第128話 なぜ書くか

毎日毎日愚にもつかないことを書いているけれど、お前はなぜ書くのかと問われれば、定まったしっかりとした答えを返すことはできないかもしれない。公式の答えはある。わたしの言葉を欲する一人のためにというのがそれだが、どうもそれは正確ではないような気がする。では、正確にはどういうことか。正確には、書く以外にすることが無いからである。登山家になぜ登るのかと問えば、「そこに山があるからだ」というのは実はかっこつけた答えであり、「山に登ること以外にすることはないからだ」というのが正確なところではないか。書くことが、他人のためであったり、思考整理のためであったり、そういう面は確かにあって、これは全く間違いではない。しかし、もっと根源的なところに思いを致してみれば、もうそれ以外に特にすべきこともないというところに落ち着くのである。ここにいたって、書くということが、書くことを生きるということになる。兼好法師という人は、つれづれなるままに文章を書いたが、つれづれだったから文章を書いたわけではない。

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