いまわの際に勇者は言った
「一度でいい。女の子のおっぱいをもみたかった……くはっ」
なるほど、と魔王は思った。
もう、命尽きるというのに、この勇者はましなことを考えないのか。
「べつに、そこまで苦労してないだろう、勇者。パーティーにもいただろう。グラマラスな女戦士が」
すぐそこの、柱のそばに転がっているが、私はキライじゃないぞ。
「あれは筋肉……おっぱいじゃない。ぐは!」
「もんだんじゃないか。言い残すことはそれだけだな」
くだらん。
思ってしまったからには息の根を止めた。
しかし、打倒魔王、と、誰をおいても、何をおいても人一倍、打ち吠えていたはずの、勇者がこれでは、もうしばらくしたら滅びるだろう、人間。
それは困る。ちょっとだけ困る。
ともすると魔王軍が戦争をのみしていると思われそうだが、一定数、労働に割く奴隷が必要なのだ。実は魔王は楽に暮らしたい。
この戦争が終わったら、人狩りをして魔獣の子を産ませようか、餌にしようかと楽しみにしていたのに。
なにやら、せつないではないか。
尻尾が、紅く光っている火ネズミがちょろりとやってきて、
「魔王さま、今回の眠りは永くなりますのか?」
「なに、仮眠さ。つまらぬ戦いだった」
「魔王軍はいかがいたしますか?」
「糧食は多くない。人口がぐっと増えるまで食人をひかえるように各方面に通達しろ」
「ぐっと? ぐっととはどれくらいで?」
「意味のない質問をするな。人間どもが死ぬ気で技術職を広め、――おおよそでもいい。毎日三百隻の船が港を行き来するくらいだ」
「ははっ」
新たなる勇者が転生してくるまで、人は増やさねばなるまい。
一切の感情を遮断して、そう算段をつけてしまうと、牙城にて魔を統べる王は永い眠りについた。
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