9話ー4章 分かれ道




● ● ● ● ● ●




"勝利"は公平だ。


過去や過程に関わらず、条件を満たした者たち全員に"それ"は与えられる。


そこには、美学だとか気持ちだとか、フワフワしたものは全くない。


ただの事実、現象としての強さの証明。


だから、俺は"勝利"が大好きだった。


"それ"を積み重ねる度、自分がより優れた存在であることを確認できた。


チームの幹部に誘われた事も、強者の証だと思った。


だが、すぐに気づくことになる。



―――自分は、"真の強者ではない"。



他の幹部たちは、全員が規格外の化け物たちだった。


自分は足元にも及んでいなかった


甘かった。


"勝利"とは、彼らのためのものだったのだ。


彼らだけではない、マスタークラスは誰も彼もが化け物だ。


………。


……いや、違う。


マスタークラスに1人、場違いの"弱者"がいることに気が付いた。


あんな奴よりは、まだ俺の方が!!




そして、思い知る。


自分は"その弱者にすら勝てない"ということを……




● ● ● ● ● ●




相手がスゴイから、強いから笑う?


佐神には全く理解できない感情だった。


望美の言葉に不快さを感じながらも、佐神はターン終了を宣言した。




----------------------《5ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●  〈佐神 魁〉

  ドロシー Lv1   ゲートデビルLv1


   Lp 100      Lp 100

   魔力0→4     魔力3

   手札1→2     手札1


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---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉

ドロシー Lv1/100/100



〈佐神 魁〉

ゲートデビル Lv1/0/0

《煉獄剣士ボルグ》Lv6/攻600/防400

《地獄門》永続アイテム

-------------------------------------------------------------------




『行くよ、マスター!!』


「うん!!」


望美はドローカードを手札に加え、元々持っていた方のカードを掴む。


「まずは《ドロシー》の効果!!《シルフィード》の効果をコピーします」


これにより、召喚に必要な魔力が1度だけ捨て山のスペル数だけ少なくなる。


続けて、望美は掴んでいた手札を天にかかげて宣言する。


「そして、《復活》!!捨て山の《オズ》を召喚です!!」



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《復活》

Lv0 通常スペル

●:自分または相手の捨て山のユニット1体を召喚する。

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《疾風のシルフィード》

Lv1/攻撃力0/防御力100

タイプ:風,精霊

●:捨て山にあるスペルの数だけ、同じタイプのユニット

の召喚に必要な魔力を1度だけ減らす。

このターン、自身は攻撃できない。

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望美の捨て山には《守護結界》《召喚門》《カードバリア》 の合計3枚。


これにより、レベル7の《オズ》も魔力4で召喚可能となる。



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〈玉希 望美〉 魔力 4→0

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最強の魔術師が再びフィールドに姿を現す。


「ぐっ、こうも容易く再召喚だと!?」


予想外の展開に、佐神は少し驚く。


「さあ、《オズ》の攻撃です!!」


『【究・極・呪・文】!!』


《オズ》の杖から七色の魔力球が放たれ、《ボルグ》を襲う。


「通さないぜ!!《魔力まりょく障壁しょうへき》だ!!」



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《魔力障壁》

Lv3 通常スペル

タイプ:結界

●:ユニット1体はこのターン破壊されない。

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--------------------------------------------

〈佐神 魁〉 魔力 3→0

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カキィィィン。


《オズ》の攻撃は、防御の魔法陣によって弾かれた。


「せっかくの逆転の一手、防がれて残念だったなぁ!!」


佐神は心底嬉しそうに笑う。


そう、この笑いは自分が"格上の存在"であることを実感できたことによるものだ。


自分の強さを証明した喜びだ。




―――相手が強いことが嬉しいだと?




相手の強さを認めること。


それはつまり、自分が弱いことの証明だ。


弱さを、敗北を、喜ぶ奴など、いない。


そのはずなのに!!


望美はまだ、その逆境ぎゃっきょうの中を嬉しそうに笑っている。


「すみません。楽しくて、つい」


……佐神には、理解できない。





「玉希さんって、前から"ああ"だったっけ?」


新地は少し、違和感を感じた。


確かに以前から、彼女は逆境に立ち向かう心の強さを持っていた。


でも、"逆境を楽しむ"そんな姿を見るのは初めてだった。


「望美さんも変わったのですわ、きっと」


それが先日の経験よるものなのかは、巻宮には分からない。


でもきっと、この変化は"成長"と呼ぶものなのだろう。


大切な友人の小さな変化を、彼女はそう歓迎した。






----------------------《6ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉   〈佐神 魁〉●

  ドロシー Lv1   ゲートデビルLv1


   Lp 100      Lp 100

   魔力0       魔力0→4

   手札1       手札0→1


-----------------------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉

ドロシー Lv1/100/100

《至高の魔術師オズ》Lv7/攻700/防600


〈佐神 魁〉

ゲートデビル Lv1/0/0

《煉獄剣士ボルグ》Lv6/攻600/防400

《地獄門》永続アイテム

-------------------------------------------------------------------




「なら望み通り、敗北を与えてやる!!」


佐神は荒々しくドローする。


「さっき捨てた、2枚目の《復讐の亡霊》の効果だ!!《オズ》 の防御を下げる!!」


佐神がそう宣言すると、再び地面よりわき出た亡霊がナイフで《オズ》を切りつける。


「さあ、《ボルグ》。目障りな魔術師を叩き切れ!!」


防御力の下がった《オズ》を《ボルグ》の攻撃が襲う。



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《復讐の亡霊》

Lv2/攻撃200/防御0

タイプ:闇,死霊,呪い

●:捨て山から自身を隔離して発動する。

相手ユニット1体の防御力を100下げる。

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-------------------------------------------------------------------

《煉獄剣士 ボルグ》攻撃力600 


         VS 


《至高の魔術師 オズ》防御力600→500

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振り下ろされた大剣が、《オズ》の体を切り裂く。


「《ボルグ》の効果発動!!700ダメージで、ジエンドだ!!」


《ボルグ》の大剣より電流が流れ、それが地面を伝って望美に迫る。


その足元に届こうとしたその瞬間。


望美が動いた。


「レベル0スペル《アンコール》!!対象は、《仕組まれた再会》 !!」


「ア、《アンコール》だとぉ!!!」



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《アンコール》

Lv0 通常スペル

●:相手の捨て山に存在する通常スペル1枚を選ぶ。

それを相手に強制詠唱させる。

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《仕組まれた再会》

Lv1 通常スペル

●:捨て山から最もLvの高い相手ユニット1体を魔力を無視して復活させる。

そのLvの半分(小数点以下は切り上げ)の魔力を得る。

その後、1枚ドローする。

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《アンコール》の効果は、捨て山の相手スペルを強制詠唱させるというもの。


つまり、《仕組まれた再会》によって望美の捨て山のユニットは復活する。


「来て、《ファイヤーウォール・ゴーレム》!!」


望美の声に応え、赤レンガのゴーレムが現れる。


『その能力は【防御壁】!!効果ダメージを0にするよ!!』


ゴーレムの手が電撃を遮り、望美を守る。



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《ファイヤーウォール・ゴーレム》

Lv2/攻撃0/防御200

タイプ:炎,地,岩石,人形

●:1ターンに1度、自分が受ける最初の効果ダメージは0になる。

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「望美さんのピンチを、あの子が救ってくれるなんて……!!」


望美の危機を救ったカード、その元持ち主の巻宮はその活躍に歓喜する。


しかし、同時に疑問が浮かぶ。


「でも、いつの間に捨て札に???」


この試合中にあのユニットは登場していないはずだった。


しかし、新地がすぐにその答えに気がつく。


「……!!《カードバリア》のコストか!!」


《詠唱妨害》に防がれ、無駄に終わったはずの防御カード。


そのコストで捨てたカード、それが《ファイヤーウォール・ゴーレム》 だったのだ!!




「………………」


突如として現れた壁、それを見た佐神はボウゼンとしていた。


自分のスペルを利用されたから?


召喚されていないカードが復活したから?


いや、違う。


ボウゼンとした理由。


それは、―――


「……なぜだ。……なぜ、さっきのターンで《アンコール》を使わなかった?」


そうなのだ。


《仕組まれた再会》で《オズ》を復活させていれば、魔力を多く残せていた。


さらに、《復活》で別のユニットを召喚する事もできた。


《オズ》で《ボルグ》を破壊すれば、それらを使って佐神のライフを0にすることすら狙えていた!!


………だが、しなかった。


「《オズ》の攻撃で《ボルグ》が破壊できない。……それが分かっていたのか?」


そうとしか、思えなかった。




「佐神さんなら、きっと防ぐ。………そう思いました」




それは"相手の強さ"を認めていなければ、絶対に出ない答えだった。


それは佐神にとって、"ありえない答え"だった。


だが、その"ありえない答え"が確かに、望美の危機を救ったのだ。


…………。


佐神は動かなかった。


虚空をにらみ、手を震わせ、ただジッとしていた。


そんな彼に、誰も声をかけれなかった。


………しばらくの間があって、ようやく佐神は動く。


それは、ドロー。


《仕組まれた再会》の効果によるドローだった。



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〈佐神 魁〉 

魔力 4→3→4

手札 1→2

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「………俺は《分かれ道》を使用する」


佐神はそのドローカードを場に出し、そう宣言した。



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《分かれ道》

Lv2 通常アイテム

●:2つの効果から1つを選択する。

 ●:次の自分のドローを2枚にする。

 ●:捨て山のLv1以下のスペル1枚を自分の手札に戻す。

   次の自分のターン終了時に、自分はLpを全て失う。

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「分かれ道……」


『また面白いカードを使ってきましたね』


それは文字通り、運命の分かれ道になるカードだった。


2つの効果から1つを選ぶ効果を持つ変ったカード。


1つは次のドローを増やす簡単な効果。


しかし、もう1つの効果が曲者くせものだ。


それは、すでに使ったスペルを再利用できる代わりに、次のターンで決着をつけなければ敗北するというトンデモない効果だ。


1つ目の効果を選んで次のターンの手数を増やす、それが普通だ。


2つ目の効果は、リスクが重すぎる。


だから当然、佐神も選んだ。




「俺は、………2つ目の効果を選択する!!」




重すぎるリスクに見合う、その選択を。



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