開戦の鬨よ、来たれり
白野廉
平成最後の夏よ
けたたましく鳴きわめく蝉と日向に居る者を焼き殺さんとする太陽。古くボロボロな木造三階建ての校舎は、今日この日においては彼らの遊び場(いくさば)となる。
ザザ、荒いノイズが一度二度。プツリ、とマイクのスイッチが入った音が軽やかに風と共に流れていった。
『ルールを説明しよう!』
耳触りの良いまろい声が、堂々とした態度をもって言の葉を紡ぐ。声高々に告げるのは此度の戦の取り決め。
『東軍、もとい赤チーム六人と西軍こと黒チームの六人に分かれ、各チームの大将首を討ち倒すことが目的である』
手に収めた銃をズボンのベルトに挟む。一丁、二丁。最後の一丁にタンクをしっかりとセットする。染められた水がチャポンと音を立てた。
『使用するのは各自用意してボクからのオッケーサインをもらった水鉄砲類。水性の絵の具を溶かして着色した水が、体の表面五割を染めたら死亡扱いとなる。やられたら自己申告するように!』
開けた窓から吹き込む風が赤いハチマキをたなびかせる。眼鏡の奥の瞳は、静かに闘志を燃やしていた。
『ルールを破った者には野球部からのケツバットがあるのでゆめゆめ忘れぬこと!』
黒いハチマキを額に巻き付け、机も椅子も撤去したがらんどうな教室で一人、開戦の合図を待つ。
『旧校舎の至るポイントにカメラを設置してある。この戦いの様子は本校舎の方に中継されていて、ボクの実況付きでそっちで観戦してる友人・OB・OG各位に垂れ流しているので、盛大に暴れるように。以上!』
遮蔽物を多く作った教室の一角で佇む、一人の大柄な眼鏡の男。全ての窓は開かれ、生ぬるい風が教室に流れ込む。彼が見据えるのは勝利のみ。
「奴らに勝利は渡しませんから」
彼が座るのならば、どんなにちゃちな椅子だろうと革張りのソファーに見えてしまうのは何故だろうか。校則違反だろうが気にせず伸ばしている長い髪を一つでくくり、気合は十全。作戦はあって無いようなもの。
「どのような戦いであろうとも勝者は俺たちだ」
キィンと一度ハウリング。旧校舎の至る所で問題児達(彼ら)が一斉に銃を構えた。
『それじゃあみんな! 平成最後の夏を始めよう!』
開戦の鬨よ、来たれり 白野廉 @shiranovel
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