臓器系ペットで一番飼いやすいのはやっぱり肺

ちびまるフォイ

部屋ではじまる素敵な共同生活

これは俺が完璧な臓器ペットを手に入れるまでのお話。


※ ※ ※


近くに新しくできたペットショップでは臓器が売っていた。


「よかったらご覧になってくださいねーー」


店員さんはガラスケースの向こう側にある臓器へと案内した。


「この臓器は?」


「これは脾臓ですね。免疫機能を担当したりしてますよ。

 病気になりにくいので、臓器初心者にはおすすめです」


「それじゃこっちは?」


「心臓、一番人気です。活発で元気なんで見ていて飽きません。

 たまに散歩に連れて行って上げると喜びます」


「へぇ、面白いなぁ。なにか飼いやすくて、安いのはありませんか?」

「でしたらこちらはいかがですか」


「肺?」


「ええ、2つあるので片方だけならお安くお買い求めできますよ」


「それじゃお願いします」

「飼い方のマニュアルはつけておきますね」


肺を自転車の前カゴに入れて家に連れて帰った。

肺はぷしゅーぷしゅーと空気を出し入れして面白い。

見ているとなんだか可愛く思えてくる。


「臓器ペットなんて初めてだけど、かわいいもんだなぁ」


「ぷしゅ」


肺はぷっくり膨れてしぼむと、甘えるようにすり寄ってきた。


肺は臓器ペットの中でも特に飼いやすく、基本的に空気さえあればいい。

たまに臓器内のフィルター掃除くらいであとは放置。サボテンより楽だ。


空気だけでも元気いっぱいに動く肺を見ていると癒やされる。


「よしよし、いい臓器だ」

「ぷしゅ~」


「……そういえば、肺は俺がいないときはどうしてるんだろ」


仕事で家を離れて帰ってくると、肺は嬉しそうにやってくる。

でも留守番している間の肺はどうしているのだろうか。寂しくないのだろうか。


臓器ペット店員に聞いてみると即答だった。


「あ、寂しいですよ」

「やっぱり?」


「肺はもともとつがいですからね、寂しがり屋なんです」


「うーん、2個買っておけばよかったかなぁ」


最初は安くてラッキーだと思っていたが、今になって両方のほうがいい気がしてきた。

それでもこれからもうひと肺を買う金などない。


「これ以上仕事増やして肺との時間が短くなったらそれこそ本末転倒だし……」


悩みながら夜の公園を歩いていると、ベンチに寝そべる酔っぱらいがいた。

酔っ払いは大きな寝息を立てて酸素を取り入れていた。


「……あ。あるじゃん!」


酔っぱらいから肺を取り出し、家に持ち帰った。


「ただいまーー。今日は新しい友達を連れてきたぞ、じゃん!」


「ぷしゅ?」

「ぷしゅわーー!」


「お、おい! こら、ケンカするなって!」


夜の薄暗い公園だったからわからなかったが、

酔っぱらいから取り出してきた肺はタバコのせいか黒く淀んでいた。

それに気性も荒い。


「うーーん。これは使えないなぁ、もっとちゃんとした臓器じゃないと」


戻しておこうと酔っぱらいの体をあさっていると、

今度は心臓の方に目が行った。


「すごい、こいつ肺は汚いけど心臓はぴかいちじゃん!」


肺は諦めて心臓を再度持ち帰った。


「ぽっぷ、ぽっぷ」


心臓は拡縮をつづけて床をバウンドしている。元気いっぱいで面白い。

すぐに肺とは意気投合して仲良くなった。


ショップで売られている肺みたいに清潔なものには、

やっぱりキレイな臓器ペットと馬が合うらしい。


部屋に臓器が増えると、なんだかこっちまで楽しくなってきた。


「よーーし、この家を臓器ペットの楽園にしよう!」


それからもいろんな人の体を開いては臓器を確認していたが、

一見健康そうな人に見えても臓器は汚れていたりで

なかなか思ったような臓器には巡り会えなかった。


「はぁ……なんか時間ばかりがかかるなぁ……疲れる……」


疲れを感じて病院に行くと、ちょうど人間ドックの真っ最中だった。


「すごい行列ですね」


「ええ、この時期予防接種なんかも含めて人間ドックがあるので。

 内臓の病気とかもここで判明する場合も多いんですよ」


「それだ!!」


病院では誰がどんな内臓なのかを調べている。

ということは、毎回体を開く手間なく、誰がどんな臓器を持っているかがわかる。


本当はもうたいして疲れてはいないが全力の仮病を使って入院した。


患者たちが寝静まったのを確認し、カルテやCT写真をあさっていく。


「これはダメ」

「うーん、イマイチ」

「おお! これだ!!」


ちょうど入院中の患者の臓器がまさに理想形。

病室で寝ているのを確認してからほしい臓器をどんどん抜いて持ち帰った。


「さぁ、みんな新しい友達……あれれ!?」


明るいLEDライトに照らされた臓器は少し色が落ちていた。

病院の写真で見たときにはもっと色鮮やかだったのに。


後日、そのことを看護師にそれとなく尋ねてみた。


「写真と実物の臓器が違っている?」


「そういうことってあるんですか?」


「ああ、それはそうですよ。写真ではキレイに取れますけど

 臓器を取り出したりすれば、元気を失って当然です」


「そうなんですね……」


「野生のライオンと、動物園のライオンとでは

 同じ種類でも全然元気ぐあいがちがうでしょう? そんな感じです」


完全なる八方塞がり。


欲しい臓器は目の前にいくらでもあるというのに、

手にしてしまえばそれは急速に劣化してしまうなんて。


どうしても完璧な状態の臓器ペットを家において飾りたい。

臓器ペットたちを眺めながら一日中縁側で過ごせたらどれだけ幸せか。


「ああ……いったいどうすればいいんだ……」



※ ※ ※


それから数日。


「先生、あの患者さんってもう退院されたんですか?」


「ああ、あのやたら臓器のことを聞いてくる変わった仮病患者だろ。

 なにか思いついたように慌てて退院していったよ」


「あれだけ病院から出ようとしなかったのに……」


「まぁいいじゃないか。患者のプライベートに深入りすることはないよ。

 それじゃ、患者のところに行こうか」


医者と看護師は予定されていた手術のために患者のところへ行く。

けれど病室に患者はすっかりいなくなっていた。


「い、いない! どこにも患者がいないぞ!」


「先生大変です! 病院にあった皮膚を透明にさせる薬もありません!」


「なんだって!? まさかそれを使って逃げたのか!?」


「先生、それはあり得ませんよ。

 だってあれはあくまで皮膚を透過するだけで、

 内臓は透明にならない医療用ですから、すぐに見つかってしまいます。それに……」


看護師は残された病室の様子を指さした。



「なんかこの部屋、出ていったというより……連れ去られたっぽくないですか?」


※ ※ ※


これは俺が完璧な臓器ペットを手に入れるまでのお話。

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