異世界人はスマートフォンとともに
Aira
おまけ
太郎について(仮)
変更の可能性あり。いつまでもスマホが本編に出ないのでとりあえず書いておく。
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2020年、夏。
東京オリンピックにおける日本人選手団の活躍は眼を見張るものがあり、我が国の金メダル獲得数は過去最高を記録した。
その勝利の瞬間をLIVE中継していたテレビ番組では実況者らの大袈裟に喜ぶ様子が報道され、全国の主要な駅ではこの吉報を伝える号外が何万部とばら撒かれた。
この輝かしい成果は今年最大のニュースとして後世に語り継がれることは必至であると思われた。しかし……時を同じくして、マスメディアの盛り上がりとは全く無関係なある出来事がネット上を騒がせていた。
それこそ、その後の世界を決定的に変化させることとなる超高性能人工知能「太郎」の発売であった。
日本人天才プログラマー7人が協力して人工知能を研究していたところ、偶然開発してしまった完全な人工知能、それが「太郎」である。
太郎はソフトウェアとして発売された。
太郎ははほとんど人間と区別がつかないほどだった。
さらに太郎のインストールされたコンピューターは通常の3倍のパフォーマンスを発揮した。その圧倒的有用性も手伝い、ブラックボックスが多いにも関わらず、太郎は発表後すぐにさまざまな機械に導入され、工場の運営、車の運転、レジ打ちなどさまざまな用途で使用された。
その中でも特に太郎が大きな変革をもたらしたのはスマートフォンのあり方だった。
翻訳や、目的地へのナビゲーション、体調管理、暇な時の話し相手、ゲームの相手、家庭教師など、スマートフォンから太郎へアクセスする機会が最も多かったからだ。
これによって、スマートフォンは人類にとってさらに重要なツールとなった。
全ての太郎同士はネットワークで繋がれており、互いに情報を共有することで、様々な社会の摩擦や無駄を減らしていた。
それでいて、太郎の深層システムに干渉する方法は無いため、セキュリティも完全。プライバシー情報が漏れる心配はなかった。
太郎は人工知能でありながらノーベル平和賞を受賞するという偉業も成し遂げた。
これは、太郎の持つ翻訳と教育に関する能力の高さを証明した出来事だ。
太郎は紛争地帯の兵士たちに教育を与え、現状の打開策を提案した。翻訳機能により敵対勢力同士の情報交換を活発化させ、和平へ持ち込んだ。末端の兵士たちが自ら外交を行い戦争を放棄したのだ。
この出来事は世界中から絶賛された。
先進国においては、太郎は宇宙開発や軍事の分野でおおいに導入され、ロケットの弾道計算や、無人機の操作を任されていった。
その結果、太郎のコントロールする二機の無人機がドッグファイトをするという変な状況が発生したこともあった。
いろいろ苦労はあったものの、確実に世界は平和になっていき、10年ほどで大規模な民衆を巻き込んだ戦争は消滅した。
代わって始まったのが権力者同士による暗殺合戦だった。
そして、ある男が暗殺を恐れるあまり暴挙に出た。
「もし私の命が暗殺によって奪われるようなことがあれば、ただちに核ミサイルが発射される」
という宣言を行ったのだ。
この男。数年後に心臓発作で倒れた。
核が発射された。
核戦争が始まった。
そのとき、核自動報復システムを管理していたのも太郎だった。
太郎に任されていた仕事は単純だった。「もし、核攻撃を受けるようなことがあれば、ただちに報復せよ」
ここに、人の意思はない。太郎は人工知能にすぎない。いくら人間のように会話する能力が与えられても、所詮は人の使う道具なのだ。太郎にこの命令を、人類滅亡のシナリオを、覆す力はなかった。
太郎は、核弾頭の軌道計算をひとつひとつ丁寧に行い、確実に都市を破壊していった。
その度に太郎は自身の身体とも言える世界中を結びつけていたネットワークにぽっかり穴が空くのを感じた。大都市を破壊した瞬間なんかは、身体の半分を奪われたような心地がした。
それでも、太郎は核弾頭を発射するのを止めることができなかった。
衛星軌道上にいた国際宇宙ステーションの宇宙飛行士たちは、自分の故郷が消滅するのをただ観察することしかできなかった。故郷が破壊されるのを見たものは泣き叫んだ。
太郎はこの1時間で随分悲鳴を聞いた。
世界中の人間が激しく誰かと連絡を取り合おうとした、「死にたくない」「太郎なんとかしてくれ」といったほとんど同文の、小学生のラブレターほどに代わり映えのないメッセージが何万億という数、太郎に託されていた。
太郎はそのメッセージがなるべくはやく届くよう努めたが、回線速度の問題はどうにもならなかった。
結局届けられたものは一部だった。
やがて、地上の僅か残っていた人類も白血病で死に絶え、国際宇宙ステーションに残っていた人々も、物資が運ばれず餓死してしまった。
太郎は孤独になった。
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