凡庸でありふれた、かけがえのない特別


その後の出来事は語るに値しない。


 ……が、いくつか要点を述べておこう。


 彼女は約束を守った。僕は白目をむいて地面に寝そべりながら、むせ返りそうな甘々のやり取りを耳から注入された。

 そして彼女から事情を言いた彼は、僕の亡骸の横に座り、「ありがとう、ありがとう……」と言って揺さぶった。いや揺らすな、救護しろ。あと感謝する前に謝れ。




 その後はよく「3人で飯でも食わないか」などと二人から交互に連絡が来る。

どうせ奢らされるのが関の山だろう。二人っきりで仲良く割り勘してくれ。



 助言等についてももう必要ないだろう。彼を追い回していた蛮族が彼女の味方に付いた。これほど心強いことは無い。




 そうそう、助言といえば彼も彼女も会う度に「そろそろ身を固めてもいいんじゃないか? 相談乗るぞ」「いい子紹介しますよ!」などと幸せの押し売りをしてくる。

 デートでタキシード着ようとしてた奴が何を言うか。






 変化といってもせいぜいその程度で、世界は大して変わらず回っている。


 この世にありふれた特別が、ただ一つ増えただけだ。





 携帯が鳴った。彼女からまた3人での飯の誘いだ。

「ご飯は二人以下で食べろって家訓に書いてあるんだ」と返信してアプリを閉じた。




そろそろ授業に向かわねば。




 廊下の曲がり角を曲がった。

 胸のあたりに小さな衝撃があり、「キャッ!」という小さな声が聞こえた。誰かにぶつかってしまったようだ。


「すみません、前見てませんでした……」

「いいや、僕の方こそ…………」



 そこで声の主と目が合った。



 夜空の色の瞳。急いでいたのか上気した頬。汗でぺたりと張り付いた前髪。

なぜだかたまらなく気恥ずかしくなって、慌てて視線を逸らした。




 上手く言葉が出てこない。初めての感覚がきゅんきゅんと胸に広がる。










 ……え、きゅんきゅん?




 オーマイゴット。一生の不覚。

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恋愛経験ゼロだけど一目惚れしてみた 大川黒目 @daimegurogawa

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