下心くすぐり系女子

嘉田 まりこ

「ねぇ、どっちがいいと思う?」


 彼女は鏡越しに目線を合わせながらそう俺に問いかけた。背中には黒いレザーに金のファスナーがついたリュック、軽く曲げた左腕にはワインレッドの小さな鞄。

 リュックの肩紐に両手をかけて右半身を映したかと思えば、左腕を伸ばしたり折り曲げたりして小さな鞄の色カタチを確認する。

 もうかれこれ30分以上だ。


「そもそもリュックが欲しいって言ってなかった?」


 そうだ、今日俺は彼女に『リュックが欲しいから買い物に付き合って』と頼まれたからここにいるんだ。

 なのになぜか、決まりかけていたリュックの隣の棚にちょこんと置かれていたそのバックを見つけた途端、彼女の予定は崩れてしまった。


「それに、そういう小さいバックいっぱい持ってなかった?」


 携帯と財布くらいしか入らないような、たくさん詰め込んだら形が崩れるようなそういうやつ。


「持ってないよ、この色は! しかもフリンジが付いてるもん」

「そうですか」

「そうだよ」


 彼女は、また鏡の中の虜になった。

 長い髪を片側に集めたり足をクロスさせたりしながら、おそらく色んなシーンでどう見えるかを想像してる。


 女物がたくさん並ぶ店内をうろつく勇気もない俺は、彼女の斜め後ろから移動も出来ず、ただ鏡に映る彼女を眺めるだけだった。


 リュックに隠れてしまう小さな背中。

 小さな鞄の影に隠れた太もも。

 そんなものよりも。


 迷う度に尖らすその唇。


 赤でもピンクでもない、世の中に存在している名前では表せない色味。瑞々しい、艶っぽい、そんな言葉でさえも表せない光沢。

 口紅なのかリップなのか不明だが、ちょうどいい薄桃色と濡れ感キープの超優れものは、グミのようにぷくっとした彼女の唇をさらに魅力的にみせている。


 ただの友達関係にある彼女に、そんな視線を送ってしまう男の下心を情けなく思うけど、頭の中はこればかり。



 その唇に触れてみたい。



「――ねぇ! 聞いてる?」


 急に振り返り俺の目の前に詰め寄った彼女。俺を見上げているせいで、いつもよりはるかに顔が近い。

 突然の至近距離に俺の顔から耳までが、ぼぼぼぼっと音を立てて赤くなった。彼女もこの変化に気付いたようで、恥ずかしそうにそっと一歩後ろに下がった。


「……どっちがいいと、思う?」

「どっちもいいけど」

「いいけど?」

「……リュックの方が可愛いと思う」


 予想していなかった可愛いという単語に彼女は照れたようだったが、小さな鞄へと流れていた気持ちは一気にリュックへ戻っていった。


「リュックにしよっかな、うん」


 尖っていた唇はゆっくりと横に伸び、そして、ぷるんっと甘い笑みを描いた。



 *******


 ひとつめは唇です!


「好きな体のパーツランキング」がもしあるならば、最近グン!と順位を上げた気がするのですが、そう思っているのは私だけでしょうか(笑)

 おそらく、あの女優さんの影響でしょう!


 ちなみに私は男性の背中が好きです。


 なので試着中、鏡に映った正面の男性は見ていません。ひたすら背中を見ています。

 もしくは鏡に映った背中を見ています。


「これどう?」と聞かないでください。


 背中のシルエットで良し悪しを決めてしまう可能性大!ですので(笑)

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