虐殺騎士ルカ・ブラントの最期
mikio@暗黒青春ミステリー書く人
1/刑死前夜
ルカ・ブラントの最期はあっけないものだった。
魔王を討ち滅ぼした勇者は、その大功にもかかわらず、
ルカが収監されたパフュームベルク監獄では、死刑執行の前に、死刑囚を独房に移送することになっている。ルカの場合は、朝早くに処刑される予定だったため、前夜の内に雑居房から追い出されることになった。
「家族に言い残すことはないか」
独房への移動の途中、ルカを囲む警吏服姿の男のひとりが、彼に声を掛けた。
「ありません」
感情のこもらない声で、ルカは即答した。
「ならば何か欲しいものはあるか? 酒は許可できないが」
冗談としては空振りだった。周りの警吏たちがルカに声をかけた男に軽口を責めるように冷ややかな視線を向けている。
今度は答えるのに少しだけ間があった。
「ありがとうございます」
ルカはそう言ってからしばらくの間考える素振りを見せた。
「……水をいただけますか。医師の友人が水分不足は体に良くないと言っていたのを思い出しました」
今度は何人かの警吏が失笑を漏らした。これから死を迎える人間が、脱水症状のことを気にすることに馬鹿馬鹿しいおかしみを感じたのだ。
「果物をやろう。貴様にはもったいないくらいの上物の水蜜桃だ。ただし、食べるのは独房に着いてからにしろ」
ルカに声をかけた男は笑わずにそう言って、果物が入った皮袋を手渡した。
翌朝、ルカは独房の片隅で物言わぬ死体となって発見された。
ルカ・ブラントの最期は実にあっけないものだった。
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