魔王は転生勇者を待っている
――終わらない。
「あの」勇者との邂逅は、一体何だったのか。
真正面からお互い、つばを吐き合い、怒鳴り合い、
――女の子のおっぱいがもみたかった。
ただ、それだけを言い残して逝ったアレは、なんだったのか。
あれが普通なのか、それともすべての勇者の望みがそれだというのか。
つまらん妄想で片づけるにはせつなすぎる。
魔王は、従者の呼び声に、ふと、自分が夢を見ていたことに気づいた。
「寝てもさめても、考えるのは貴様のこととは……私も、少々ヤキが回ったな」
なあ、今生では、もっと楽しませてくれるな……?
そばで火ネズミたちが、いっせいに火のような尾を揺らめかせ、ゆらりゆらりと暗闇の
魔王が起き上がると、光は一層燃え上がった。
「人間どもが、港で毎日三百隻、船を行ったり来たり、させておりまする」
「まさか、きっかりか?」
「きっかりでございます」
「十分だな」
言った後で魔王は、不審そうにした。
「いや……三千隻になるまで、今度は起こすな」
「しかし、食人を禁じられた魔獣どもが、共食いをはじめておりまする」
「予定のうちだ」
「魔王さま……魔王さま……魔王さま……」
「繰り返すな。なんだ」
「共食いをしている魔獣どもの中に、知性を持つにいたったものがございます。このままでは、魔王さまの敵対勢力がまた……」
「ふん、また、とな」
「いかがいたしましょうや?」
「かまうな」
「よろしいので……?」
「共食いは行動パターンを多様化させる要因になる。おもしろき事よ。じきに蝕がくるしな。そも、魔獣とて――いくら知性を芽吹かせたとはいえ、まさかそう、私をわずらわせるほどにはいたるまい」
傲岸に言い放つと、火ネズミたちをよそに、魔王はいびきをかき始めた。
すべての火ネズミたちが、埃っぽい寝所から出てしまうと、魔王は高い天窓を見上げて息をついた。暗く、
「いつまで、待たせるのだ……勇者よ」
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