エピローグ~元気でね~

「いつから、イヴァンをだましてたの? 魔王だって、隠してたの?」

「そりゃあ、出会ってからだよね。まさかあんな小粒が勇者だなんて思わないじゃない」

 ユーリが口をはさむが、どこからもとがめだてる者は出てこなかった。

「イヴァンは小粒じゃないよ。私にも、わからなかった」

「あ? キミもこんなボクが魔王だと思わなかったって? ボクだって見たことも聞いたこともない奴が勇者だって思ってた。まさかキミが――そうだったなんてこと、考えなかったし、考えたくもなかった」

「おともだちだと、おもっていたのに」

 玉座の後ろから聞こえてくる。

「ボクもだよ、勇者」

 硬質な声で魔王は言い放つ。と、同時に波動砲で背後を撃った。

 がらがらと壁の崩れる音。

「坊ちゃま、危ない!」

 マオが、白い姿態のプッシーとイヴァンを抱えながら、穴の底から這い上ってきた。

「ふん、腐っても魔王なんだね」

「それはおまえもだろう」

 二人の勇者は伸びていた。ふう、とマオは息をついて、

「いいかっこうはさせませんよ。一人だけなんて、ね」

 リリスは震えた。今まさに自分の行動と無謀さを反省する。

「そう、ね。私らしくなかった」

「それだけではないでしょう。ヒロイズムに酔うのは、命が助かってからにしてください」

「そうするわ! イヴァン、L数列の火炎魔法で援護して。プッシーはとどめを刺すの」

「オーライ!」

 巻き上がる炎は、いつかリリスが間違った数式の真の姿。

「どうして……? なぜ自分の管轄ではない魔王を攻撃する!?」

「あなたは自分の管轄でない人々を殺した。もう、見過ごせない」

 イヴァンは爆裂系の呪文を唱え、リリスは電撃系の技を放った。

 いつか、リリスの言っていたように、電撃系の技に爆裂が加わると最強だった。

 マオが目覚めたプッシーの手に、短剣を握らせる。

 魔王が膝をがくがくいわせている、このチャンス。逃すわけにいかない!

「プッシー殿、しっかり構えるのです」

「あ、ああ!」

「心臓を突くのですよ。手加減は無用!」

「わかった」

 二人は共に魔王に体当たりをした。

 ユーリの命は花と散った。

「あなたの言う通り、私は好きに生きる。おかあさんの仇をとって、勇者として生きる!」

 プッシーが決然と言った。

「ボクは……魔王なんだよね? 魔王の心臓は、命はひとつじゃない。ああ、勇者ってのは、そんな目をしたやつのことだよね。ボクの心臓を潰した罪は重いよ……? また逢おう。そのときはキミなんかにやられやしない……必ず」

 ユーリは風をまとい、姿を消した。

「や、やった……の?」

「プッシー殿、自信をお持ちなさい。それでいい。それでいいのです!」

「魔王を、やっつけた……?」

 マオは違うとは言わなかった。

「おかあさんの、仇を討った……この私が! っ……私が!!!」

 プッシーは激しく泣きじゃくった。これまでの反動のように、溢れて止まらなかった。

 リリスとイヴァンがそばに倒れている。

 マオが穴の向こうを見ていた。味方に回復呪文をかけねばならないのを、忘れていた。

 やがて、勝手に回復したイヴァンが言った。

「マオ、お茶が飲みたい」

「承知いたしました。坊ちゃま」

 真っ赤な雲が流れていた。

 その後のことなど、知らぬげに。

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