武器商人の地図

おもむろに、エマがスーツの内ポケットから地図を取り出した。その地図上には建物内部の間取りや、地下入口の場所、武器を隠せる物がある場所等が細密さいみつに書き込まれていた、ソレを2人して覗き込みながら話し合いが開始される。地下エリアの南区と東区で参戦表明をしていた人間達が、一斉に地図を開いたせいで端末を経由せずとも─ガサッ─という音が2人の耳に入ってきた。その音を聞いて苦笑しながら頷きあった豪撃のルーチェと赤眼のエマ、地図上に振られている番号を指差しながらルーチェが一つ一つ丁寧に尋ねていく。


「ここはマガジンをいっぱいにしといて貰いたいんだけど、置けるか?拳銃は全員が使うものを同じにする、そのほうがやりやすいだろ?」


「それは助かる!そこなら問題ないと思うし、大丈夫だよっ!んー、コッチと…あとココにもマガジン置いとく?」


「そうだな、頼むよ。それとコッチには機関銃置いといてくれ、夜目が利くヤツに使わせる」


「機関銃ね…OK、あとは?」


いちばん大切な事が決まったので、次に決めるのは武器商の誰がどの人間に付くのかという問題だった。エマとルーチェは最初から2人で組もうと決めていたが他が問題だ、縄張り戦争で必要な連携、要するに相性の問題がある。そもそも過去にこのような戦争をした経験者が少ないのだ、一度懇親会でも開くべきかという話まで持ち上がって、そのまま実行に移す事になった。戦争前に懇親会とは妙な響きであるが、それが出来るのもXエリア独特の思考というものが影響しているのだろう。一方でドン・リューヴォ、隻眼のリアナ、業火の死神メアが、疾風のメリッサからの情報をもとに作戦会議をしていた。こちらでは地図を広げて眺めていたときに、メアがボソッと独り言でも口にするように最初の言葉を落とした。


「鉄格子周辺、わたし達に任せてくれない?」


「良いわね、そうしましょ。じゃあリアナのほうは、初っ端と引き際だけ気をつけて」


「あいよ~」


3人の間で決まったことを、メリッサはせっせと縄張り戦争参戦者たちに伝えていく。そして、忘れてはならない参戦者以外への情報提供も並行へいこうして行なっていた。不意に、ある事に関してどうするのかを聞いていないのを思い出して、背後にいるリューヴォへ声を掛けた、それがメリッサにとって何より大事なことだったからだ。


「地上のみんなはどーするの?」


最もな問いだ、地上には殺人と言えるほどの重罪を犯したことの無い犯罪者や、15歳までの子ども達しかいない、彼等が戦闘に出る必要はない、としているのがリューヴォの観念だ。このXエリアでは15歳になれば、出ていくも良し、地下への扉を開くも良し、そのまま地上エリアに留まるも良しとされている。まだ7歳のメリッサや、11歳のエマ、同じく11歳のリューヴォ、14歳のメア、この4人はあまりにも犯罪者としての気質が高かったゆえにかなり早く地下の住人となった、例外中の例外な存在なのだ。メリッサの言葉に、パチッと胸の前で手を合わせたリューヴォは普段なら誰も考えたりしないようなことを言った。


「そこは、入れ替わり作戦を決行するわ」


「入れ替わり?」


「そう、地下エリアの部屋、だいぶ空きがあるでしょ?だから地上のみんなには、空き部屋に移ってもらうの。で、アタシ達は地上エリアに移りましょう」


「なるほどー…あ、エリア外、最近は前よりも新参が彷徨うろついてるから気づかれねぇように慎重にやんないとな」


「入れ替わり、明後日の深夜帯から始めるわよ。メリッサ、伝達お願いね」


「アイサーッ!」


何百とある地下への扉の位置はメリッサが全て把握している、そこから地上で住んでいる人間達と繋がる1番近い扉の場所を、百数十ヶ所以上、的確に地上の住人の携帯端末に送っていく作業に掛かった。縄張り戦争勃発二ヶ月前、ここ迄で、どの分野の人間達がどんな動きをするかが大体決まった。

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