決戦2

「ルーチェ姉っ!」


「うおっ!!?」


2人が壁際へ近づいたとき、エマが慌てたような声でルーチェの名前を呼びながら、自分より長身の彼女の襟首を強く握って思いっきり引き寄せた。


「なんだよっ!?」


「そこ、足元に罠仕掛けてるの」


「地図に載ってなかったぞ!報告はどうした!」


「良いかなーって思ったんだよぅ、ルーチェ姉が気づかないくらいなら大成功だね」


「……ったく、これだからお前は───」


立ち止まって言い合いをしていると、今度はルーチェがエマの頭をガシリと掴んで一緒にかがんだ。彼女の目線の先に居たのは新参者だ、屈むとほぼ同時に2人の頭上を一発の弾丸が通り過ぎていった。直ぐにルーチェが始末したが、エマの表情はドンドンと子どもらしく不満げに、ぷくーっと頬がふくらんでいく。


「ぶー!縮んじゃうじゃん!!」


「頭に穴が空くよりマシだろ、ほら次行くぞ」


「ぶー!」


「はいはい」


ルーチェが、拗ねるエマを適当に宥めながら共に戦場に戻っていく、地のかした事と、一人一人の実力差で、戦況は傭兵軍が圧倒的優位に立っている。


暗黒街を住処としてる男たちの怒号が飛び交っている中を、殺し屋傭兵軍はワザと砂ぼこりを舞上げて移動する。夜だからといっても誰も油断はしない、夜に慣れてるのはなにも自分達だけではなく、敵もそうだろうという認識があるからだ。ただ、敵が頭に叩き込んできたこの街の地図は、フェルディナン達が都合の良い戦闘に持ち込むために作成した偽物だ。嘘の地図、更に視界を不明瞭にされれば新参者たちは手も足も出せなくなってくる。砂は立派なスモークとして機能し、街の人間たちの矛にも盾にもなっていた。


 皆が掛け合う報告を聞きながら、リューヴォはひと足早く前線から引き上げて住み慣れた高い物見やぐらへと移動していく。ここには街全体を見渡せるように、幾千と取り付けられているカメラから送られてくる全ての映像を表示できるモニターが置いてある。砂埃で鮮明では無いが、彼女には関係ない。リューヴォ達は事前に、全ての戦闘時間を秒単位で計算して戦略をたてて動き方を決めていた。その結果として、急襲に向いてる形の作戦に仕上がったのだ。


「こちらリューヴォ――メリッサ、そっちの情報はクリアかしら?」


『あったり前だよーっ!こっちの死人71人、怪我人2056人、敵生き残り想定範囲内っ!罠の範疇はんちゅう内に敵583人っ!情報クリア―繰り返す、こちらメリッサ、情報クリア!』


「さぁて…スナイパー部隊、罠範疇外を頼むわ。メリッサ、位置情報を共有してスナイプ開始」


『あいさーっ!』


今からは、ちょうどスナイパー達の出番だ。リューヴォの耳には、各位置の地下にいる情報屋たちとスナイパー部隊のやり取りが聴こえてきていた。それから間もなく、飛び交う弾丸が慌てふためく敵の頭を次々に撃ち抜いていく様子が見えてくる、モニターにも映し出される。彼女の唇の端は、自然と吊り上がった。縄張り争いを繰り広げていた新参者たちは、思いもしなかった。この街が本来は犯罪繁華街であることも、産まれ生きてる少女たちが、犯罪に染まっているとは言え、故郷を守るために手を取り合い襲撃してくる等とも。


 

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