死神
十年前のある日、私は淡々と人間軍からの侵攻を魔王様の命令通りに食い止めておりました。人間軍の作戦や人数もあり大変な戦いはありましたが、魔王様の命令を完遂するために皆が一丸となって戦い、侵攻を押しとどめています。
人間共はいつも負けているのに何故攻めてくるのか理解に苦しむな。……今でも。
当時、私も前線で戦っておりました。その時の侵攻は大規模だったからです。人間軍は二十万人ほどいたと思います。たいして、我が軍は十万ほど。人間軍は守りの強固な場所を攻撃してきたのです。何を行いたかったのかは今も不明なのですが……
まさか、人間軍はエルスメディオン街道を通ってきたのか! 馬鹿者共め!!
その通りです。そして、御察しの通りに“
何故、奴らを刺激する道を通ったのか理解できんな。人間軍もこの魔族領の情勢くらい知っているはずだろうに。我が軍には奴らは攻撃をしてきたか?
はい、その時は我が軍にまで攻撃をしてきました。いつもは攻撃をしてこないのに…
……ルグリウスがいたから攻撃するしか無かったのだろう。そうだな?
はい。
ルグリウス様は先陣に立っていました。あの腐った臓物のような禍々しい色の鎧と長剣を手に持ち、同じような色の鎧をつけた馬にまたがっていました。
…………ッ…………すみません。
ゆっくりで良い。お前の恐怖は私の恐怖だ……お前一人ではない。“
……魔王様。……私は貴方様のもとにいることが出来ることに感謝いたします。……ルグリウス様に仕えていたらどうなっていたことか……。すいません、話が逸れました。
ルグリウス様はまず、人間の軍勢を左翼から殲滅していきました。一振り毎に五人、多ければ十人以上もの首を切り落としていました。ときどき魔法も使い、百人、いや五百人と殺しました。その姿はまさに、ルグリウス様自身の性、
あの方は……ヒトを殺すという行為を、まるで遊んでいるかのように笑いながら……。
……ここまで怖かったか。だが、我はこいつに恐怖を感じないからな。私が落ち着いていて気が楽だろう? ……感情でわかるな。
……ええ。落ち着いています。とっても。
ルグリウス様は目の前の人間を殺し尽くし、私の目の前に来ました。そして、こう語りました。鮮明に覚えています。軽薄な口調だからこそ、やはり余計に、恐ろしく感じてしまいました。
「お前はアランのとこの……メイルとか言ったか? ……なぁ。お前、なんでアランのとこなんかに居んだよ? こっちこいよ。お前の実力なら俺の軍の大将軍に据えてやるぜ? もしかして、あれか。アランみたいな、人間と共存目指すみたいな……吐き気がすること考えてるクチか」
それを聞いて私は魔王様が馬鹿にされたような気がして、「その通りです! 何が悪いと言うのですか!!」と、反発してしまいました。浅慮だったのだと、今では思います。
我の為に怒ってくれたのだろう? ならば叱りなどせぬさ。正しいとも言わぬが……そうだな、ありがとう、メイル。我はただ感謝だけを語るとしよう。
このような愚かな者に……恐縮、です。
そして、その言葉がルグリウス様の琴線に触れたようでした。剣を抜いて、私に切っ先を向けて。
「は? なに反発してんだ、お前。生意気だな? 殺すぞ」
私はルグリウス様が放つ殺意、と力の差を感じて……恐怖しました、その時すでにルグリウス様は長剣を振り上げていました。私は足がすくみ、座りこんでしまっていました。
たまらず、周りに助けを求めようとしましたが、部下たちは黒骸軍に襲われ、疲弊していたために攻撃を防ぐのに必死でした。私は死を覚悟したとk……!? ま、魔王様! お気をお静め下さい!!
……すまない。だが、許すことはできんな。
……ルグリウス様は何かを思ったように剣を鞘にしまいました。
「まぁいい。アランって勇者に殺されたんだろ? ざまぁねぇな。お前殺すとあの世で会ってめんどくせぇことになりそうし、いいや。俺、あいつ嫌いだし。で? どうする? 引き上げて欲しいか? 今なら無償に引き上げてやるぜ? なんせ気分が良いからな。見ろやこれ、裏切り者の首。クックック、最高に面白かったなぁ、あの恐怖に歪んだ顔」
ルグリウス様は脇にいる
私は引き返して欲しいと懇願しました。不思議と屈辱を感じませんでした。相手にはどうやっても勝てないと悟ったからだと思います。そして、ルグリウス様は軍を引き連れて森の中へと消えていきました。
話の流れからすると奴はその女の首を狙ってどこかに行っていて、帰り際に戦争しているのを発見したようだな。
えぇ。私も同意見です魔王様。
◆◇◆◇
「『
アランは考えこむ。身元不明の魔族の女。アランの国――
どう特定したものかとアランが考えていると、ふと階段を急いで上ってくる足音が聞こえてきた。
隣の部屋を開く音が聞こえてきたので、アランは廊下に出ることにした。
「何の用d「さっきから呼んでるんだから来なさいよ! 下僕のバカァ!! 蜘蛛が出たからど、どど、どうにかして!!」……わかりましたから、落ち着いてください」
「私は蜘蛛が苦手なのぉ!!」
必死な面持ちで叫ぶフェアの様子を見たメイルとアランは、お互いに顔を見合わせて微笑んだ。その後もニヤニヤとしながら蜘蛛を除去したアランが死んだのは言うまでもない。
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