第74話 分からない人は分からないことが分かっていない

「無知の知」という言葉がある。


哲学の祖と呼ばれるソクラテスが言った言葉である。知らないということを知っている。何てことのない言葉のようにも思われるけれど、よくよくと考えてみると、これはなかなか奥深い言葉である。


知らないことを知っていると言うためには、その物ごとについて十分に考える必要がある。「知らない」と言っているだけでは、ただのバカである。その物事についてよくよくよーく考えてみて、ついに分からないという地点に到達したというのでなければいけない。ということは、その物ごとについてはもう十分に知っているということだ。分からない、理解不能だと断定できるほどに、知っている。


無知の知を、「人は物事について知ったかぶりしないで謙虚でなくてはならない」というような文脈で使う人が多いようだけれど、全くの誤解である。そんな生半可なものではない。そもそも知るとはどういうことなのか、それを考えないといかんよ、とこの言葉は告げているのである。


分からない人は、分からないということがどういうことか分かっていない。


分からない人は自分が分かるように分かろうとする。そこに反省が全く無い。分からない人は、分からないという事態がどのようなものなのかが分かっていないのである。無知の無知。またの名をバカの壁。壁があるからバカなのではない。壁があることが分かっていないからバカなのである。

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