勝利だギューちゃん

第1話

僕は旅立つ

都会へと旅立つ

田舎には何残していない。


歌にあるような、恋人も残していない。

なので、未練はない・・・


次にこの村に帰ってくる時・・・

それは、仕事を引退した時だ・・・

余生はこの村で静かに過ごそう・・・


それまでは、お別れだ・・・


・・・と、思っていたのだが・・・


それから、わずか数年後に僕はこの村に帰ってきた・・・

生まれ育ったこの村へ・・・


この村が、ダムの底に沈む事になった・・・

そして、最後に目に焼き付けておこうと、帰ってきた・・・


同じことを考える人はいるものだ・・・

「やあ、久しぶり」

「ああ、元気だったか?」

「お前も、帰ってきたのか?」

「最後だからな」

旧友たちと、そのような会話が飛ぶ・・・


おそらくは、泣いているだろう・・・

故郷がなくなる・・・

これほど悲しい事はない・・・



墓地はすでに、移転されていた・・・

そして、お年寄りたちも、多くは自分の子供たちのところへと、引っ越しをした。


「これこれ、この広場。よく遊んだな」

「夏祭りには、お菓子をもらったな」

「あの時だけだな。お菓子を食べられたのは」

昔を懐かしむ。


程なくして、広場が人でいっぱいになった。

この村には、学校がひとつしかない。

なので、必然的に全員が、同じ母校になる。


何も言わなくても、皆の心の中はわかった。

誰からともなく唄いだす。


母校の校歌を・・・

そして、大合唱になる・・・


いつか全員の眼に、熱い物があった・・・


それから数年して、再びこの村にきた・・・

もう水の底に沈んだこの村に・・・


山の上から、眺めていた。

でも、僕には見えていた・・・

この村の全てが・・・


「あのお地蔵さんはどうしたろう・・・」

おそらくは水の中から、この村の住民だった人たちを、

見守ってくれていると思う・・・


そう信じたい・・・




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勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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