仔にゃんこのボクが、ご主人様の色んな所をにゃんにゃんするだけ

まほろば

第1話 ぷろろーぐ

 それは、とっても寒い日のことでした。

 僕は茶色い箱に入れられて、薄い毛布の上で丸まっていました。

 ぴゅうぴゅうと吹く風はとても冷たくて、灰色の雲からはぽつぽつと冷たい雫が落ちてきます。

 最後にご飯をもらってから、たぶん一日くらいはたっています。お腹が空いて、お母さんやお兄ちゃんたちと離されて、寂しくて怖くて泣いていた僕を、大きくてあったかい手が掬いあげます。


 「この子、可愛いな」

 「ね。捨て子かなぁ?」


 かっぷるでしょうか? 全身真っ黒けの男の人と、対照的な白いコートを着込んだ女の人が、僕を見下ろしていました。


 「ねえ、奏太かなた?」

 「うーん……めろんもかれーも、怒らないかな?」

 「あの子たちなら、大丈夫じゃない? めろんだって、かれーが来た時はなにもしなかったでしょ?」

 「ああ、そっか」


 真っ黒けの男の人は、かなた、というらしいです。かなたのつがいは、なんて言うんでしょうか? ぼく、気になります。


 「そら。ここで会ったのも何かの縁だ。家に連れて帰ろう」

 「うん! でも、動物病院に連れて行った方が良くない?」

 「まず、身体を温めてあげないと。それからごはんだ」


 この人たちは、ぼくをどうするんでしょうか? もしかしたら、連れて帰ってひどい事をするかもしれません。怖いけど、お腹が減りすぎて鳴くことしかできない僕を、そらと呼ばれたつがいの人が小さくて四角い布で僕を包みます。


 それからぼくは、かなたとそらの部屋であったかい布で体をふかれたり、あったかいミルクをもらったりして、すごしました。

 大きな僕の仲間が、ふんふんと鼻を近づけて挨拶にきます。ぼくは怖くてつい手を出してしまいましたが、そのひとたちは僕に何もしてきませんでした。


 お腹がいっぱいになった僕は、用意された小さな箱に移されました。真っ白で柔らかい布のお布団と、これまた布に包まれた透明な筒。なかに水が入っているようですが、恐る恐るさわってみると、布の筒はお母さんのおなかみたいに暖かい。

 ぼくは眠くなって、丸くなりました。僕が眠るさいごのしゅんかんまで、かっぷると、大きな仲間はぼくに何もしてきませんでした。



 今から話すのは、そんな悲しい過去から始まる、ちょっとだけ不思議で、でもどこにでもありふれた、ぼくの成長のものがたりです。

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