パイナップルパイがおいしく作れない

@dekai3

パイナップルパイがおいしく作れない

 パイナップルパイが作れない。

 パイナップルパイおいしく作れない。

 クラスで一番かっこいいユウくんが「沖縄のパイナップルパークで売っていたパイナップルパイがメチャクチャ気になったんだよねー」って言っていたのをこっそり聞いてから一生懸命練習しているのに、全然パイナップルパイがおいしく作れない。


 なんで?すごくボソボソする。おいしくない。

 これじゃユウくんに食べてもらえない。クラスで一番かっこいいユウくんに

「毎日私の作るパイナップルパイを食べてください」

 って告白しようと思ったのに、これじゃ計画が上手くいかない。ダメダメ困る。


 お母さんやお父さんには恥ずかしいからお兄ちゃんに

「パイナップルパイがおいしくないからユウくんに告白出来無い」

 って相談したら、お兄ちゃんは

「お前のおっぱいの大きさなら大丈夫だ。中学生なんて単純だ」

 って言うから、ボソボソのパイナップルパイを口に詰めて黙らせた。もう本当サイアク!変態!!


 仕方ないから沖縄のパイナップルパークに電話して受付のおねえさんに

「パイナップルパイのおいしい作り方を教えてください。私の人生がかかってるんです」

 って言ったら、おねえさんは

「企業秘密なのでお伝えできませんが、工場見学なら受け付けてますよ」

 って言うから、ずっと溜めてたお年玉を使って沖縄にやってきた。何ここ暑い!常夏!!


 待っててねユウくん。

 私、ユウくんのために絶対においしいパイナップルパイを作れるようになって戻るから!

 その時はちゃんと私の気持ちも受け止めてね。

 でも、パイナップルパイ工場ってどうやって行ったらいいの?誰か教えて?




 パイナップルパイを作るために。

 パイナップルパイをおいしく作る為に。

 わざわざ沖縄まで来たんだけど「ヘーイお嬢ちゃん!俺と浜辺でランデヴーしない?」って言ってくる変なおにいさんばかりで中々パイナップル工場まで辿り着けない。こんなんじゃ全然おいしいパイナップルパイを作れない。


 なんで話しかけてくるの?普通に行かせて。

 黙って出てきたし日帰りの予定だからあまり時間が無いの。あ~んもうジャマ!

 仕方ないからタクシーでパイナップルパークに向かう。

 お年玉の残り少ないのに。いくらだろう?大丈夫かな?


 そうやってお金の心配をしていたら運転手のおじいさんが

「おじょうちゃん、あんたパイナップルパイを作りたいんだって?」

 って聞いてくるから、私は

「そうなんです。おいしいパイナップルパイを作りたいんです」

 って言ったら、なんとおじいさんはパイナップルパイ仙人なんだって!すごい!


 私は目を輝かせながらパイナップル仙人に

「ユウくんのためにパイナップルパイの作り方を教えてください」

 って言ったんだけど、仙人は

「おじょうちゃんみたいな可愛くておっぱいの大きい子なら断られないじゃろう」

 って言うから、家から持ってきたパイナップルパイを口に詰めて黙らせた!ここでも!?変態!!


 待っててね、ユウくん。

 変なおじいさんに捕まっちゃったけど、パイナップルパイ工場にはちゃんと着いたから!

 ユウくんはこんな変態じゃないよね?

 私、信じてるからね。クラスで一番かっこいいし大丈夫だよね?ユウくん!




 パイナップルパイ工場は甘くていい匂いがして、見た目も横に切ったパイナップルそのもの!


 早速受付のおねえさんに「クラスで一番かっこいいユウくんのためにパイナップルパイのおいしい作り方を知りに来ました!」って言って、工場見学の受付用紙に名前を書く。

 受付のおねえさんは「企業秘密なのでお伝えできませんが、どうぞ見学していって下さい」って言って中に入れてくれた。


 パイナップルパイ工場の中はすごい!


 工場の右からはパイナップルがベルトコンベアーで運ばれて、機械に入ったら皮が剥かれて、違う機械に入ったら細かくなって、大きな鍋に入れられて、しばらくしたらジャムになる。


 工場の左からは違うベルトコンベアで小麦粉や卵が運ばれて。機械の中でぐるぐる捏ねられて、タオルみたいに薄く延ばされて、小分けにされて型に嵌められて、パイ生地になる。


 そしてパイナップルジャムとパイ生地が工場の真ん中でサッ シュッ ギューッ サッ て組み合わさって、生のパイナップルパイが出来上がり、そのままベルトコンベアでオーブンまで運ばれて、焼き上がったパイナップルパイになって出てくる。




 パイナップルパイだ!

 あれがパイナップルパイだ!

 私の作ったパイナップルパイと全然違う!すごくおいしそう!すごいすごい!パイナップルパイ工場はすごい!これは確かにユウくんも認めるパイナップルパイだ!私もこんなパイナップルパイを作らなくちゃ。


 パイナップル工場はこれだけじゃない。

 なんとパイナップルパイの切れ端とパイナップルが食べ放題。ふとっぱら!

 でも、家じゃ工場みたいなベルトコンベアも鍋も無いよね。

 なんとか家でも出来る方法は無いのかな?工場作る?


 私がうーんって唸りながら考えていたら工場の人が

「パイナップルパイを作る為に来たんだって?偉いなぁ」

 って言うから、私は

「そうなんです。ユウくんに毎日作ってあげるんです」

 って言って、一生懸命に試食室の壁に貼ってある作り方の手順を見る。うーん、どうしよう。


 すると工場の人は笑いながら私に地図を差し出して

「ここのお店に行きな。おいしいパイナップルパイの作り方を教えてくれるよ」

 って言うから、私は

「ありがとうございます!絶対においしいパイナップルパイを作ります!」

 って言って、地図を受け取って工場から早足で駆け出した。やった!沖縄に来てよかった!


 待っててね、ユウくん。

 パイナップル工場のパイナップルパイの作り方は私には無理だけど、なんとかなりそう!

 もう少しだから、あとちょっとだから。

 おいしいパイナップルパイが出来たら直ぐに持っていくから!待ってて!!




 パイナップルパイが作れる。

 おいしいパイナップルパイが作れる。

 工場の人から貰った地図を頼りに辿り着いた場所は小さな喫茶店で、外の黒板に『魔法のパイナップルパイあり〼』って書いてあって、パイナップルパイがあるのか無いのかよく分からない。それに魔法って何?でも私はパイナップルパイを作るんだ。


 ドアを開けると鐘が鳴り、中から甘ーい匂いが漂ってくる。

 中は可愛いテーブルとイスがいくつかと、カウンターで寝てるおばあさん。

 営業中って書いてあったし、やってるよね?大丈夫?

 おばあさんちゃんと生きてる?大丈夫?救急車呼ぶ?


 私がおばあさんの前であーでもないこーでもないってしてたら

「いらっしゃい、好きな人に渡す為のパイナップルパイを作りに来たんだろ?」

 っておばあさんが言うから、私は

「はい!ユウくんのためにおいしいパイナップルパイを作りに来ました!」

 って言って、おばあさんと一緒にキッチンに向かう。あれ?なんで?


 どうしておばあさんが私の事を知っているのか聞いてみると

「そりゃ私はパイナップルパイ魔女だからね」

 って言うから、私は

「パイナップルパイってすごい!私も魔女になる!」

 って言って、ひっひっひって笑うおばあさんとパイナップルパイを作り始めた。


 待っててね、ユウくん。

 パイナップルパイ魔女直伝の魔法のパイナップルパイを作って帰るから。

 私の気持ちも魔法にかけて。

 ユウくんの好きなパイナップルパイ!いつでも作るからね?ユウくん!




 お店のショーケースに並んでいるパイナップルパイ魔女の作る魔法のパイナップルパイは、見た目は工場のとそんなに変わらない。


 だから私は気になって「ユウくんのために特別なパイナップルパイが作りたいんです。本当に魔法のパイナップルパイなんですか?」って、パイナップルパイ魔女のおばあさんを疑っちゃう。

 おばあさんは「大事なのは見た目じゃなくて中身だよ。毎日食べても飽きない魔法をかけるんだ」って優しく教えてくれた。


 パイナップルパイ魔女の教えは厳しい。


 パイナップルを煮詰めてジャムにするのに弱火にしちゃいけないって言うのに、焦がしてもいけないって言うから、ずっと掻き混ぜなきゃいけなくて腕が痛い。


 パイ生地を作るときも時間をかけるとバターが溶けるって何回もやり直しをさせられて、冷たいバターのせいで手がかじかんで痛いし脂まみれでヌルヌルする。


 でも、それだけ苦労して作ったパイナップルパイはとてもおいしくて、今まで私が作ったボソボソのおいしくないパイナップルパイと大違い。本当に魔法みたいにおいしい!私が泣いて喜ぶとパイナップルパイ魔女のおばあさんも一緒に喜んでくれた。これでユウくんに会いに行ける!




 魔法のパイナップルパイが出来た。

 おいしい魔法のパイナップルパイが出来た。

 後はこれを持って帰ってユウくんに渡して「毎日私の作るパイナップルパイを食べてください」って言うだけで私とユウくんはゴールイン!でも大変!魔法のパイナップルパイを作っていたから帰りの飛行機に間に合わない!


 慌てて喫茶店から出てみると、そこにはパイナップルパイ仙人が。

「おじょうちゃん、お急ぎかい?パイナップルパイを届けるんだろ?」

 って言うから、私は

「お願いします!ユウくんに魔法のパイナップルパイを食べてもらうんです!」

 って言って、おばあさんにお礼を言ってタクシーに乗る。シートベルトもバッチリ!


 仙人タクシーがパイナップル工場の横を通る時、工場の人が

「おいしいパイナップルパイが出来たんですね、おめでとうございます」

 って言って、手を振ってくれて

「業務外の事なので大きく言えませんが、頑張ってください」

 って受付のおねえさんも言ってくれた。ありがとう!頑張る!


 空港に着いてタクシーを降りたら、変なおにいさん達が

「ヘーイお嬢ちゃん、よく頑張ったな!パイナップルパイも喜んでるぜ!」

 って言うから、私は

「ありがとう!次に来た時はおにいさん達にもごちそうするね!」

 って言って、登場ゲートを通って帰りの飛行機に乗る。やった!間に合った!


 待っててね、ユウくん。

 私、ユウくんのためにおいしい魔法のパイナップルパイを作れるようになったから。

 だから、ちゃんと受け止めてね。

 私が作った魔法のパイナップルパイを毎日食べてください!クラスで一番かっこいいユウくん!




 パイナップルパイを持って。

 おいしい魔法のパイナップルパイを持って。

 ユウくんの下駄箱に入れた『体育館の裏に来て下さい。渡したい物があります』って手紙をユウくんが読んでここまで来てくれるのを待ってる。心臓はバクバクしているけれど、おいしい魔法のパイナップルパイを作ったんだから大丈夫だ!


 私が覚悟を決める前に、クラスで一番かっこいいユウくんがやってくる。

 ユウくんはきょうもかっこよくて、とっても爽やかでイケメン!

 だから私は緊張して、「パイナップルパイを食べてください!」

 って言って魔法のパイナップルパイを差し出しちゃう。違うの!言いたいのはこれだけじゃないの!


 ユウくんは私と魔法のパイナップルパイを交互に見ながら

「ごめん、俺、パイナップルが好きじゃないんだ」

 って言うから、私は

「え?パイナップルパイが好きなんじゃないの!?気になってたんじゃ無いの!?」

 って、大きな声で問い詰めてしまう。ちょっと待ってよ、話が違う!なんで?どうして?


 ユウくんは私の胸と魔法のパイナップルパイを交互に見ながら

「パイナップルパイってパイが二つだし、ナップルがおっぱいみたいだから気になってたんだよ」

 って言うから、私は

「紛らわしいこと言わないでよ!私の気持ちを返して!」

 って叫んで、キョトンとしているユウくんの口においしい魔法のパイナップルパイを詰めて黙らせた。


 なんでよユウくん!

 クラスで一番かっこいいから信じてたのに!もう本当にサイアク!ユウくんの変態!変態!

 こんなはずじゃなかったのに!なんでよ?どうして?

 ああんもう!せっかくおいしい魔法パイナップルパイ作れたのに!ユウくんのバカ!




 でも、やっぱりクラスで一番かっこいいから好き。

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