第57話 星の友情――「つながらない」価値
つながらない価値というものを考えてみたい。人とつながらずに、一人きりでいることの価値である。
つながって、みんなで何かをやることの価値とは、承認欲求が満たされることや、一人ではできない大きなことができることが挙げられるだろう。まあ、それはそれでいい。他人に認められると嬉しいものだし、万里の長城は一人では造れない。
わたしが、「みんなで何かをやる」ということに関して注意しておきたいのは、みんなでやることによって、確実に間違えてしまうことがあるということである。そこに、「つながらない」ことの価値がある。
みんなでやることによって確実に間違えてしまうこととは何か。それは、考えることだ。考えるとは、何について? 自分の人生について。
自分の人生については、みんなで考えることはできない。なぜなら、それぞれの人生はそれぞれに固有のものだからだ。みんなで、ある人の人生について考えるというわけにはいかない。
人生を考えるというと抽象的で、そんなことをみんなでやることなんてあるのかな、と思うかもしれないけれど、具体的に言えば、「どうすればよりよい人生を生きられるかみんなで考えましょう」的な、ライフハック、スピリチュアル、自己啓発、哲学対話系サークル活動のことである。
人生一般などというものはどこにもない。人は自分の人生を生きることしかできないわけだから、他人が他人の人生の中で得たことを、自分の人生に適用することなどできないのである。人は、一人で生まれてきて、一人で死んでいくというのは、誰も認めることだと思うけれど、なぜだか、生きて死ぬまでの間は他人と共有できるものだと思い込んでいる。
自分の人生について考えるときは、一人きりで考えなければいけない。自分の人生を他人に委ねてはならない。それが自分の人生を生きているということの価値だからだ。生きることについて考える際に集団になる人は、生きながらにして既に死んでいると言ってもいい。あなたの人生はあなたのものであり、他人に規定されるものでは決してない。
ここに、大海原を、一つの星を目印にして、しかし、それぞれ別の目的地を目指す二つの船がある。その二つの船は海路を異にするので、決して出会うことがない。しかし、目的地を持って進んでいることは二つの船に共通しており、もしも出会うことがあったなら、深く共感し合うことだろう。そうして、彼らは、そのような自分以外の船が、この海のどこかにあるはずだということを、知っているのである。
わたしは、ひとりきりそのような航海を続けている人にひそやかなエールを送ろう。そのような人がいるということは、わたしの妄想だろうか。いや、そうではない。必ずいるはずである。しかし、それを知ることはできない。同じ星を見ることはできるけれど、決して出会うことはない。つながらないことで実はつながっている星の友情。「つながらない」価値について、提唱したいのが、これである。
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