デパーメントHに行って来ました!

 

来たる3月2日、数年前から挑戦しようと考えては生来の逃げ癖で避け続けていたイベントについに行ってきました。


 デパーメントHというイベントです。


 一部では現代のサバト。


 変態達の祭典なんて言われているようですが、たまたま見た画像で…まあ、多種多様な…仮装? えっと…自分を解き放った? その自由な空間に興味もちましてね。


 ちょうど都内に行く予定があったので行ってみる事にしました。


 鶯谷。 時刻は24時。 目的地は東京キネマ倶楽部。


 そこに降り立った俺は初めて来た鶯谷のラブホの数に圧倒されていた。


 だって駅から一分でホテル、ホテル、ホテルですよ。


 いや、もしかしたら秒速でホテルかもしれません。


 怪しく光るネオンの光で照らされた休憩4000円、宿泊8000円の看板の前を通りすぎ、出てくるカップルたちのラブラブな姿に目を伏せ、そしてダブルカップルなんでしょうかね?


 四人組の男女が「それじゃホテル行く前に酒買おうぜ~!」「私、梅酒がいい!」

とか楽しそうな会話をしているのを耳を塞ぎながら目的地まで歩きました。

 

 昼間は詩のイベントで美しく、心が綺麗(一部笑わせてくれる)になるような詩を聞いて大分浄化されていた俺の心もいつものように荒んでくれて心の準備はバッチリですよ。


 高架下を潜れば目的の場所はすぐにわかりました。


 だって結構並んでるんだもん。 時刻は23時20分ですよ。

 

 結構参加者いるんだな。ってのが最初の感想。


 一応入り口を覗いてみると、あれ?イベントの告知が無い。

 

 あわててスマホでフライヤーを確認する。 うん、ここであってる。


 もしかして土曜24時からってのは昨日の24時ってことか?

    

 おそるおそる最後尾に並んでいた眼鏡の紳士風の男性に確認してみると、


「あの…イベントって24時からですよね?」


「そうですよ」


「あ、あの…デパーメントHですよね?」


「そうですよ」

 

 男性はニッコリと答えてくれました。


「いや~、良かった。もしかして昨日の24時からかなって思っちゃいましたよ」


「毎月第1土曜日開催だからね、君は何回目なの?」


「今日が初めてなんですよね、前から来たいとは思ってて…」


「ああ、それならショーもあるし、色々な人が来てるからきっと楽しめると思うよ」


 そう紳士は言ってくれました。 ただ気になることが一つ。


 笑いながらそう答えてくれる紳士の笑みはなんというか怪しいというか色々な含みがあるように見えて、ちょっとビビリました。


 もしかして私、昨日までの自分とは変わっちゃうのかも。 


 なんだかそんな気がしてしまいそうな…そんな予感が。 


 とまあ、それでも間違えてたわけではないことにホッとしつつ紳士との会話を続けます。


「ほら、見てごらん。多い日はここから高架の上辺りまで人が並ぶんだよね」


「衣装とか持ってくれば料金安くなるから、今度来る時はそうした方がいいよ」


 そう言う紳士は大きめのバッグを足元に置いていて、『あの、どういった衣装を着るんですか?』とはさすがに聞けなかったけれど。


 でもまあ紳士のおかげで、こんな良い人が居るなら、そこまで怖いイベントではなさそうだとあらためてホッとします。


 やがて入場時間になりました。


 スタッフであろうごついお兄さんが「IDはあらかじめ用意しておいてください」

と数回声賭けをしてくれて入り口辺りに立った金髪で派手な衣装したとても背の高い、でも声からしてお兄さんたちが一人一人IDを確認していきます。


 デパートメントHは20歳未満は参加できないようで、その辺も結構しっかりしてるんだなと感心しました。


 さて、いよいよ入場なわけですが、ここからは文章を厨ニ風に変えさせてもらいますね。


 なぜかって? そりゃ俺とて一人の創作者、現在のサバトなんて表現されているところに行く以上は自分もそのサバト参加プレイヤーとしての振る舞いをしないとね。




 厳かなるその宴、異形の者達は愚かな人間の侵入を許さず、証を提示するように促す。


 我も手にした証を誇らしげに掲げ、宴への代償を捧げよう…


「あっ、料金は中で払ってくださいね」


「あっ、はい…」


 ……と、とにかく、かくして我は未知の宴へと踏み入れた。


 入り口にはかの古竜アンデルグスのような巨大なる足をしたお、女…?い、いや人の上半身をし、下半身は竜のような足をした者が異空間ゲートを開く。


 それに今は我と同じようなる姿をした者たちと乗り込み、やがて宴の場へと到達したチーンという音が響き渡って扉は開いた。


 出迎えた者は…その、あの…あれだ、ああ! そう、人の顔面を模した面を被った…えっと…お、女…? いや者が出迎えて、近未来的な皮素材のメイド(もう性別とかどうでもいい)が立っていた。   


 我に問いかける。


「あっ、フライヤーは無いんですね、それじゃこの紙を持って受付に渡して料金を払ってください」


「あ、ああ…」


 代償物を入れる箱に立っていた者に代償を捧げ、降臨する。


 中は二階階層になっており、降り立った場は二階に位置して、そこからステージが見えた。

 

 すぐ横には階段が螺旋状に鎮座しており、そこにも降り立つことが出来る。


 降りると、異形なる者たちが今宵の為に拵えた代物が置いてあり、購入することが出来るようだ。


 その陳列物も背徳的ではあるが、興味をそそられる物がいくつも置いてある。


 さて、今宵のショーを観覧するための席を探すとしよう。


 席は二階にだけあり、ステージ側に幾つか置いてあった。


 各自で自由に座ることができ、その後ろのソファ席は各種族ごとに座る場所が決められている。


 ふむ、ちょうどステージ正面の椅子が空いている。 


 これに座るとしよう。 椅子は固くもなく適度に柔らかいので疲れた身体には心地よい。


 さて、ふー。


 ため息が一つ漏れる。


 そして…………、


 ごめんなさい! もう無理です!


 もう雰囲気に圧倒されてこれ以上は演技できません!


 書いても書いてもあの場の雰囲気が表現できないよ!


  なんなの? こんな…こんな尋常じゃない空間なんて無理だって! 絶対に無理だって!


 そりゃ想像していれば創造できますよ? 


ただね、現実に見せられてたら自分の拙い文章力じゃあれは再現できません!


 わかるのよ、自分でわかるのよ~。 全然ダメダメだって。


 まずね、この空気? 異質過ぎてどう書いていいのかわからないのよ!


 だってすぐ後ろじゃテカテカのラバースーツで文字通り全身包まれている人がいるわ、股間以外裸のおっさんはいるわ、極めつけにはオムツ履いておっぱいの先だけシール張ったお姉さんもいるんだもん。


 あっ! そうだ、あの時のお姉さん、ジロジロ見ちゃってすいませんでした!


 違うんですよ、違うんです。 いやらしい意味で見てたんじゃなくてその衣装と会場の空気に圧倒されてキョロキョロしてただけなんですよ!


 いやそりゃ確かにエロティシズムは感じましたが、それどころじゃなかったんです! 


 本当なんですって! 


 とか言ってるうちに後ろじゃ縛られて腹に『この男の○玉(ゴールデンボール『言い換えました』)を潰してやってください』なんて書かれてるおじさんはいるわ、掃除機?で空気抜かれながら真空パックみたいにされてる人(窒息しないように呼吸器みたいなのはつけてました)がいるわでそんな余裕なんてなかったんです。


 もうそのへんで厨ニ病を気取った男ではなくて、中学二年生になった男の子にクラスダウンしてました。

   

 ガクガクでしたよ。 マジで。


 ドSのお姉さまがいたらそのまま調教されちゃうんじゃないかってくらいか弱い少年になってました。 


 まあ実際はメタボのオッサンなんですけどね。


 こんな気分になったのは十歳の時にオカマバーに連れて行かれたくらいのカルチャーショックですよ。


 しかもさっき僕の後ろにマッドマックスの世界?もしくは世紀末覇者の世界から異世界転生してきたんですか? 


 って聞きたいくらいにヒャッハーな人も居まして、もうリョナ気質の人からしたらボコボコに顔を腫らして「ちょっ、調子に乗っふぇ…ふ、ふいませんでひ…た」

って言わされてる美少女の画像くらいに心折られてましたからね。


 でもまあやっぱり実際はメタボのおっさんなんですけど。


 でも…、でもね? なんか凄いなって感動も同時にしてました。


 だってこんなに大勢の人が自分の好きなことを自由にやってるって素敵なことじゃないですか?


 そりゃ俺だって変態っていう自負はありますし、一部理解できる趣味もあります(まったく理解できない趣味もありますが)でもやはりそれはアブノーマルで変態チックと言われて迫害、白眼視されてたとしても、この場で同志と会話したり、マイノリティーな人達が交友できる場があるってすごい救われることだと思うんです。


 知り合いにもメンタルが性不一致な人もいて、その子も昔は色々悩んでいたということを聞かされていたので、そういう人達が一人じゃないって思えて、やりたいことが出来る場所があるのは、例えそれが世間的には「ええ~?」と思われることでも、それはとても有意義だと思います。


 自分も産まれや育ちが特殊ではありましたが、それでも助けてくれる人は居たので、そういう気遣いというか優しさって本当に救いになるんです。    


 自分がまあ、重犯罪者や若い時にグレなかったのもそのおかげですから。


 ただこの濃密な空間にはさすがに堪えましたけど。

 

 なんだろうね? 生まれて初めて場酔いというものを体験しました。


 頭がクラクラしてきてお外の空気を吸いたくなったってのは本当に初めてだったんですよね。


 ただ、まあここから逃げるわけにはいかないし、来た以上は最後まで居なきゃと思ってたらすぐに慣れましたけど。


 さて話を戻すしましょう。 


 このようにデパーメントHではかなり濃い人達が集まっていますが、ショーも楽しめますし、司会のドラッグクイーンの方やスタッフの人たちも楽しんでくれるように盛り上げてくれます。


 ショーの一番初めはドラッグクイーン達の紹介で、まあ皆さん、参加者の濃さに負けないくらい濃くて濃くて、でもこの場ではそれが普通に感じますし、良くも悪くも派手なので見てて楽しいです。


 あと各自の紹介の際の司会の方の皮肉の聞いた口上が面白くて笑ってました。


 さて各員紹介の後はドラッグクイーンさん(ハルカ・デルソーレさんというそうです)のダンスショーで華麗でした。 


 ダンスは完全に素人な自分ですが、所作が美しくて魅入ってました。

 

 あれだね、美しさってのは所作の中にも含まれるんだってことが良くわかったね。


 次のショーはキャットファイト。 


 ゴキブリを模した衣装で遠目からでも可愛い人でした。


 なお、本来の対戦相手はダブルブッキングで出られなかったそうで急遽前夜の午前三時にオファー出したのに来てくれた、ともちゃんという方が対戦相手だそうです。


 しなやかな身体に筋肉がしっかりと付いたスタイルの良い女性でした。


 内容は…もっと格闘試合みたいにガチガチでやるのかなと思ったけど良い感じにゆるくて初心者的には楽しかったです。

 

 最後、ゴキブリ衣装の女の子が衣装脱がされた時に「あっ、おっぱい見える」と思ったらちゃんとゴキブリ形のシールでガードしてたのは笑えました。


 続いて次のショーは今日一番自分が盛り上がった若林美保さんのショー。


 これは天井から2本のシーツを下げて、それを使って身体だけで昇ったり、それを使用してポールダンスみたいなことをしてました。(エアリアル・シルクというそうです) 


 これは本当に凄かった! シーツ2本だけで昇ったり、ぶら下がったり、アレやコレやしたり(もう凄すぎて表現できない!)してこれだけのパフォーマンスをあんな短時間でやれるなんて半端無い体力でした。


 なお文章書きとしては最低の言い訳ですが、本当にあんな凄いもん文章に出来るか!って逆ギレを今はさせていただきます。 (いずれは表現できるようになってやるよ!)


 なお、最後の方でおっぱい出してましたが、そんなのどうでも良くなるくらいの圧巻のパフォーマンスに無意識で「感動するわ」って言葉が出てました。


 なお、これはお世辞でもなく本当に言ってましたからね! 本当のことだからこれだけは強調しておきます。


 まだまだショーというかステージ上では色々やっていましたが、これくらいから場の空気と参加者、そしてショーに圧倒されて奥で休憩してました。


 まるで夢の世界(幾分悪夢に近いけど)に居るようで、数日たった今でも現実感がなくて記憶が曖昧になってるところがあります。


 ただ心臓フェチ? 心音聞くと興奮するって人が紹介されてたのをなんとなく覚えてます。

 

 ああ性癖ってなんて奥が深いんだろうって思ったことだけ記憶にありますわ。


 さてその後も数時間滞在していたのですが、はじめてのデパーメントHに打ちのめされていたので、もう何をしていたのかも思い出せません。


 やがて閉店時間が近づき、参加者がゾロゾロ返っていくなかで、俺も同じように帰り支度を始めます。


 エレベーターを出て、外の空気を吸った瞬間に、今までのあれは夢だったんじゃないかという感覚に陥りました。


 現実感の無さに思わず振り返る。


 そこにはやはり東京キネマ倶楽部は存在していて、その中にあったあの世界はやはり実在していて、そこで戸惑い、感動し、胸を躍らせた自分は確実にそこに居たのだと確信出来ました。


 そんな朝焼けの鶯谷の空は妙に美しくて幻想的で、そして俺は一つの決心をして帰路に着きました。


 来月もまた来るぞ!ってね。


 なお、最初に会話した紳士とは会場内では出会えませんでした。


 果たして彼はラバースーツで全身を包みながら、あるいはS嬢にムチ打たれながら、はたまたケモノの被り物をしながら俺を見ていたのでしょうか?


 また一人サバトの魅力に取りつかれた男の姿をほくそ笑みながら。 

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