刻を廻る星鋼ガトラベル

東雲メメ

PART.1:WHALE OF FORTUNE

#--『それは、何度目かのエピローグ』

『諦めろ、現時刻ここがお前たちの終点ゴールだ』



 装填されていた六発目さいごの火薬が炸裂する。

 次の瞬間──根元まで突き刺さっていた杭が引き抜かれるのと同時に、機械仕掛けの巨人は膝から崩れ落ちた。


 廃墟と化した都会まちの大地に、鉄の棺桶にも似た巨体が投げ出される。

 ヒトと同じように四肢を有しながらも、ヒトが持たざる尻尾を臀部から生やしている。そんな“獣人型”ともいうべき全高約7メートルの鉄塊マシンいた。



『これでほねずいまで理解できただろう。番人ボクがいる限り、お前たちは運命を変えられない。ここから先の未来へは、一歩たりとも踏み入れさせない』



 相対する巨人の片側──白色をした五体満足の機体がそう言った。

 声は少年のものだった。まだ若干の幼さが残る……しかし芯の強さを感じさせるような落ち着いた声音で、通信回線越しにを促してくる。



「ここが終点ゴール、だと? ……クフハハッ」


『? 何をわらっている……』



 白い機体が見下ろす視線の先──そこには今しがたトドメを刺されたばかりの、胴体に大穴を空けている黒い巨人がひざまずいていた。

 すでに少年によって牙を折られたその敗者けものに、もはや再び立ち上がるだけの力は残っていない。にも関わらず、背部のコックピットブロックに座す男は笑みを浮かべていた。

 自信と執念に満ちた、どこまでも漆黒くろいびつ嘲笑えがおを。



「オレにはまだ選択肢てふだが残っている、勝負ゲームを投げるには少しばかり早いんじゃあないか」


『減らず口を……そちらの武装はすべて破壊させてもらった。どう考えたって完全に“詰んでる”よ』



 事実、男の機体は持ちうるすべての得物を取り上げられており、またそれを行使するための両腕もすでに切り落とされてしまっている。

 人型兵器としての長所を剥奪された黒い機体は、もはやボロボロの胴体に脚が生えただけの鉄屑てつくず達磨だるまも同然の状態だった。



「フッ……読み違えているぞ。オレは


『何……?』



 そんな絶望的な状況にあってもなお、男は操縦桿を握るその手を決して緩めてはいなかった。

 “希望”と呼ぶにはあまりにもにごりきった輝きを、その眼にともしながら──


 そこで白い機体を駆る少年はようやく気付いた。

 まるで二台の冷蔵庫を背負っているように、人型から大きく逸脱した両肩部。その上面を覆っていた分厚い装甲板カバーが縦にスライドしており、そこに収納かくされていた粒子加速装置がいつの間にかあらわになっていたことに。


 先ほどまで激しい攻防戦を繰り広げていた、その合間に──を行っていたことの、確かな痕跡だった。



『まさか……転送とばしていたというのか? この戦闘での記録きおくを……ッ!』


「ああ。そして貴様に真の敗北をもたらすのはオレではない……願いという名の経験値セーブデータを引き継いだ、112秒前かこのオレ自身だ」



 どこか投げやりな笑みを浮かべながら、男は手元のコンソールにあるコマンドを打ち込んでいく。

 システム側でそれが受諾されたのを確認すると、腹を括った男は覚悟を決めてペダルを蹴り込んだ。


 地面に這いつくばる死にかけのセミが、まるで最後の力を振り絞るかのように──男の駆る機体はとつぜん跳躍し、不意を突く形で少年の白い機体へと体当たりする。

 そして地面に押し倒されながらも必死に抵抗する敵機をどうにか抑えつけつつ、男は躊躇いなく“最終意思確認”のスイッチへと手を伸ばした。



『まさか、自爆するつもりか……!? 無駄だ。その機体に積載された火薬量では、次元歪曲場の障壁バリアを抜けられるハズがない!』


「クク、諦めんぞ……実妹すべてをこの手に取り戻すまで、オレは何度でも運命きさまに抗ってやる。ああそうとも、何度でもだ……ッ!」


『くッ、正気を失ったか……!』


「オレと刃を交わす前の自分に伝えておけ、せいぜい首を洗って待っていろとな。ククク……クフハハハハハハハハハッ!!」



 させるものか──と少年が叫び返したときには、すでに極彩色の輝きを放つ粒子は爆発的に広がり始めていた。


 男の意識が/肉体が遠のいていく。

 その間にも黒い機体から放出されている粒子は、なおもその範囲を拡大させていき──



(たとえ何度繰り返そうとも、今度こそオレが必ず救い出してみせる……)



 凄まじい衝撃が機体の心臓部で発生し、男の肉体や意識を、周りの大地もろとも吹き飛ばしていく。

 そして全てを包み込むまばゆい光は、やがて一筋の光条へと集束し──



(だから、ときの狭間で待っていてくれ。不知火しらぬい。我が妹よ……)



 時計の針は、また巻き戻りはじめた。

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