でいっぱいになった。


「うわぁぁぁぁん! こ、怖いィィ!!!」


巨大ロボは無抵抗のまま怪獣になすすべなくボコボコにされた。


『ちょっと! どうして戦わないの!?』


「だって、あんなに怪獣が大きいと思わなかったんですもん!!

 あんな巨大なのを見られるわけ無いですよぉ!!」


『戦わなきゃ人類は終わるのよ! 目をつむってもいいから戦って!』


「無理ですよぉぉ!」


巨大ロボは見当違いの場所に攻撃して、むしろスキをさらけ出してしまう。

基地内では必死の対応が行われていた。


「ねぇなんとかできないの!?」

「なんとかってどうすればいいんですか!」


「怪獣を小さくするとか!」


「無茶言わんでください! そんなことできてたら、最初からロボットなんか作ってません!」


「あのロボットかパイロットをこっちで遠隔操作できない!?」


「できませんよ! あのロボットは特定の人しか扱えないんですから!」


「いったいどうすれば……」


そうこうしているうちに、ロボットはますます怪獣に追い込まれていく。

このままではパイロットも人類も終わってしまう。


司令官はパイロットに連絡をとった。


『パイロットくん、君は巨大なものを見ると恐怖を感じるんだね!?』


「さっきからずっとそう言ってるじゃないですか!」


『大きく見えなければ問題ないんだな!?』

「へ?」


司令官は指示を出して、ロボット内部に映る映像をジャックした。


「こ、これは……!?」


再度映し出された映像はすべてが縮小化されていたものだった。

怪獣もひざたけほどしかないように見える。


『そのロボット内に投影される映像すべてを小さくした。

 これでもう怖くないだろう』


「はい! これで戦えます! うおおおお!!」


見違えるほど動きがよくなった巨大ロボは怪獣を一気に倒した。

怪獣はどういう仕組みか爆発し、世界の命運は守られた。


『よくやったよ、パイロットくん。それじゃ基地に帰投してくれたまえ』


「はい!!」


ありがとうパイロット。ありがとう巨大ロボ。

そして、ありがとう地球防衛基地のみんな。







「あの、司令官? もしもーーし?

 さっきから通信がつながらないみたいなんですけど聞こえてますか?

 もしもーーし。急につながらなくなったんですけどーー。


 あの、基地が小さくて見えないんですが、サイズ戻してもらえますか?

 もしもーーし、司令官? どうして応答してくれないんですか?」

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