第141話 嫌なことの効能

しなければいけない嫌なことというのは大人になると減るのだろう、大人は嫌なことなどしなくていいのだろう、漠然とそう思って中年を迎えたわけだが、特にそんなこともない。嫌なことは、年齢にかかわりなく、存在する。


たとえば、会いたくない人と会わなければいけないこと、など。


そんなもん、断ればいいだろう、という話なのだが、まあ世のしがらみというやつにいっぱしわたしもとらわれまして、なかなかそうもいかない。


こっちは特に会いたくもないのだが、あっちが会いたがっている。嫌われている人はそういうものである。自分が嫌われていることが分からない。


あー、やだやだ。


……と、そう思っていると、この嫌なことの中にもいいことがあることに気がついた。


というのは、この嫌なことに比べたら、「ちょっと嫌なこと」が、嫌ではなくなったのである。ちょっとめんどいなあと思っていること、何だったら、もう仕事がそれなのだが、その仕事を初めとして面倒くさいからあんまりやりたくないなあ、と思っていたことが、輝きを持ち始めた。


やつと会うことに比べたら、なんて、楽しいことなんだろう! と。


嫌なことの中にもいいことというものはあるものである。


……待てよ、だとすると、嫌だと思っている今回のことよりもなお嫌なこと、「本当に嫌なこと」というものを想定すれば、今嫌だと思っているこのことも輝きを持ち始めるのだろうか。


うーむ……やつと会うことよりも嫌なこととは何か。


まあ、まだ時間があるので、考えてみよう。

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